愛は義務より良い教師である。ⅩⅠ
***
「これでよしっと」
毒ヶ杜さんは言って薬局で買って来た消毒液を僕の腕にかけて、包帯でぐるぐる巻きにした。
「あ、ありがとう」
毒ヶ杜さんに手当てしてもらっちゃったと内心ウキウキと喜ぶ。
というか、未だに実感が沸かないんだけど、僕、毒ヶ杜さんとその、お、おお、お付き合いをしてるんだよな。
てことは、これもカップルのそれ。うぅ~こんな可愛い子に手当てしてもらえるなんてリア充最高じゃねぇか!
こんな近距離で優しい手つきで包帯ぐるぐるとか最高じゃねぇか!!
っていうか質問!! どうして女の子はこんなにもいいかほりがするんですかぁ~
フェロモンですか? 分泌ですか? とにかくいいかほりで最高ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
「どうしたの目島君顔赤いよ?」
「あっ、いや何でもない。何でもないから」
「そう?」
危ねぇ……変な妄想して嫌われる所だった。
「ねぇ? せっかくだし、少しだけ歌わない?」
言って毒ヶ杜さんはディスプレイの前に置かれたマイクを二本引き抜いた。
「えっ、でも大分時間経つし、早く行かなきゃ」
「少しだけだよ、ほんの少し」
言ってマイクを一本僕に渡した。
「やっぱりカラオケ来たのに一曲も歌わないのは忍びないからね。そうだ!デュエットしよ、デュエット」
それを聞いた僕の頭にその文字が残る。
デュエット。デュエット……デュエットデュエットデュエット。
それはカラオケにおける楽しみを共有できる究極のパフォーマンス。
話に寄ればリア充は皆、デュエットをするらしい。
あーデュエット。何て素晴らしい響き。
「するでしょ? デュエット」
「はい! 精一杯歌わせていただきます!!」
男とは単純な生き物である。
***
「「らぶりー☆はぁと!! キュートにズキュン!! 心惹かれて~」」
二人で立ち上がり、辺りは一切喝采スタンディングオーベーション。のビジョンが僕には見える。
身体の奥から湧き出る力をマイクに乗せて、熱く、熱く、ハモっていく。
「「らぶりー!! らぶりー!! あなたのはぁとをキュートにズキュン!!」」
歌い終わり、ふぅと一息つく。
白熱してしまい身体中汗が滴り落ちる。
「いえ~い!!」
毒ヶ杜さんが両手をパーにしてハイタッチを求めてくる。
僕はそれに答えようと手を出し返した。
「いえ~い!!」
ソファに座ると胸元の服を摘んで身体に風を送る。
「熱いね~上脱ごうかな」
言って毒ヶ杜さんは僕がいる前でおもむろにブレザーを脱ぎ出した。
「ちょっ!? 毒ヶ杜さん僕いるよ!」
一人でテンぱる僕を見て、毒ヶ杜さんはふふふと笑ってワイシャツ姿になった。
「ブレザー脱いだだけだよ。そんな驚かなくても」
ち、違うんだ。毒ヶ杜さん。君にとってはただ熱いから上の服を脱いだだけかも知れないけど、僕にとっては、童貞の僕にとっては、それが別に肌がはだけようがはだけなかろうが、服を一枚脱いだという事事態が刺激が強いんだ。
ましてや毒ヶ杜さん。それはこの世の服脱ぎ刺激の頂点。
そして、毒ヶ杜さんのたわわなそれを拝める僕はしゃーわせ者だ。何ていうか、ごちそうさまでした。アーメン。
毒ヶ杜さんを独り占めしているこの状況に感謝し、涙を流していると、僕の携帯が鳴った。
見ればそれは委員長からだった。
「ちょっと電話行って来るね」
毒ヶ杜さんにそう言って僕は携帯を持って席を出た。
「もしもし?」
『あっ、目島君? 今、どこにいるの? もう二時間も経ってるよ』
やべ。はぐれてからもう二時間も経ってたのか。
「あっ、えっと電車が止まっちゃって、もうすぐ動くと思うんだけど」
突然とはいえあからさまな嘘をついてしまった。
「そうなの。私達はもう宿泊施設について今からクラスごとに体験学習に行くんだけど場所分かる?」
宿泊施設から移動するらしく、委員長から体験学習の場所を聞いて僕は電話を切った。
個室に戻ろうと後ろを振り向いた瞬間。
「うわっ!? びっくりした。毒ヶ杜さんどうしたの?」
真後ろに音もなく毒ヶ杜さんが立っていた。
「ちょっとトイレに行こうと思って。それより電話、桃園さん?」
「う、うん。みんなもう今日止まる施設に着いたって。これから体験学習で移動するらしいんだ」
「そっか。じゃあ私達ももう行かないとね。先、出る準備してて」
言って毒ヶ杜さんは僕の横をすり抜けていった。
「何だろ。今、一瞬嫌な気を感じた気がする」
振り返って毒ヶ杜さんの後ろ姿を見つめた。
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