第3話 [エルク]初めての眷属

エルクは、首都を迂回し、山岳を通って聖界に向かう。

エルクの国は、中央の国と敵対はしていない物の、堂々と中を通れるような関係でもない。

また、帰りは眷属を連れているはずなので、首都を通ったりしたら取られてしまう。


山岳は、未整備の地。強力な魔物等も出る。

が、吸血鬼の王であるエルクの敵ではない。

その戦闘センスと、たゆまぬ努力により身につけた剣術で、向かってきた魔物は動かぬ骸となる。

魔法は使えなくても、上位魔族や上級冒険者でも無い限り、遅れは取らない。


夜は野宿。

野営技術も問題ない。

数日かけ、山岳を通り抜けると、後は街道を通って聖界へと入る。


村が見えた。

魔界に隣接する地だけあり、常に魔物の脅威に晒されている。

貧しい村だ。

だが、周囲を堀と柵で覆っており、簡易な防備はとっている。


(さて、何かに困っている女性はいないかな。出来るだけ身寄りが無い女性がいい)


身寄りがなければ、それだけエルクを頼ってくれるからだ。

自作自演とかすると、騒ぎになって上級冒険者なり軍隊なりが派遣されたら不味い。

あくまで目立たないように行動しなければならない。


エルクは人間界の貨幣は持っていない。

エルクは、とりあえず冒険者ギルドで依頼を受け瑠事にした。

冒険者ギルドに行くと、無登録でも受けられる依頼、緊急依頼が幾つかあった。

採取、討伐。

そう言った簡単なのを幾つかこなし、幾ばくかの報酬を得る。

達成が早かったのでちょっと驚かれた。


「旦那凄いですね。かなり高名な冒険者なのでしょうか?」


「済まない、訳ありでね。詮索は困るのだよ」


「そうですよね・・・すみません」


こう言った内容が通用する辺り、問題の解決状況がかなり切迫しているのが分かる。

依頼がかなり溜まっているようだ。

少し稼ごうか、エルクがそう思っていると、


「あの・・・すみません、腕利きの冒険者の方でしょうか?」


後ろから声をかけられる。

かなりの美人だ。悪くない。


「これはお嬢さん。どうかしたかい?」


「はい。実は、依頼したい仕事がありまして・・・」


「ちょっとお嬢様、駄目ですって。あの依頼は危険過ぎます」


職員がエルクを止めに来た。


「いや、構わないよ。人の世は助け合ってこそ、だ」


エルクは古い書物で見た言葉を引用する。

だが、職員も少女も、きょとんとした顔をしている。

通じていないようだ。


「・・・旦那がいいのならいいですが、無理だと思ったら断って下さいね」


職員が立ち去る。


「すみません・・・無理なのは分かっているんです・・・でも、急いでいるんです」


少女が話始める。

曰く、近くにゴブリンの群れが出現した、幼なじみの女性がゴブリンに連れ去られた。

ゴブリンの集落にはゴブリンキングもいるらしい。

今日中に助け出さないと取り返しがつかない事になる・・・もっとも、当日でも確実に安全な保証はないのだが。


ゴブリンキング、一般の兵士、弱い騎士団程度では相手にする事はできない。

だが、エルクにとってはたやすい相手だ。


「構わない。その娘、俺が助けてやろう」


「有り難うございます!」


エルクは少女から場所を聞こうとしたが、少女は自分で案内すると言う。

足手まといにはなるのだが、なるべく少女に良い所を見せないといけないので、連れて行くことを承諾する。


「エルクさん、旅をされていて長いのですか?」


「いや、俺は今まで山奥で暮らしていてな。旅を始めたのは最近なのだ。おかげで世間には疎くてな」


エルクは、少女の機嫌を損ねる訳にはいかない。

好印象を与えるために、なるべく返事をする。


「世間・・・人間界の、ですか?」


「俺が人間ではない、と、分かるのか?」


気づかれたなら、隠す理由はない。

どちらにせよエルクの場合、同意の上で眷属となってもらう必要があるのだ。


「村に来られた方向を見ていました。そちらは魔族領です。でも、親友を助けたいんです。今この瞬間も・・・御願いします、親友を助けて下さい」


少女が懇願するように言う。


「それに関しては承諾済だ。安心するがいい。俺にとっては、ゴブリンの群れやゴブリンキングは、敵ではない」


少女に連れられて着いた先は・・・エルクの想像より広い集落。


「でかいぞ?」


「そうなんです・・・もう三ヶ月以上放置されていて・・・どんどん大きくなってしまって・・・」


「何だと?ゴブリンの集落が近くに出来た場合、即時駆除するのではないのか?何故放置した?」


「私の村は・・・国と国の境目にあるんです。数年前から、元管理していた国ではない方の国からも税金や労働力を徴収され・・・一方で、騎士団の派遣はどちらの国も行ってくれないようになったんです」


「・・・それはまた」


「魔族領に接するため、危険性は多いのですが、報酬を払えないので・・・冒険者も寄りつかなく・・・」


「それは仕方ないな・・・」


(この村を救ってやれば、何人かは付いてくるのではないか?)


