中学生でも解る中和の話

みふね

酸+アルカリ→水+塩

アルカリ星

 地球からそう遠くない、丁度木星の衛星の1つであるその星は、生物から静物、例えばタンスの裏の埃までの全てがアルカリ性の物質で構成されているらしかった。

 それ故に、その星は「アルカリ星」と呼ばれていた。

 


 文明は地球ほど発達しておらず丁度地球でいう中世ヨーロッパといったところで、しかしながら大きな戦争が起こった気配はない。人類で初めてその星に降り立ったK氏は、地球にそう報告した。それは事実だった。

 そして、その星の全ての物質がまさに、アルカリ性を示したのだった。もちろんタンスの裏の埃までもが。

 


 さて、文明の乏しさには幻滅したK氏率いる調査グループであったが、その星には人間と同じほどの知能を持ち、且つ友好的な生命体がいることを確認してアルカリ星の発達のためにと、様々な技術を提供した。

 彼らは、人間と同じ容姿をしていたが、皮膚の色は淡い青をしていた。しかし、言語は単純なもので彼らの言おうとすることは難なく理解できた。

  


 調査グループはまず、鉄を伝えた。そして、鉄の作り方を伝えた。それは将来的な発達を見込んでのことだった。いずれ彼らは地球同様に発達し、我々と様々な面で協力しあえるはずだ。K 氏はそう確信していた。

 


 アルカリ星の発達は目覚ましかった。鉄の作り方を知ったアルカリ星人は鉄を様々な形で応用し、工場を作り、生産した。それから、地下からアルカリの成分を伴った、地球でいう石油のようなものが発見されるや否や、それをもとにした製品を作り、電気をも、起こせるようになった。彼らの暮らしは、明らかに便利で豊かなものに生まれ変わった。



 それでも地球のように戦争が起こらなかったのは、もとより気性が穏やかなためであろう。

 しかしそんな平和の裏に1つの大きな問題があった。環境汚染による公害である。アルカリ星はその点において、まさに地球がそうであったかのように同じ道を確実に歩んでいった。

 そして、星を覆う黒雲は雨となり地面に突き刺さった。である。

 


 時は流れて、再びアルカリ星に訪れる機会がやってきた。人類の代表として送り込まれたのは、K氏の孫が率いる調査グループだった。彼は、かつて祖父が見た景色からどれ程の変貌を遂げているか、地球の祖父に早く伝えてやりたい気持ちで溢れていた。そして、宇宙船では祖父からもらった何葉かの、アルカリ星の写真を1人眺めては胸が熱くなった。

 そうしているうちに、アルカリ星は近づいてきた。



 彼は興奮した。祖父から受け継いだ意志を今果たそうとしているのだ。そして、子供のように、窓に体をへばりつけた。

 しかし、だ。宇宙船の窓からは、人影どころか物影すら見当たらなかった。星に降りた調査グループはひどく幻滅した。滅亡したらしかった。この星は、まさに中世にて滅んだのだ。

 そこには何もなく、ただ一面に、淡い青色に透き通った湖が広がっていた。

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中学生でも解る中和の話 みふね @sarugamori39

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