愛は義務より良い教師である。ⅩⅩⅠ
***
「自由行動いえーい!!」
僕の目の前で木下がテンション高めに騒いでいる。
「うるさいよ花。周りに迷惑」
それを冷百合が注意に入る。
翌日、最初の宿泊施設を出た僕達は、修学旅行一番の楽しみである班別自由行動に移っていた。
昨日の風呂での一件はあまりにも恥ずかしすぎて、あの場にあれ以上居られなくなった僕が佐藤達を誘導して何とか毒ヶ杜さんをしっかりと穏便に丁重に送り届けた。
今日の自由行動は僕にとっても一番熱いイベントである為テンションが昂る。
僕らの班は男子が佐藤と鈴木に僕。女子が木下、冷百合に毒ヶ杜さんの六人一組だ。
「目島氏。目島氏」
遠目で騒ぐ木下とそれを注意する冷百合を見ていた僕の服をちょんちょんと引っ張って、佐藤が言った。
「どうしたの?」
「僕達はここで離脱するね。大事なアニメショップ巡りをしなきゃだから。デュフフ」
あーそういや言ってたな。そんな事。
「最後に合流すれば問題ないで候。という事で女性陣は目島殿に任せたで候」
二人は僕の肩にそっと手を置くと、うんと一つ頷いて、その場を去っていった。
そのアニメショップ巡りとやらに僕を誘わない辺り、完全に僕が生贄じゃねぇか!!
……まぁ、こっちには毒ヶ杜さんがいるからいいけど。
「よし、じゃあ時間もったいないし行こう行こう!!」
「花、いつもそればっか」
「いいじゃない。楽しい時間は多い方がいいでしょう……てか、デブと出っ歯は?」
デブと出っ歯って。いや、確かにそうだけど。
「二人は行く所があるって二人で行動するみたい」
生贄役の僕が二人のフォローをする。
「はぁ? 班なんだから集団行動しろっつうの。ブタとガリ」
ブタとガリって。怖っ!? 木下怖っ!
「まぁいいわ。いてもいなくても変わんないし、気にしないすみれ、棘行こう」
木下は本当に自分勝手で気分屋。同じギャルでも冷百合とは偉い違いだ。
「待って花」
行って先頭をずんずん進む木下を冷百合が追う。
「私達も行こうか、目島君」
「うん」
本当は毒ヶ杜さんと二人で回れたらよかったけど、まぁ、付き合ってる事をみんなに知られるわけには行かないし仕方ない。
……ってそういえばあの事まだ毒ヶ杜さんに言ってなかった。
「毒ヶ杜さん」
「何? 目島君」
僕は昨日助けてもらった命の恩人の話をした。
「えぇ!? すみれに付き合ってる事言ったの!?」
「う、うん。助けてもらったし、事情も説明しないと行けなくて。でも冷百合はその……信用できるかなって」
「まぁ、そりゃすみれは悪い子じゃないけど」
「私が何だって?」
気がつけば当の本人である冷百合が僕等二人の前に立っていた。
「うわっ、冷百合」
「何よ。うわって」
「先に行ったと思ってたから驚いちゃって」
「何やら熱々カップルさんが公衆の面前でイチャついてるのが見えたから、戻ってきたのよ」
紫をベースにした服装で腕を組んで、こちらをジト目で見ながら冷百合は言った。
「「あ、熱々カップル!?」」
僕と毒ヶ杜さんはその言葉をハモらせた。
「ちょっと皮肉言ったのよ!? 二人して真っ赤な顔しないでよ」
僕らは顔を見合わせて真っ赤な顔ではははと笑いあう。
「たくっ。のろけてくれちゃって!」
「痛い!!」
思い切り冷百合に尻を蹴られた。
「ちょっと顔貸しなさい」
「うわっ」
言って冷百合は僕の襟元を掴んで、ぐいっと引き寄せて、毒ヶ杜さんとは反対側に僕を引っ張った。
「いい? これだけは言っとく。本音を言うと、私はあんた達の事納得してないし認めてない。私は棘が好き。この気持ちはアンタにも負けない。でも、私は棘の幸せを一番に願ってる。これが棘にとって幸せなら私はそれを壊す事は出来ない。だから全力で死ぬ気で棘を守って幸せにしなさい! じゃなきゃアンタを絶対に許さないから」
真っ直ぐな目で冷百合は僕を見る。
僕もそんな冷百合を見て答える。
「分かってる。絶対に幸せにしてみせる」
僕の覚悟を分かってくれたのか、冷百合は僕から視線を外した。
「ふっ。童貞がカッコつけても、カッコよくないわよ。……あと、精々浮かれて火傷しない様にね」
言って冷百合は僕の襟を離した。
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