chapter1-8 「水面の波紋」
「……蒼の……階段……?」
聞き覚えのない単語だった。もしかしたら、それが組織の名前なのかもしれない。
「さてさて、あなた方お二人にショーをお見せすることが出来たので
ハイドは後ろに振り返る。そしてとある家を見つめた。
「……そこにいるあなたも、次は隠れずに見てくださいねぇ?」
そう言ってハイドは森へと歩いて行った。
ハイドが完全に見えなくなった後、ハイドが見つめていた家から一人の少女が出て来た。
「――レインっ!」
ティアラがその少女に駆け寄り、二人は力強く抱き合う。
「……ティア……ごめんなさい。心配かけましたね……」
「……う……うぅ……本当だよ。心配……したん……だから……」
「――大丈夫、でしたか?」
干渉に浸っているところに入るのは悪いが、創もじっとはしていられなかった。
「はい、ご心配をおかけしました。……えっと、貴方は……?」
「……紹介するね。この人はアマツ・ハジメ、旅人なんだって」
「まあ。それは不運なことに巻き込まれてしまいましたね」
「いえいえ、お互い様ですよ」
「そして彼女がレイン・サレスト。ヴィーネの教会のシスターよ」
何となくそんな感じはした。普通の人がこんな修道服を着るはずがない。話し方や接し方、仕草までもがそれだった。
「――取り敢えず、ヴィーネに戻りましょうか」
***
「――それで、彼らは一体何なんですか?」
創とティアラは、レインを連れてヴィーネの教会に来ていた。
教会の中のには、色のついたガラスがいくつも張られていた。そして奥には女神のような像が建てられていた。この像の前でレインが祈りを捧げる姿が想像できてしまう。
「彼らは、【蒼の階段】という組織です。その位は第一階から第十階まで、十人が所属しています」
「あんなのが十人もっ!? 彼らの目的は何ですか?」
「……分かりません。彼らが組織として姿を現したのは、約二年程前です。一人一人の力が強大で、立ち向かえる者は余りいらっしゃいません。彼らは組織の象徴として、胸元に青いブローチをしています。それをしていたら、【蒼の階段】の一人です」
あんなのが後十人もいるのが信じられなかった。たった一人であの絶望感が押し寄せる。そんなの、誰も立ち向かえるはずがない。
「そしてこの村の近くにある樹海に変わる森。あれを作った者もその一人です。名を、レイド・クロスバインと言います。【蒼の階段】の、第九階の位置に就く者です」
「レイド……クロスバイン……」
「恐らくですが、この『第九階』は“二番目に強い”という意味だと思われます」
「何だって!?」
つまり創が最初に出会った【蒼の階段】で、いきなりトップクラスの相手に当たったということになる。それ以前に、ハイドより八つも位が高いレイドはどれだけ強いか想像できない。あの時は、たった一割も力を出していなかったのかもしれない。
「彼の目的も今のところ分かっていません。何せ、第九階に位置する者です。……二年前、彼と戦って生きていたことが奇跡だったのです」
彼女は今、ティアラを助けた少年のことを言っているのだろう。僕とそっくりでありながら、恐怖に立ち向う力と強い心を持っている、彼のことを……。
「でも、【剣帝】なら何とかしてくれるんじゃ!?」
「……いえ、彼は余り人前には姿を現しません。私もお会いしたのは一度しかありません」
ティアラが提案を持ちかけるが、それはあっけなく却下されてしまう。
「剣帝……?」
それはとてもやばそうな響きに聞こえた。
「剣の道を極めた者です。この世界にはそれが三人いらっしゃします。人々はその人たちに敬意を込めて、【剣聖】、【剣姫】、そして【剣帝】と名付けています。最強の三剣士、とでもお考え下さい」
最強の三剣士。それはあのレイドよりも強いということなのだろうか。だとしたらこんなの、僕なんかが関わっていいものじゃない。そんなのに関わっていたら、命が何個あっても足りない。
「いずれにせよ、彼らは神出鬼没です。そう簡単に協力を仰ぐことは出来ないでしょう。現状では、【蒼の階段】に対抗できる術はないでしょう」
「……ッ!」
「……と、とにかくっ! 今日はもう休もう? ねっ?」
ティアラの言う通り、もうすっかり暗くなっている。今日はもう休んだ方が良いのかもしれない。創もまたいきなりこの世界に来て、またしても想像を絶する恐怖を体験した。みんな疲れているに違いない。
「そうですね。ハジメさんも今日はお疲れでしょう。どうかゆっくり休んで下さい」
「ハジメは今日は私の家に泊まって行くといいわ」
「じ、じゃあ、お言葉に甘えて」
「お二人とも、おやすみなさい」
創とティアラが教会を出た後、レインは女神像の前に立膝をついて祈りを捧げた。
「――予想以上に早く、お会いすることが出来ましたね」
レインは顔を上げ、女神像を見つめる。
「クロウさん――」
***
「――じゃあ創はここでいいかな? お布団敷いておいたから」
「うん。ありがとう」
あの後、僕はティアラの家に泊まらせてもらうことになった。
<KBR>ヴィーネには隣の村から避難してきた人たちでいっぱいだった。外で寝させる訳にはいかなく、村の住人が避難民を家に招き入れていた。突然故郷が襲われたんだ。亡くなった人もいるし、不安を抱いているだろう。この村もずっと安全かなんて保証はされていない。ハイドみたいに、この村がいつ襲われるかも分からない。
早く、元の世界に帰りたい……。
――この世界に来る度に創の身に何かが起きていた。様々な出来事があって疲れているのだろうか、目を瞑った瞬間に創の意識は無くなっていった。
***
「――う……うん……」
創が目を覚ました。
「……あれ、ここは……」
さっきまでのティアラの家の天井とは違っていた。それはいつも見ていた天井。
「……僕の、部屋か。戻って来たんだな……」
創が起き上がると、思いっきり枕を殴り始めた。
「――何だっ! 何だっ! 何だっ! 何なんだあの世界はっ!? 異常なんてもんじゃない、イカれている! 何だよ【蒼の階段】って! 何だよ【剣帝】って!」
創はただひたすらに枕を殴り続けた。
「何で僕があんなとこに行かなきゃならないんだっ! 何でいつもあんな目に遭うんだっ!」
殴る度に涙が落ち、枕と拳を濡らした。それでも、鬱憤を晴らすかのように殴った。
「――もう嫌だよ……あんな世界……行きたくないよ……」
創がようやく枕を殴るのを止めた。その時、振動で床に落ちていた携帯から着信が鳴り響く。
連絡をよこしてきたのは蓮からだった。
「……もしもし」
『創っ! お前ニュース見たかっ!?』
蓮の声は、いつになく慌ただしかった。
「見てないけど……何かあったの?」
『今すぐニュースを見てくれっ!』
頭が全然回っていなく、精神状態も不安定な創だったが、蓮にそう促されてリビングに降りて行った。創の部屋にはテレビが無いからだ。
「――創っ! あんたまたどこ行ってたの!?」
「……ごめん」
創の母親がまたしても創のことを心配していた。
「それよりこれを見てっ!」
創は母親が指さしたテレビを見た。そのニュースでは、ここから近いとこから中継を行っていた。
『――昨晩の午後五時過ぎ頃、ここ森宮町で交通事故が起きました。車に轢かれたのは、森宮町に住む比企美孝君、十六歳。すぐに病院に運ばれましたが、その後まもなくして死亡が確認されました――』
そのニュースでは、美孝が交通事故で無くなったことが流れていた。
「……え?」
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