愛は義務より良い教師である。ⅩⅡ
***
「もう、本当に心配したんだからね。……でも二人とも無事でよかったよ」
言って委員長は組んだ腕を崩して笑った。
あれから一時間近くかけて集合場所に辿り着いた僕達はこっぴどく担任に叱られ、委員長にめちゃくちゃ心配された。
一時間近くかかった事で体験学習には参加できず、合流して一緒に宿泊施設に帰るという展開を迎えた。
「とりあえず部屋を確認したら、一階の奥の部屋で食事だ。時間厳守で来るように」
担任に言われて僕と毒ヶ杜さんは自室に向かう。
当然だが、男女で割り振られた階が違う為、毒ヶ杜さんとは三階で別れた。
「じゃあ目島君。また後で」
「うん。また後で」
お互いちょこんと手を上げると自分の部屋に歩いていく。
「確か僕の部屋は三階の一番奥だよな」
ぽつりと呟いて一番奥の部屋である、310号室の鍵を開けて中に入る。
「はぁ~」
ずっと持っていた自分の持ち物を放り投げてふかふかのベッドにダイブした。
ずんと体重で沈む身体にベッドの心地よさが伝わる。
「しゃーわせだぁ~」
あーダメ。もうここから動きたくない。寝る。
そこで食事の事を思い出して、一気にばっと身体を起こした。
あっぶね。時間厳守って言われたんだった。
遅れたらまた、怒られるわ。この至福の時間は就寝時に取っておくとしてとりあえず一階に向かおう。
重い身体を起こして僕は部屋を出た。
「目島君」
三階と四階の通路で毒ヶ杜さんが僕を呼んで可愛らしく手を振る。
「毒ヶ杜さん」
呼ばれて名前を呼ぶ。
「一緒に行こう」
眩しい程の輝く笑顔でそう言って大胆にも僕の手を握った。
「ちょっ!? 毒ヶ杜さんダメだよ。誰かに見られたらどうするの!!」
引っ張る毒ヶ杜さんの手を反対に引いて、引き止める。
「あっ、ごめん。つい、ね」
言って顔だけこちらに向けて、ちろっと舌出した。
「でも、みんなもう食堂に行ってると思うし、ここには私達しかいないと思うよ」
「それでも、だよ。みんなにばれたらそれこそ一貫の終わりなんだから」
毒ヶ杜さんだって分かっているはずだ。僕と毒ヶ杜さんは学園カーストという自分のランクが違うんだ。
頂点である毒ヶ杜さんはそれが故に表立って好意を抱く僕にアプローチをかけられない。
見方によれば、これは禁断の恋なんだ。
「わかった。今は我慢する。……でもあとで、ね?」
首をこくんと傾げていたずらに毒ヶ杜さんは笑った。
(えっ、あとで何? めっちゃ意味深……)
かなり動揺してドキドキしながら食堂に向かった。
コトン。
「ん?」
「どうしたの? 目島君」
先に階段を下り始めた毒ヶ杜さんが僕の異変に気づいて立ち止まった。
「いや、今後ろから何か音が聞こえた気がして」
「まさか、さっきも言ったけどもう、みんな食堂だよ」
「そう……だよね。……何だこれ」
言って背後を見渡すと床に何やら小さい正方形の箱が落ちている事に気づいた。
「何これ?」
それを拾い上げて見る。
包み紙で包装されたその箱は綺麗でこんな所に落ちているのはあまりにも不自然だ。
「目島君~」
「あー今行くよ」
呼ばれて僕はその箱をポケットにしまって毒ヶ杜さんを追った。
「……」
鼻をすする音だけがそこに響いた。
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