エルクは心の中で打算する。


「エルクさん、親友は恐らく奥のテントにいると思います。他にも捉えられた女性がきっと・・・」


「分かった」


流石にこの規模の村だと、エルクでも少し骨が折れる。

エルクは魔道具を取り出すと、込められた魔力を取り出し、発動寸前の状態で周囲にストックさせる。


「行くぞ」


エルクは宣言すると、少女に気を配りつつも、集落に侵入する。

見張りのゴブリン達が弓を番えるが、袋から石を取り出し、頭を潰す。

エルクだけならいいが、少女に当たっては問題だ。


途中集団が来たが、ストックしておいた魔法を発動、炎の塊が出現し、集団を焼き尽くした。

延焼し、更なる混乱を生む。

人間の村だと、騒ぎになると人質が殺されたりするが、ゴブリンの村ならその心配はない。


問題の小屋に辿り着く。

目当ての女性は無事だったようだ。

少女が親友に駆け寄り、涙を流す。

他に捉えられていた女性・・・ここは無事な女性が主なようだ。


別のジェムを取り出し、魔力を抽出。

アンデッド、スケルトンを数体創り出す。


「とりあえず護衛にこれを置いておく。ゴブリンキングを倒せる程の力はないから過信はするな。何かあったら強く叫べ」


「分かりました」


エルクは気配察知を少女の方にある程度さきつつ、テントを空けて回る。

無事ではない女性もいたが、とりあえず掴み、少女の元へ運ぶ。

ゴブリンを見つけたら駆除。

ゴブリンキングは2体倒した。

他のゴブリンが逃げるが、それは逃げたままにする。

本当は駆除した方がいいが、1人では限界がある。

再度人質がいない時なら、エルク1人で何とかなるのだが。


囚われていた女性達を集めた後、集落に火を放つ。

スケルトンは闇に還した。


動ける女性が動けない女性を背負いつつ、ゆっくりではあるが村まで移動する。

エルクは3人ほど抱えた。

何とか手が足りたのは不幸中の幸いだ。


村に着くと、村民に女性達を引き渡す。

村民からは凄まじい歓迎を受けた。

今夜は村長の家でもてなしてくれるようだ。

大した物は出せませんが、という村長。まあ事実なのだろう。


その夜、エルクが泊まっている宿に、昼間助けた少女、村長の娘がやってくる。


「エルク様、夜分に申し訳ありません」


「構わない」


「お話が有ります・・・差し出せるのはこの身しかありませんが・・・どうか、御願いを聞いて下さい」


その身だけで構わない、エルクは思う。

まさにこれが狙っていた展開、計算通りなのだから。


「聞こう」


「この村は搾取され続けています。しかも、近隣の魔物は強く、騎士団も来ません。このままだと魔物に殺されるか、殺されるより酷い目に遭うか・・・それに、このままだと冬は越せません。食料もないのです。税務官は、採取した木の実や、魚まで奪っていくのです」


「それはまた・・・」


「御願いします、この村を助けて下さい。安住の地を与えて下さるだけでも構いません」


エルクは少し考えると、


「まず回答すると、その条件は呑もう。お前の身を俺に捧げろ。代わりに、村人は助けてやろう」


「有り難うございます!」


「助ける方法だが・・・俺の国に連れて行ってやってもいいが、出来れば此処を離れたくないのだろう?我が国から数名、護衛を派遣する事ができる。まずはそいつらを使い、この村を守れるようにしよう。騎士団や冒険者、もしくは魔界から別の魔族が来たりする事があれば、守るのは厳しい。その場合は、俺の国に村全員で移動する、という形にしてくれ」


「・・・!有り難うございます!」


「その際に簡単な食料は持ってこさせよう。だがまあ、俺の国もそう豊かではないのでな。後は森で採取したり魚を釣ったりで今年の冬は凌いでくれ。税務官は追い返せばいいし、何なら食料を剥いでやればいい」


「はい!」


「それで、その身を捧げる、という事だが。俺は吸血鬼だ。お前を眷属にする。自由意志は奪わないので、お前の意思で俺に仕えよ」


「・・・分かりました!」


娘が、強い意志の籠もった目でエルクを見る。


「私の名はセリアです。私、セリアは、エルク様にこの身を捧げます」


「闇の王、エルク、セリア、お前を俺の眷属とする」


そして、セリアの首に牙を立て・・・


(美味い?!)


エルクの全身の血が総毛立つ。

一瞬が無限に感じられ、凄まじい全能感がエルクを襲う。

その味は重厚、そして濃厚。

億の戦場を駆け巡るような錯覚を覚える。


(しまった?!)


随分長い間、相当な量の血を吸ってしまった。

エルクが慌てて口を離す。

血の気を失いぐったりしたセリア。

しかし、目を開けると、にっこりと微笑む。


「私の血、気に入って頂けたようで嬉しいです。これから宜しく御願いします、ご主人様」

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