愛は義務より良い教師である。ⅩⅩ

 急に耳を塞がれて困惑する毒ヶ杜さん。


 僕は君を守ると決めたんだ。その為なら僕はどうなっても構わない。


 君が穢れるくらいなら代わりに僕が穢れてやる!!


 毒ヶ杜さんを傷物には絶対にしない!!


 毒ヶ杜さんの耳を塞いでいるから、自分の耳を塞ぐ事が出来ない。


 ……これでいい。毒ヶ杜さんを守れれば、例え、友達の小便の音を目の前で聞かされても、僕は構わない!!


「ふぅ。すっきりした。失礼したね目島氏」


 そう言い残して佐藤は扉を開けて出て行った。


 ……僕、穢されちゃった。


 っていうか佐藤!! お前手はちゃんと洗えよ?


 毒ヶ杜さんの耳から手をゆっくり離す。


「何々? 今のは何だったの? 目島君」


 どうやら毒ヶ杜さん全く気づいていなかったようだ。


「分からなかったなら、それでいいよ。世の中には知らない方が幸せな事もあるんだよ」


「えぇ~」


「それより! ここから出る事の方が優先事項だ」


「確かに!!」


 と言っても作戦はない。だから、冷百合にをそのまま真似させてもらう事とする。


「聞いて毒ヶ杜さ……はっ!?」


 目の前の佐藤に気を取られていて、今更今の状況に気がついた。


 シャワーは浴槽の中に沈めて置いてある。つまり、転んだ僕は尻がびしょびしょなんだけど、僕が守ったとはいえ、一緒に転んだ毒ヶ杜さんも少なからず衣服が濡れてしまっている。


 服が濡れて中が透けてしまっている毒ヶ杜さんは物凄く色っぽい。


 ……やばっ。鼻血出る。


 今の僕達の体勢と言えば、浴槽に完全に尻がついた僕の上に毒ヶ杜さんが乗っかる形になっている。


(まずい!! また、倅が反応する!!)


 抑えろ僕。抑えろ僕。抑えろ僕……


 深く息を吸い込んで深呼吸をする。


 静まれ。静まれ。平常心平常心。


「どうしたの? 目島君」


 後ろにいる僕に毒ヶ杜さんは振り向いて言った。


(ああっ!! 動いちゃダメ!!)


「大丈夫!? 目島君凄い顔してるよ!?」


「だ、大丈夫……何でもない……よぉ」


 せっかく沈静化した倅が今の運動で復活しそうだ。


 まずい。このままだと僕の倅はずんぐりむっくりだ。だだだ。


 早く、何とかしないと……


 とりあえず今のこの体勢を何とかしないと。


「毒ヶ杜さん、ちょっと立てる?」


「う、うん。ちょっと待ってね」


 言って毒ヶ杜さんは立ち上がろうとする。


「きゃあ!?」


 今度は立ち上がろうとした毒ヶ杜さんが足元を巣食われて、転びそうになる。


「……」


「……」


 時が進むのは、あっという間だらう。


 さっきまで立ち上がろうとしてたはずなのに何でこんな状況になっているんだらう。


 僕の倅と毒ヶ杜さんの顔面が至近距離という修羅場にどうしてなっているんだらう。


 何かよく分かんないけど、涙出てきた。……だらう。


(ああああああああああ!! 見られた!! 二回も!! もう僕お婿に行けない!)


 はっ! ってか、毒ヶ杜さんの方がショックでかいじゃねぇか!


 心配になって僕は毒ヶ杜さんを見る。


「ごめん。毒ヶ杜……さん?」


「ふふふっ」


 何か笑ってる。


「目島君」


「はい」


「やっぱり目島君は正直者だね……私は嬉しいよ」


「えと……ちょっと言ってる事が分からないんだけど」


 口元をにっとしていたずらに笑って毒ヶ杜さんは言った。


「だから、私の事考えてここがこんなになっちゃってるんでしょう? このしょーじき者さんめ!」


「あ、あわ、あわわわわわわわ……」


 恥ずかしすぎて、顔から火が出るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!


 やっぱり、僕は彼女には勝てないみたいだ。

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