27日目

朝、

ヒスイから、

今日も私の予定はないことを聞かされた。

どうしようか迷っていると、

クジャクに、

「暇なら一緒にくるか?」

と誘われた。

やることもないので、

何をしに行くかも訊かずに、

ついて行くことにした。

そして着いたところは、

中禅寺湖。

2人乗りボートを借りて、

釣りをすることになった。

といっても、

私は釣りなどしたことがない。

「のんびり釣り糸垂らしてりゃいいんだよ」

とクジャクは言った。

どうやら、

クジャクも魚を釣る気はないようだ。

2人でボートに乗り、

のんびりと釣り糸を垂らしていた。

静かな時間が過ぎた。

しばらくのんびりして、

眠くなってきたところで、

クジャクから質問があった。

「アンタ、どうして一緒に来る気になったんだ?」

誘っておいてその質問もどうかと思う。

「俺が怖くないのか?」

何故?

「だって、俺がその気になれば、アンタを蒸発させることだって出来るんだぜ?」

その気になるのか?

「いや、そんなことしねぇけどさ……」

クジャクの言葉がそこで終わったので、

今度は私から質問してみた。

どうして鳳玉に所属しているのか?

「ああ……昔、色々あってな……」

色々?

「ああ」

話したくない?

「いや、別にそんなんじゃねぇけどさ……。別に面白くもなんともないぜ?」

それでも、知りたい。

これから先の参考になるかもしれない。

「……俺、子供の頃、7歳くらいの時に、天使に両親を殺されたんだ」

……。

「知ってるか? 天使ってさ、赤子とか子供をさらうんだよ」

そういえば、

そんな話を聞いたことがある。

あれは、

天使について調べている時に、

ネットの掲示板で見た情報か。

「んで、ピクニックだかハイキングだか分かんねえけど、俺と両親は家族で山に来てたんだ。俺は山道を走って登ってた。人気のない山道の中腹辺りでさ、後ろを歩いていた母親の悲鳴が聞こえたんだ。その声に驚いて後ろを見たらさ。父親の身体に槍が刺さってた」

……。

「俺は訳分かんなくてその場に立ってた。そしたら空から天使が降りてきてさ。母親の首を掴んで、首を握り潰したんだよ。俺は、その光景を、ただ見てた」

……。

「天使は母親を捨てると、今度は俺の方に近づいてきた。俺は逃げたかったけど足が動かなかったのか、それとも呆然としてたのか、憶えてねえけどさ。天使は俺の前まできた」

……。

「次に俺が憶えている光景は、天使の首が飛んだこと。その時は何が起きたのか分からなかったけどな。その後、天使の身体がバラバラに斬られていった。天使の身体がバラバラになって崩れると、そこにひとりの男がいたんだ。そいつが、鳳玉のコウギョクって能力者だった」

……。

「コウギョクに助けられた俺は、そのまま鳳玉で育てられることになった。本当は鳳玉から施設に移される予定だったらしいんだけど、何でも能力者になる素質があったとか何とかで、鳳玉の研究所で育てられたんだ」

……。

「そのコウギョクも、俺が10歳になった頃、天使に殺されちまった……」

……。

「それで、14歳になった時、研究所の偉いやつに呼び出されて、天使と戦う決意はあるか、って訊かれた。俺は、ある、って答えた。両親を殺された恨みもあるが、コウギョクの仇を討ちたいと思った。だから、能力者になることを望んだ。そして……」

クジャクの手から炎が噴き出した。

「俺は能力者になった」

……。

「な、面白い話じゃなかったろ?」

クジャクはそう言って頭をかいた。

そうでもない。

「そうか?」

興味深い話だった。

「興味深いね……」

それにしても。

クジャクは、

自分の父親や母親のことを、

ずいぶん他人行儀で呼ぶんだな。

「……ああ。子供の頃に殺されちまったからな。俺、親のことをなんて呼べばいいか分からねえんだよ。今、生きているならさ、親父とかお袋って呼べばいいんだろうけど、もう、いないからさ……」

そんなもんか。

「アンタのことも、実際何て呼んだらいいか迷ってる」

ナナと呼べばいい。

「だけどそりゃミコトで決められた名前で、本名は確か」

ナナと呼べばいい。

「そっか? んじゃナナって呼ぶぜ」

その後は、

クジャクと他愛のない話をしていた。

クジャクが学校に行ったことがないから、

学校ってどんなところか教えてくれ、

とか、

クジャクの能力の話。

炎を発生させているのは、

目に見えて敵に恐怖を植え付けるためであり、

本当は炎を発生させなくても敵は倒せるらしい。

その証拠に、

と言ってクジャクは、

ボートから身を乗り出して、

湖に手を突っ込んだ。

しばらくすると、

湖の水、

クジャクが手を突っ込んでいる辺りの水が、

沸騰した。

だが流石に中禅寺湖全体を沸騰させることは出来ないと言っていた。

夕方までクジャクとボートに乗って、

のんびりしていた。

夜、

研究所に帰ってきたら、

スズが待っていた。

スズと一緒に夕食を食べて、

その後は部屋でのんびりしていた。

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