第4話 [エルク]食料調達
エルクが村長に自分の種族を明かし、セリアの話をすると、あっさりと提案を受け入れた。
「よろしい。では、これよりこの村は、我が国、ファーイーストの民と認める。民に対する権利は比較的認める方だ。眷属は婚姻と同意で、種族による差も付けない。人間は比較的平等な権利を認める種族と聞く。恐らく違和感なく受け入れられるだろう。無論、倫理に反する行為をすれば処罰されるがな」
「平等・・・ですか。お恥ずかしながら、数百年前の記録では、確かに人間は平等であったと伝え聞いています。しかし、今では平等という概念は幻想となっております。街では奴隷の制度もありますし、辺境の我が村のような場所では、街の奴隷より酷い扱いとなっております」
「むむ・・・少し事情は聞いたが、酷い事をするな。ともかく、我が国の民となったからには、今後そのような事は許さぬ。文民税務官程度なら蹴散らせるし、小規模の軍隊なら追い返せるだろう。本格的な討伐隊を派遣されては、流石に防衛は難しいが、それは申し訳ない」
「いえ、勿体ないお言葉。派遣して下さる兵士の方は、可能な限り厚遇させて頂きますし、常に荷物はまとめ、逃亡の準備は整えるように致します」
「うむ、そのように頼む」
セリアがエルクに申し出る。
「御主人様、村の食料が心許ないので、食料調達をして頂けないでしょうか?」
「そうだな。護衛の者が到着するまで数日あるから、その間に採取を行おうか。村長、手が空いている者が居れば貸して欲しい」
年頃の男は徴収されてしまっている為存在しない。
子供と女性の中で体力に余裕がある者を選び、連れて行く事にした。
「木の実の採取等は手伝ってくれればよいが、狩りは基本的に俺とセリアで行う。他の者は主に荷物運びを頼む。決して離れないように。一緒に行動する事を心がけよ」
連れて行く村民に声をかける。
「はい、御願いします」
村民も、無駄に行動をしたりはしない。
自分の村の危機的状況が分かっているのだ。
子供も、ふざける事はなく、整然と並んでいる。
それだけ余裕がないのだろう。
エルクは、子供がそこまで余裕がない状況、というのを悲しく思う。
山に入る。
魔族領が近い事もあり、獣が次々と寄ってくる・・・が、
「風よ、射貫け」
エルクの短縮詠唱、風の槍が出現、次の瞬間獣に刺さり、あっさり命を奪う。
セリアを眷属として得た影響は絶大であった。
今まで苦労していた魔力ゼロの体質が消え去ったかのようだ。
自身の体には相変わらず魔力は蓄えられないのだが、眷属であるセリアとパスが繋がっており、その魔力の一部を自分の魔力として行使できるのだ。
通常時でもかなりの量だが、セリア自身が祈ればさらに多量の力が送られる。
ガサッ
後ろから熊が数体出現する。
中級冒険者程度なら1体でも死を覚悟する危険な存在だ。
しかし、
「闇の刃よ」
セリアの言霊(ことば)に従い、無数の黒い剣が出現、熊を射貫く。
絶命する熊達。
「少し歩いただけでこれか・・・一旦戻るか」
力ある者にとっては、豊富な山の実り、であるのだが、一般的な力の持ち主にとってはただの悪夢だ。
女性達が子供に教えつつ、木の実や山菜を採りながら行軍している。
こういった採取が安全にできるのも、エルクとセリアが護衛しているからこそ、である。
村に戻る。
みんなの顔は喜びに溢れている。
短時間の狩りで、食料にはかなりの余裕が出来た。
休憩したらまた出発するが、とりあえずは腹を満たすよう指示を出す。
みんな食料節約の為、空腹気味であったのだ。
「エルク様、これを」
セリアが焼いた肉と、山菜を持ってくる。
「有り難う、セリア」
エルクはセリアが運んできた肉を口にし・・・
「これは・・・美味いな!」
「塩や香辛料を使って調理致しました。口にあったようで良かったです」
「塩・・・?あの定期的に舐める事がある貴重な塊か?あれは調理に使うと美味いのか。香辛料?聞いた事がないな」
「一部植物は、調理に使うといい味が出るのです。食材は調理する事で美味しくなるのですよ」
「調理・・・あんなの焼いたり煮たりするだけだと思ってたのだが。色々あるのだな。人間の文化なのか、我々の国も庶民はそういった文化があるのか・・分からんが」
「私ももっと研究して、御主人様の舌を満足させられるように頑張ります」
セリアがにっこり笑う。
その後、食後の腹ごなしを兼ねて、セリアを連れ立って周囲を散歩する。
そこで、行き倒れた旅人を拾った。
「大丈夫か?」
「た・・・食べ物・・・何か食べ物を・・・御願いする・・・です・・・」
お腹が減っているらしい。
もうみんな食事を終えただろうか。
何か残っているといいが。見れば見目いい女性だ。
