愛は義務より良い教師である。ⅩⅨ
「あっ、目島氏。一体どこに行っていたんだい」
玄関の戸を開けると、僕に気がついた佐藤がこちらを見てそう言った。
「いや、ちょっとトイレに。って二人は何してるの?」
見れば佐藤と鈴木は何やら箱の中に無造作に置かれたバラバラなパーツを一生懸命組み立てていた。
「何ってアイアンフィストの1/100スケールを作っているんだよ」
「目島殿も一緒に作るで候。みんなでワイワイ作った方が楽しいで候」
「……」
「どうした? 目島氏」
「……い、いや何でもない」
何で修学旅行に来てまでプラモ作ってんだよ、お前ら!! 他にやる事あるだろう。
「一緒に作るかい? 目島氏」
「僕はいいや。それより先にお風呂貰ってもいいかな?」
今はいち早く毒ヶ杜さんの様子を確認しないと。早く助けてあげないと。
「あぁ、構わないよ。僕達はこれを作り終わってから入るから」
「ありがとう。じゃあ先に貰うね」
言って僕は自分のバッグから着替えを持って、急いでユニットバスに駆け込んだ。
「毒ヶ杜さ~ん?」
声が聞こえないようにシャワーを全開に出して毒ヶ杜さんを呼ぶ。
「……っていなくね?」
トイレと合体したユニットバスのどこを見渡しても、毒ヶ杜さんの姿がない。
一体、どこに行ったんだ? もしかしてここから移動したとか?
いや、でも向こうにはどこにもいなかった。……まさかベランダ?
勢いよくそこから出ると、僕はプラモを熱心に作る二人をすり抜け、ベランダに向かった。
「目島氏。どうかしたかい?」
「いや、気にしないでプラモに集中していいよ」
「そうかい」
開けっ放しになったベランダを見るが、そこには僕が落としたロープが無造作に置かれただけで毒ヶ杜さんの姿はない。
(ここにもいない……)
一応、ロープは見えないように端に寄せて、風呂に戻る。
「どこに行ったの!? 毒ヶ杜さん」
思わず独り言を零す。
まさか、自分で何とかして戻ったとか? だってどこにもいないもんね。
とその時だ。
「ここだよ~目島君~」
背後から声がした。
「えっ!?」
慌てて後ろを振り向くが、そこには誰もいない。
「目島君~ここ~」
違う。後ろじゃない。声もしっかり聞こえるし。……これは、上だ。
上を見上げると風呂の天上についた蓋のされた空洞に毒ヶ杜さんの目がぎょろっと見える。
「毒ヶ杜さんそんなとこにいたの!?」
「目島君遅いよ~一人にされて寂しかったんだからぁ~」
蓋を退けると毒ヶ杜さんはそこからひょこっと顔を出して言った。
「ごめん。時間かかっちゃって。とりあえずそこから下りてきて大丈夫だよ」
いつまでもそんなとこにいると危ない。色んな意味で。
「目島君!」
浴槽の中にぱっと着地した毒ヶ杜さんは僕に飛びついた。
「ちょ!? 毒ヶ杜……さん!?」
ドシン。
シャワーがガンガン流れる中、寂しかったのか突然抱きついてきた毒ヶ杜さんに足を取られてそのまま僕達は浴槽の中で盛大に転んだ。
脳天を思い切り浴槽の縁にぶつけて、頭がクラクラする。頭上にはひよこが回って見える。
「目島君大丈夫!?」
僕が身を張って毒ヶ杜さんを守った為、彼女には怪我はないようだ。よかった。
「大丈夫だよ、毒ヶ杜さん」
めちゃくちゃ心配してくれる毒ヶ杜さんを見て僕は嬉しくてたまらなくなる。
と、そこに。
「目島氏。大丈夫かい? 何か物凄い音がしたけど」
何事もなく、佐藤が扉を開けて入ってきた。
幸い、シャワーを出しているからユニットバスにはカーテンを引いていたから何とか気づかれずに済んだ。
「う、うん。大丈夫だよ」
「そうかい。なら、よかった。目島氏ちょっと失礼するよ」
「ん? 何?」
カーテン越しに目の前に立つ佐藤から布が擦れる音が聞こえる。
コイツ……まさか!?
(毒ヶ杜さん!! 耳を塞いで!!)
僕はそういう間もなく、すぐさま毒ヶ杜さんの両耳をがっちりと塞いだ。
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