史上最大のロストボール

 二十一世紀中葉、人口爆発に悩む各国政府は、共同して月に植民都市を作ることを決定した。

 とはいっても月面にドーム都市を作って、その中に住むのでは居住スペースが限られる。また、月の低重力が人体に与える影響も心配だった。

 問題山積で計画が頓挫するかに見えたそのとき、一人の科学者が名案を思いついた。悩み疲れていた他の科学者たちは、よく考えもせずに、その案に大賛成した。単なる思い付きに過ぎないと言って反対したのは、ごく一部の科学者に過ぎなかった。

 かくして、月の中心核にミニブラックホールを打ち込んで地球並みの重力を作り、月に大気圏を作る壮大なプロジェクトが始動した。

 この計画が成功すれば、月面全土を地球と同じ条件で利用することができるのである。

 実に素晴らしいアイデアだった。

 計画の第一段階は成功し、月は予定通りに地球並みの重力を獲得した。

 そして、ゆっくりと地球に向かって落下し始めた。

 誰かがつぶやいた。

「だから思い付き(重い月)は駄目だって言ったのに……」



 ぽちゃん。



 太平洋に月が沈んだ。

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