第5話 [リア]悪夢の防衛戦
「リア様、ミーミルの軍勢が、後1日程で到着する予測です」
家臣が、深刻な声音でリアに報告する。
リアは髪を解かす手を止めず、考える。
魔族の都、ミーミル。
最大最強の国であり、また、最大最強の都市の名だ。
その土地は豊かで、また、地下にある眷属の巣、霊廟も有するため、無尽蔵に魔力を使える。
どうして攻められているかと言うと・・・納税の要求を断った為だ。
既に魔界に国は2つ、ファーイーストを除いては、ミーミルしかない。
独立国なので、納税は本来あり得ないのだが、完全従属させるつもりなのだろう。
魔神様の令により、魔族同士での隷属関係は禁止されているのだが、魔神様の目が見えなくなっている事も影響しているのだろう、ミーミルでは妖魔族以外の種族は低い地位として扱われているようだ。
元々は一国を持っていた種族だが、聖戦に敗れ、国を失ったのだ。
そもそも納税の要求自体、こちらに拒否させて、攻め込む理由とする為だろう。
後1年で聖戦だと言うのに、何をしているのか。
その剣を向ける先は、同胞では無いはずだ。
ミーミルとファーイーストでは国力が違う。
兵力の差は圧倒的だ。
ここ数年、何度か攻められている、が、全て撃退している。
エルクの存在だ。
自身の魔力貯蔵こそできない物の、その魔法構成能力は凄まじい。
魔法部隊から魔力を受け取り、エルクが魔法を構成、発動。
これにより、地を裂き、火の雨を降らし、魔の霧を生み・・・痛めつけて撤退させていた。
本当にエルクの存在は偉大だ。
恐らく、エルクが国を出ている事が漏洩しているのかもしれない。
タイミングが良すぎる。非常に・・・気が重い。
「その部隊は、私とジャンヌに任せてよい。それより、お兄様の依頼された増援の件、急ぎなさい」
「リア様に、ですか?分かりました。増援の件、手配を急がせます」
家臣がびっくりした様に言う。
「先行して配置している部隊を下がらせなさい。私とジャンヌが出陣します」
地形的に、ファーイーストに侵攻する道は決まっている。
この為、本国の守りを薄くしても、後背から攻められると言ったことはない。
それでも、念の為、残りの兵は守備部隊として待機させるように命令した。
「リア、行くの?」
「はい、ジャンヌ、行きますよ」
リアは、本当に残念そうに言う。
「こんな時お兄様がいて下さったら・・・彼らも無事に温存できたのに」
平原。
ファーイーストに進軍する際、ここを部隊で通る必要がある。
エルクがいた当時は、ここで大魔法により被害を与えていた。
リアは、拡声の魔法を使い、勧告を行う。
「我はファーイーストの統治代理、リアだ。魔の御神を崇める同胞よ、其方等の行為は過ちである。その心に一片の正しさが残っているならば、兵を引き、聖戦に備えられよ。この戦いは過ちである」
「正当性は我らに有り。魔の御神を崇める我らは、一国の元に力を集い、聖戦に望むべきだ。劣等なる汝等は、我らが主妖魔に下り、奉仕すべきである。抵抗は無駄である、無血開城せよ」
敵からも返事が来る。
仕方がない、リアは覚悟を決めた。
「リア、もういいの?」
「そうね。まずはあの辺りを潰して、その後は今喋ったあの辺を潰して。それでも終わらなかったら、全部、かな」
「エルクがいたらねえ・・・」
「まったく・・・でも、任されたのですもの。この国は守らなくては」
「うん!」
作戦を決め、実行。
「廻る廻る無限の混沌、出でよ我が魂の形、全てを滅し力を示せ」
ゴウッ
適当な
その闇は周囲の存在を喰らい尽くし、その跡にはただ陥没した地面のみが残る。
拡声の魔法を再び行使するリア。
「我が同胞よ。其方等の力では、偉大なる我が国を侵す能わず。早々に退散し、国の守りを固め、聖戦に備えよ。聖戦の前に我らが力を削ぐのは、本意ではない」
どよっ
敵軍にかなりの動揺が見られる、が、
「煩い、どんな罠を利用したのか分からんが、そのような卑怯な攻撃、我らが高潔な魂は止められぬ。卑小なる存在を認め、許しを請えば許すつもりであったが、最早容赦はせん。全軍突撃!」
どうっ、と全員が向かってくる・・・流石に、間近でさっきの殺戮を見ていた部分は足が鈍っているが。
「射貫け射貫け、混沌の牙よ、出でよ我が魂の形、甘美なる死を給え」
ドズッ
声を発していた指揮官を中心に、数百名のコアを、闇の棘が貫く。
一撃で絶命させた。
「次は誰だ?指揮を継いだものは名乗り出よ。死の贈り物をしよう。もし戦闘継続の意思なければ、撤退せよ。追撃はしない」
リアが叫ぶ。一部はまだ向かってくるが、大半は撤退を開始した。
「へへへ、行っくよおお!」
ジャンヌが駆ける・・・冗談のような早さで。
「来い!」
ジャンヌの
それを一撃振るうと、数名の魔族が天に召される。高速で剣を振るいつつ、部隊に突撃、肉片となって散る敵だった存在。
「撃て!」
リアの
その一撃が、1つの命を奪う。
精密に撃つ理由は、走り回るジャンヌに当てない為だ。
こうして、ミーミルによるファーイースト侵攻は阻止された。
ミーミルの損耗は、高級士官5名、一般兵士5000名余、装備多数。
対して、ファーイーストの損耗は、ゼロ。
ミーミルの大敗北と言える戦いであった。
ジャンヌはちょっと暴れ足りなかった。
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