23日目

というわけで、

どういうわけだか、

前日までの結果、

『ミコト』は、

私とホイッスルを、

天使にぶつけてみることにしたらしい。

あの時と同じ状況を再現するために、

スズも連れて行くことになった。

私はスズに、

『ミコト』の部隊が全滅するまで、

天使とは戦わないように言っておいた。

スズの力を『ミコト』に知られると、

スズをどこかに連れて行かれてしまうかもしれない。

そうなると、

たとえ私にホイッスルの力があっても、

スズとは離れ離れになるかもしれない。

それは嫌だ。

だが天使と戦うにしても、

どうするのだろう?

その疑問を桐島にぶつけてみたところ、

『ミコト』には天使観測班というのがいると教えられた。

この話は、

天使はどこからくるのか?

という疑問に答える内容になっていた。

天使観測班は、

ある場所を観測することによって、

天使の飛行経路や、

目的地などを観測、

及び推測するのが役目らしい。

そして観測するある場所とは、

月、

らしい。

天使は月からやってきて、

月へ帰って行くことが、

天使観測班の観測により、

解明されているそうだ。

ということは、

月を観測している、

天文学者などは、

天使の存在を知っているのだろうか?

答えはノー。

天使は、

月の裏側からやってくるらしい。

地上からでは観測不能の場所だ。

よって通常の観測方法では、

天使を見つけることは出来ないらしい。

そして、

天使観測班の最新のデータによると、

埼玉県の秩父の西の山中に、

天使が飛来する可能性があるそうだ。

今いるここが上尾なので、

県内だが結構西に移動することになる。

とはいえ、

ここら辺は地元ではないので、

右も左も分からないのだが……。

とにかく、

秩父まで移動することになった。

午後、夕方になる頃、

天使が飛来すると推測される場所までやってきたが、

天使観測班のデータは随時更新されるようで、

私達はその更新されるデータにあわせて、

その場所をうろつくことになった。

山中なので、

出来るだけ軽装がいいと思うが、

天使と戦う『ミコト』の連中は、

そうも言ってられない様子だ。

桐島をはじめ皆、

完全に武装していた。

今からサバイバルゲームでも始めるのだろうか?

山中で武装して歩いているのである。

他人から見たら、

そう見えるだろう。

さて、

データでは秩父ということだったが、

更に西にどんどん進んで行くことになった。

山中を進んでいく。

夕日が地平線に沈む頃、

横を歩いていたスズが、

私の服の裾を引っ張った。

私がスズを見ると、

スズは上空を見ていた。

私もスズの見ているところを見る。

そこには、

飛行する天使の姿があった。

天使だ。

私が小さな声で言う。

すると桐島が反応し、

どこだと言ったので、

私は上空を指し示す。

「追跡するぞ」

この部隊のリーダー格の男がそう言った。

今回、

桐島は部隊長ではない。

今回の部隊編成では、

桐島は私とスズを守る役目だ。

直接天使と戦う部隊は他にいる。

そして、

それと研究班が数名ついてきている。

この研究班も、

実戦でも動ける研究班ということで、

武装をしている。

武装していないのは、

私とスズくらいだ。

しかし、

スズは素手で天使を引きちぎる力があるが、

私が持っているのは、

役に立つのか立たないのか分からない、

ただのホイッスルだ。

これが何の効果もなかったら、

私はあっさり殺される。

冗談じゃない。

どうしてこんなことになっている?

天使と戦える部隊があるなら、

こんなホイッスルや、

私などに頼らず、

その部隊が天使と戦えばいいではないか。

そもそも、

『鳳玉』や『聖律教会』のように、

天使と戦える人材がいないなら、

天使と戦おうなどと思わなければいいのだ。

どうして『ミコト』は天使と戦おうとするのか?

