愛は義務より良い教師である。ⅩⅢ

***


「目島氏が毒ヶ杜嬢と風の様に消えた時は本当に驚いたね。これが目島氏の能力、『姿隠スケイル・しのウィンド』かって」


 僕の隣でくちゃくちゃ音を立てながら、食事をする佐藤がそう言った。


「本当で候。しかし、それより何より羨ましいで候。あの状況、降りる順番があれだったからこうなったわけだが、つまり、拙者にも可能性はあったという事で候!!」


 スケイル・ウィンドとか、羨ましいだとか好き勝手言ってくれる。

 僕がどんな目に合ったかも知らずに。

 まぁ、痛い目も見たけど、結果的に万々歳だったわけだが。


 これは口が裂けても、絶対言えない。

 僕と毒ヶ杜さん二人だけの秘密だ。


「時に目島氏。それ、食べないのかい?」


 言って佐藤は僕の前に置かれた皿に乗ったからあげを見て言った。


「お腹いっぱいで」


 嘘だ。本当はお腹ペッコペコだが、隣の佐藤の汚い咀嚼音に食欲がなくなってしまったんだ。


「それなら、僕がもらうよ」


 言って佐藤は自分の箸で僕のからあげに手を出した。


「ちょっと待つで候。拙者も欲しいで候!!」


「ダメだ。これは僕が目島氏からもらったんだ!」


 いや、あげてない。


「ジャンケンにするで候。このジャンケンに勝った者こそ、そのからあげに相応しいで候」


 からあげに相応しいって何? ただの普通のからあげだよ。


「はぁ~これはあげるから後は好きにして。僕部屋に戻ってるから」


 言って僕は席を立って、食堂を後にした。


***


 部屋に戻ってきた僕は、再びベッドにぼふっと倒れこむ。


 はぁ~やっぱりしゃーわせだわ~ベッド最高。


 とそこで自分の横っ腹辺りに違和感を感じた。

 手を伸ばして確認すると通路で拾った正方形の箱が出てきた。


「あ、そういやこの箱」


 目の前に出してもう一度、箱を確認した。

 軽く振ってみると、カタカタと音がして、どうやら中に何か入っているようだ。


 ん~でも持ち主が誰か分からないし、勝手に開けるのはよくないよな。

 しばらく、ベッドに寝転がって考えていると、ベランダからコンコンと音がした。


 上体を起こしてベランダに目を向けると、そこには何やらぶらぶら横移動する何かがいた。


「何々!?」


 完全に身体を起こして、ベランダに向かってその扉を開けた。


 ガラガラと戸を開けてその正体を確かめた。


「チャオ! 目島君」


「……何してるの? 毒ヶ杜さん」


 何故かロープにがっしり掴まってバランスを取ろうとふらふらする毒ヶ杜さんが、目の前に陽気に片手を挙げて、軽く挨拶をしてそこにいた。


「来ちゃった。てへぺろ」


 言って可愛らしく、舌を出して片目を閉じる。


「可愛いので許します」


 あまりの可愛さに本音が出てしまった。


「ははは、目島君面白~い。はい、じゃあ許された私は中に入りまぁす」


 毒ヶ杜さんは掴んでいたロープを離して、部屋の中に入ろうとする。


「このロープどうしたの? 上と繋がってるみたいだけど」


 僕は上の階と繋がっているらしいロープを見て、聞いた。


「持参したの。私の部屋、この上だから」


「……ちょっと待って。話が飛躍し過ぎてて分かんない」


「だから、目島君のお部屋に遊びに行く為に、ロープは持参してきたんだよ。部屋割り決めた時、上だって分かってたから」


……何か、今さらっと凄い事言わなかった?

 それってつまり、最初からこうやってロープ使って侵入しようと考えてたって事だよね。

 だって、修学旅行の決めモノの段階では毒ヶ杜さんが僕の事、好きなの知らないわけだし。


「そう、なんだ……」


 少し、悪寒がした。


「はいこれ」


 言って毒ヶ杜さんは、手に持っていた何かを僕に渡した。


「しおり?」


「うん。目島君忘れたでしょ? だから持っててあげようって届けに来たの」


「ありがとう」


 しおりを受け取って思う。


 結果的にはいい方に進んだけど、この状況ってもしかしたらなかったかも知れないシチュなんだよな。

 しおりと言ったら、教室でのあの出来事。


 あの時、僕と毒ヶ杜さんは突き詰めれば、究極的にこうなるか最悪ルートかのどちらかだったんだ。

 選択とは怖いものだ。


「で、ここからが本題なんだけど、私は食堂を出てく目島君を見てここにいるわけだけど、みんなはまだ食堂でゆっくり食事をしてるでしょ?」


「だね。先生達も食堂の奥の個室で食べてたし」


「うん。だからね。今から一緒にお風呂に入りましょう」


……ん??????? 今何て言ったこの人?

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