25日目
昼過ぎまで何も言われなかったので、
上尾の研究所でのんびりしていた。
そして昼。
研究所の連中が、
私に話があるからきてほしいと言われたので、
スズを連れていこうとすると、
ひとりでくるように言われた。
だが、
スズをひとりにするわけにも……。
スズに、
呼ばれているので行ってきてもいいか、
尋ねると、
こくん、と頷いた。
というわけで、
あまり大きくない部屋に通され、
何やらアンケートみたいなものやら、
色々な質問などに答えたり、
勤務地の希望など聞かれたりした。
そして、
スズのこと。
ミコトが言うには、
スズの身元は調べることが出来なかったので、
ミコトの顔のきく施設へ送られると言われた。
私は、
スズを手放すつもりはないと言ったが、
どうやら私の意見など求めていないらしい。
私は既にミコトのメンバーであり、
意思はミコトが最優先される、
自身の意思は優先されないことを憶えておけ、
そう言われた。
正直、
もう抜けたいと思った。
というか望んで加入したわけでもない。
解放され部屋に戻ると、
スズはいなかった。
私はスズを探して、
研究所を走り回った。
そして、
研究所の外でスズを見つけた。
スズは男に手を引かれて、
トラックに乗せられるところだった。
私がスズに駆け寄ろうとすると、
男が私を止めた。
何をする、
と男を睨むと、
あの子は施設に移される、
もう会うこともない。
そう言われた。
男はかなりガタイもよく、
突き飛ばしてスズに駆け寄ることは、
出来そうもない。
私はスズを見る。
スズが本気を出せば、
一直線に私のところへ戻ることが出来る。
その後、
脱出することも出来るだろう。
だが、
それをすれば研究所のメンバーは、
武力により制圧しようとするだろう。
そうなれば、
武力と武力が衝突すれば、
スズは人を殺すことになるだろう。
スズは簡単に、
素手で人を引き千切ることが出来る。
その力がミコトに知れれば、
危険視されるか、
利用されるか、
どちらにせよ、
ロクなことにならない。
私は黙って、
スズを見ている。
スズが車に乗せら……。
「うぜえんだよっ!!!」
その声と共に突然。
炎が巻き起こった。
スズの周り約半径10メートルを、
炎が包み込んだ。
私は驚く。
私を制した男も驚いていた。
その虚をついて私はスズに駆け寄ろうとしたが、
炎の中心にスズがいる。
炎が邪魔で近づけない。
私がどうしていいか分からないでいると、
ミコトのメンバーが研究所から出てきた。
武装している。
戦闘部隊だ。
戦闘部隊は炎を消火しようと消火剤をまいたが、
炎の勢いは衰えない。
衰えないどころか、
炎は消火作業をしている戦闘部隊を、
徐々に飲み込みはじめた。
数名のメンバーが炎に巻き込まれたところで、
炎が一気に消滅した。
そして焼けた大地に焼けた人間。
炎の中心辺りにスズと……。
クジャクがいた。
クジャクの右手が燃えるように、
炎に包まれていた。
ミコトのメンバーは、
クジャクに向かって銃を撃った。
何をする!
クジャクの横にはスズが……。
だが、
銃弾はクジャクやスズに当たることはなかった。
何が起きたのかは分からない。
推測しか出来ない。
銃弾は視認できない。
私が見たのは、
クジャクとスズの近くで、
何か小さな煙、蒸気が発生したこと。
その蒸気が発生したところは、
空間が揺らめいていた。
おそらく推測だが、
飛んでいった銃弾は全て、
熱によって蒸発したのだろう。
私のとなりから声が上がった。
何やら悲鳴のようだった。
私は声のした方を見る。
そこには、
凍りついた男がいた。
銃を構えた男の身体が、
氷漬けになっていた。
その氷漬けになった男の横に、
ヒスイがいた。
ヒスイは私に微笑みかけると、
跳躍し、
他のミコトのメンバーに接近、
持っている銃を掴んだ瞬間、
銃が氷漬けになり、
その氷が、
どんどん男の身体を包んでいく。
そして、
男の身体を中に入れた、
大きな氷の塊がひとつその場にできた。
ヒスイとクジャクは、
ミコトのメンバーを次々と沈黙させた。
ミコトの戦闘部隊が沈黙した後、
ヒスイは私に近づき、
私の胸部を見た。
私の首にはホイッスルがある。
それを確認すると、
「この間のお約束通り、お迎えに参上しました」
「では、アナタをこれから鳳玉へ御招待いたしましょう」
ヒスイはそう言って、
私を肩に抱えて、
跳躍し、
研究所から逃走した。
少し離れたところで、
私は普通の乗用車の後部座席に乗せられた。
隣にスズ、
運転席にはヒスイ、
助手席にはクジャクがいた。
鳳玉、か……。
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