その疑問に対し、

『ミコト』の部隊は、

実戦で答えを示してくれた。

天使を捕捉してから数分後、

追跡していた部隊のひとりが何かを撃った。

すると、

天使の羽が爆発した。

その瞬間、

一斉に部隊が展開した。

天使を取り囲むように部隊は展開。

そして天使が地上に落ちたところで、

一気に部隊のメンバーが強襲をかけた。

3人が天使に向かって一直線に向かいながら、

銃を乱射する。

天使がそれに反応して、

槍を投げようとした瞬間、

天使の右腕にワイヤーが絡まった。

そのワイヤーが天使の右腕の動きを止める。

天使は上空に逃げようとしたが、

右腕がワイヤーに絡まって上空へ逃げられない。

天使はそれでも上空へ逃げようとする。

天使の右腕が千切れた。

天使は左手で槍を持ち、

上空へ逃げる。

部隊は一気に散り、

森の中へ隠れた。

上空から見えない木々の陰に隠れ、

天使から見えないよう姿を消した。

上空から姿を確認できるのは、

『ミコト』の対天使部隊の戦闘の見事さに、

心を奪われていた私だけだった。

天使は槍を私に向かって投げた。

天使の槍の速さは、

おそらく、

銃弾よりも速い。

見てから避けられるものではない。

だが、

私はスズと手を繋いでいた。

こんな時のために、

スズには非常時に助けてほしいと頼んでおいた。

そのため、

ここでスズが私を引っ張って、

私は槍の一撃を避ける予定だった。

だが、

私の予期しないことが起きた。

私の目の前に、

何かが入り込んできたのだ。

それは、

肩。

頭……。

髪……。

私の目の前に、

桐島が飛び込んだ。

スズは一瞬、

私と繋いでいた手に力を込めた。

だが、

その桐島の動きを見て、

私を引っ張るのを止めた。

私の前に立ちふさがった桐島に、

天使の投げた槍が突き刺さった。

天使の槍は桐島の右肩を貫き、

その槍の先は、

私の胸の前で止まった。

天使は空中をくるりと回って、

一直線に私達に向かって、

飛んできた。

空中で身体を反転させ、

思い切り勢いをつけて、

キックの体勢で私達に向かってくる。

「吹けぇぇぇ!」

あの時と同じように、

桐島が叫んだ。

私は、

ホイッスルを、

思い切り吹いた。

ピーーーーー。

音が鳴った。

だが、

天使は止まらず、

私達に向かって突っ込んできた。

スズが、

私と桐島を引っ張った。

そのおかげで、

私達は天使のキック、

というか突撃の軌道から、

外れることが出来た。

天使はキックの体勢のまま、

地面に思い切り激突した。

土煙があがる。

部隊のメンバーが、

落ちた天使を取り囲む。

私は桐島を気遣ったが、

桐島に、

「まだ戦闘中だ。敵から目を離すな!」

と言われたので、

天使の方を見た。

土煙が消え、

天使の姿が現れた。

天使は、

キックの体勢のまま、

地面に横たわっていた。

部隊のメンバーが、

天使にゆっくりと近づき、

天使の様子を確認する。

天使は動きを停止していた。

どうやら、

キックの体勢で上空から突撃してくる時に、

ホイッスルを吹いたので、

停止はしたが、

そのまま惰性で滑空してきたようだ。

そして地面に激突した。

部隊の研究班が、

珍しそうに天使に近づく。

その内ひとりが、

天使の頭に触れた。

その瞬間、

天使の目が動き、

触れた彼の目を見た。

彼は驚いて後退る。

止まっていた天使が、

再度動き始めた。

だがその動きは、

先ほどまでの天使の動きとは比べ物にならない。

天使は立ち上がろうと、

地面をのた打ち回っている。

しかし天使は何度も転んで、

立ち上がることは出来ない様子だ。

3分ほどして、

やっと立ち上がった天使は、

翼を広げて、

飛ぼうとした。

だが、

翼が動かない。

天使は、

部隊のメンバーのうちひとりに、

襲い掛かった。

その動きは遅く、

襲い掛かられた彼は簡単に避けた。

再度、

天使は手を伸ばして、

彼に襲い掛かろうとしたので、

私はホイッスルを吹いた。

すると、

手を伸ばしたまま、

天使の動きは止まり、

千切れた右腕から、

身体が崩壊を始めた。

1分ほどで天使の身体は崩壊し、

蒸発して消えた。

天使を、

倒した。

倒したが……。

私は桐島を見る。

桐島はホッとしたような表情をした。

そして気を失った。

右肩に槍が突き刺さっているのだ。

早く治療しなくては。

部隊のリーダーが携帯電話で連絡をとっている。

どうやら近くにヘリを呼んだようだ。

私達はとにかく早く桐島を運んだ。

桐島をヘリに乗せ、

私達は車で上尾の研究所まで帰ってきた。

今は、

部屋で休んでいろと言われたので、

スズと一緒に、

部屋で休んでいる。

桐島は大丈夫だろうか?

そして、

私達の処遇はどうなるのだろう?

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