愛は義務より良い教師である。ⅩⅩⅡ

「ちょっとみんな何やってるの~?」


 遠くの方で木下の声が聞こえる。


「ごめん花。今行く~」


 冷百合はそう返事して、身体を前に向けた。


 そして一歩進もうとして、小さく呟いた。


「ほら、行くよ。花に怪しまれる」


 それを聞いて僕はうんと返事をした。


***


「やっぱりこの地を踏んだら、ラーメンは食べないとね」


 腹の立つ顔で唇を吊り上げてそう言った木下の希望で、僕達は自由行動の三分の一を使って泣く子も黙る超有名ラーメン店にやってきた。


 電車とバスを乗り継いでようやく辿り着いたそこは一回食べるともうそこのラーメンしか食べれなくなると言われる程、美味なんだとか。


 う~ん。まぁそんな人気店なら行く前から予想できたんだが、それはやはり案の定のようだ。


「げっ!?」


 木下のそんな声を聞いて僕等は木下の見る前方を向く。


 そこには超がつくほどの長蛇の列、超長蛇の列が出来ていた。


 店の外の立て看板には二時間待ちと見たくない時間が書きなぐられている。


「二時間待ちだって。残念だけど違う所探そう」


 普通なら冷百合の言った通り諦める。が、この金髪ガン黒ギャルは諦めの悪さが物凄くエグいのだ。


 来た道をみんなでぞろぞろ撤収していると、動かない木下に気づいた冷百合が声をかける。


「花?」


「……たい」


「えっ?」


「食べたい。絶対ここのラーメン食べて帰るの!!」


 おいおい。マジかよ。それは幾らなんでもわがまま過ぎる。これが毒ヶ杜さんが言っているなら迷わず賛成するが、今回は木下の言っている事だしな。


 そもそも、ここに来るのに二時間も使ってるんだ。六時間と決まった時間の内、三分の一移動だぞ? 更に待って二時間。残り二時間を帰宅に使ったら、あっという間に自由行動終わるぞ!!


 こんなの自由行動じゃない。こんなんただのラーメン食いに遠出しただけだ。

 これは修学旅行だぞ。もっと特別感を出そうぜ?


 いや、確かに「俺、修学旅行の自由時間で六時間もあってただ、ラーメン食っただけで終わったぜ」って話のネタにはなるけど。


 そうじゃないじゃん!?


 ねぇ? 毒ヶ杜さん。


 別に口頭で言ったわけではないが、僕のテレパシーが伝わったのか毒ヶ杜さんが口を開いた。


「別にいいんじゃない。待っても。ここまで来て何もなしに帰るのは寂しすぎるよ」


「うん。僕もそう思う」


 即行、肯定。即行、賛成。


 何故って? 毒ヶ杜さんは正義だから。


「だよねだよね? 棘もそう思うよね」


「うん。きっと元々美味しいラーメンでも頑張って待って食べるラーメンはもっと美味しいと思うよ」


「僕もそう思う」


 あれ? 僕それしか言ってない?


 その話を聞いていた冷百合ははぁ~と二酸化炭素を思い切り吐き出して言った。


「もう、しょうがないな。じゃあ待とうか」


 その後、二時間後。僕達は念願のラーメンを食べた訳だけど。……うん。ラーメンは凄く美味かった。

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