助けたらこの女性もエルクに懐いてくれるかも知れない。
「良いだろう、今は食料に余裕がある。食事を提供してやる」
女性は、パラス、と名乗った。
女性を背負って、村に戻る。
食事は幸いまだ残っていた。追加で調理してくれるそうだ。
が、凄い勢いで食べ始める。
おいおい。
採ってきた分の食料を食べ尽くしてしまったので、流石にストップをかける。
午後の収穫が終わり、夕食の時に再度食べさせよう。
「予想以上に食べるな。約束を違えて申し訳ないが、さっき採ってきた食料が尽きた。そのあたりにしてくれ。もうすぐ狩りに行くから、その後でたくさん食べさせてやる」
「有り難うございます!生きた心地が戻ってきました!この御礼はどうしたらいいか・・・」
「とりあえずは、この後の狩りで荷物運びを頼む」
「はい!」
午後からの狩りも、順調だ。
女性陣主導で、木の実や山菜も採る。
セリアも指示を出している。
パラスも食品に詳しいのか、色々と採取している。
魔物も襲ってくるが、エルクとセリアの魔法で一瞬で地に伏す。
食べられる魔物はそのまま持ち帰るので、一気に荷物がいっぱいになる。
3往復程して、その日の狩りを終える。
「働いたぁ!」
パラスがばたっと倒れる。
「お疲れ様、すぐに夕食を用意させよう」
エルクがパラスの頭を撫でてやる。
「それでは私は食事の準備を手伝ってきますね」
セリアも食事の準備に向かう。
夕食も盛大に行われた。
昼食に続き、祭のようになっている。
パラスも、今度はお腹いっぱいまで食べたようだ。
食料も十分備蓄が出来た。
肉類や果物は塩漬けにしたりといった加工をして保存が効くようにするらしい。
人間のこの文化はいいな、是非我が国でも取り入れねば、とエルクは思う。
明日はこの作業を主にする事になった。
「エルクさん、色々有り難うございました。またお腹いっぱい食べれるなんて、夢のようです!」
「構わない。食料はまた採ってくればいいからな」
「エルクさんとセリアさん、凄く強かったけど、何か事情があるのでしょうか?」
エルクは考える。
思案所だ。このあたりで話を切り出すか。
「実は、俺は人間ではない。吸血鬼、魔族だ。セリアは俺と契約した眷属だ。この村も、セリアとの契約により、我が国の民となっている」
「吸血鬼・・・聞いた事があります。魔族領の最奥に位置し、真魔王を擁する最強の領土」
「・・・それは間違いだ。地理的事情から攻められてないだけで、首都の魔王の方が数万倍強い。攻略順序が首都が先なので、最期の地ではあるがな」
「そうなのですね・・・」
「うむ」
さて、契約の話をどう切り出すか・・・エルクが思案していると、
「契約・・・ですか。僕も契約を御願いしていいでしょうか!」
パラスから話を切り出す。
「構わないが、契約の結果、お前の全てを貰う。それに見合う要求をするといい。こちらも、自由意志を束縛する気はない、お前自身の意思で俺に仕えて貰うが、当然お前の自由はかなり制限される」
眷属に自由意志を認める、と言っても限界はある。
例えば、主の命令には逆らえないし、主に不利益をもたらすような行為はとれない。
他の種族だと、更に強く縛って、自由な思考を許さない状態にする事も多いが。
ファーイーストでも、ある程度の意識介入は行われる。
エルクはセリアを、それよりはかなり緩い形でしか縛っていない。
その為、セリアはあそこまでの力を行使出来ているのだろう。
「眷属・・・ですね」
「そうだ。我が国では、眷属は、婚姻と同等の扱いをする慣例だ。同時に其方は、俺の妻となる。その事も考慮しろ」
「分かりました。エルク様、私、パラスは、貴方に全てを捧げます。望む対価は、食事と暖かい寝床です!」
・・・その条件でいいのか・・・?
エルクは思ったが、まあ人間界の惨状を見る限り仕方ないのかとも思う。
自分の眷属である限り、不自由はさせまい、そう誓う。
「認めよう、パラス、我が眷属となれ」
パラスの首に牙を立て・・・
(・・・これは?!)
澄んだ味、巨大さ、頑強さ。あらゆる力がその力の前では無力となる、そんな偉大さ。そして自らに湧き上がる全能感。美味い!
セリアの時で慣れていたのだろう、エルクはセリアの時よりは早く自分を取り戻し、口を離す。
「どうでした?僕の血」
パラスがそれでもややぐったりして、片眼を開けて言う。
「うむ。極上であった」
エルクがパラスの頭を撫でてやる。
しなっと、セリアがエルクに腕を絡めてくる。
やや頬を膨らませつつ、
「眷属が増えたこと、お喜び申し上げます・・・でも、今晩も私の相手もして下さい、ね?」
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