第6話 [エルク]ソロモンの懲罰部隊

「ミーミルによる我が国への侵攻有り。国を挙げて抵抗した結果、何とか撃退に成功。奇跡的に我が軍に死者はなし。ファーイーストの事は心配せず、自身の用事を優先しろ、か。そっか・・・ミーミルの奴ら、この時期を狙って攻めてきたのか・・・」


エルクは、自国からの連絡を受け取り、手紙を読んでいる。

不安ではあるが、ここは妹と友人を信じよう、そう考えた。


「ご主人様、どうされました?」


セリアがエルクの腕にしなっと絡み付き、聞いてくる。


「うむ。自国が襲われたようだ。魔都ミーミルと、敵対関係にはないのだが・・・一方的に侵略を仕掛けられていてな。魔の御神の令に反する行為だから、褒められた行為ではないのだが・・・無事自国が撃退してくれたようだ。死者も出なかったらしい・・・勿論、怪我人は出ただろうし、次も撃退出来るとは限らないのだが」


「エルク様~ファーイーストから防衛部隊が到着しました!」


パラスが部屋に入ってくる。

ちなみに、エルクは空き家を整備して与えられている。

ここに入れるのは、エルク本人と、パラスとセリアだけだ。


「着いたか。行こう」


エルクが外に到着すると、10名の兵士がいた。

吸血鬼が2名、ウェアウルフが6名、ワーキャットが2名。

ファーイーストでも、難民の受け入れは行っている。

吸血鬼は繁殖能力が低い為、あまり数がいないのだ。

その為、下級兵士には吸血鬼以外が多い。

指揮能力や魔法能力の高さから、上級士官には吸血鬼が多い。

種族間格差、と言うよりは、適正や嗜好による所が大きい。

下級兵士に多い種族は、直接体を動かすのが好きなのだ。


「ふむ、思ったより多く派遣してくれたな。話は聞いているな?この村の民は、我が国の同胞だ。そのつもりで護衛にあたれ」


「はっ、承知しております」


兵士が敬礼で答える。


「よろしく御願いします」


セリアがぺこり、と礼をすると、


「セリア様、どうかお止め下さい。セリア様はエルク様の眷属、立場は王妃となります。ただ命令下さればそれでよいのです」


兵士が畏まって制する。


「私も王妃?」


パラスがぴょんっとジャンプして言う。


「勿論です。パラス様。何なりと申しつけ下さい」


エルクが、村の者にも、兵士の紹介をする。

さっそく村人が、兵士を宿舎に案内する。

流石に10も空き家はなく、仮設の家、家に仕切り、等で数を増やしている。

そもそも、大部屋にまとめてでも問題ないのだが、律儀な話だ。


手が空いてて暇なのだろう、兵士は早速、資材調達、建設、食材調達等を手伝っている。

移動を終えた直後で疲れているだろうに、真面目だと思う。


「エルク様、報告致します。隣国・・・というか元自国なのですが、ソロモンから懲罰部隊が派遣されてきたようです」


ソロモン、この村が元所属していた国で、この村から金品食料を搾り取っていた国の一方である。

追加の税収を納める使者を切り捨てた関係で、懲罰部隊を送り込んできたのだろう。

エルクは遠視で見てみたが、あの程度なら守護部隊のみでも対応できると判断した。

が、せっかく今は自分達がいるのだ。

完全に撃退するのも悪くない。


懲罰部隊の主は、貴族のぼんぼんだろうか?

そこまで強くないようだ。

数名、それなりの力の持ち主が見える。

恐らく、上級冒険者並の強さだろう。

内2名、女性も混じっている。

かなりの美人でもあるが、特に食指は動かない。


「ご主人様、女性兵士も混じっているようですが、どうされますか?」


「罪のない村人を虐殺しようとして来た連中だ、処分しよう。特に魅力も感じられないしな。これからこの村を離れる事を考えると、逃がさず、力を削いでおいた方がいい」


セリアの問いに、答える。


「分かりました」


降伏勧告は行わない。


「地の檻よ」


エルクは魔法を構成すると、発動。


ガシャイイイイイ


地面が隆起し、無数の突起が、懲罰部隊の背後に出現する。

退路を断ったのだ。


「お前達は、此処で朽ち果てよ」


エルクが拡声の魔法で通達する。


「ふざけるな、賎民の分際と、汚らしい魔族め!」


敵部隊が光の矢の魔法を発動、こちらに向かって放つ。


「盾よ」


パラスの言霊(コトバ)により不可視の盾が出現、光の矢はたやすく防がれる。


「次だ、撃て!」


命令を飛ばす貴族のぼんぼん・・・の首が飛ぶ。


パラスが後ろに回り込み、斧で斬り飛ばしたのだ。


「な・・一体何処から?!」


驚きの声を上げる懲罰部隊。

遅い、声を上げる前に、それ以外の行動が必要であった筈だ。

パラスが振るう斧が、首を次々飛ばす。

何の事はない。

パラスが闇の力を受け入れて身につけた能力の1つ、時空転移である。

飛距離を伸ばせば伸ばすだけお腹が減るらしく、また後でたっぷり食事をとるのだろう。


闇の力を受け入れ、眷属になった場合、何か特殊能力を得る事がある。

パラスなら時空転移と盾、セリアは闇の剣を操るようだ。


「射貫け」


セリアの言霊ことばに従い出現した闇の剣が、次々と懲罰部隊を射貫く。


結局エルクは退路を断っただけで、残りは二人で一瞬にして倒してしまった。


エルクは考える。

1人残して逃走させる、といった小細工は不要だろう。

そもそも、自国に戻るとは限らない。

戻ってこなかった、と言う事実だけで、手を出してはいけないという抑止力にはなるはずだ。

無論それで大兵力を向けてくるようなら、村全体の撤退も考えなければならない。


「お疲れ様。戻ろう」


すっと抱きついてくるセリアの頭を撫でる。

パラスの方を向き、


「お腹が減っただろう、少し早いが、村に戻って昼食の準備を頼もう」


パラスもにっこり微笑み、


「うん!」


そう頷く。

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