第6話感謝感激!

 「変なことありませんよ!褒められて涙できるって事はそんだけがんばったって証拠なんですから!」


 と言ってなづなは手を差し伸べた。


 「あ、ありがとうございます!!!」


 店員さんはなづなの手を取り、立ち上がり、しかしその顔は笑顔で満ち溢れていた。

 ふと気づいたが、


 ――今、何時だ―― 


 なづなも店員さんも立ち上がり窓の外を見た。


 「うわぁ!もう真っ暗だ」


 なづなは、なぜか必然的にもう帰らなくちゃという感覚に襲われた。おそらく前世のなごりだろう。あと、あんなこと言った自分が急に恥ずかしくなったのもある。


 「それじゃ、私、もう帰らなくちゃいけないのでそろそろ帰りますね」


 「あ、はい。それじゃ会計しますのでレジまでどうぞ」


 ――異世界にもレジなんてあるんだな――


 店員さんに連れられレジまで行った。元いた世界にあったレジとまったく同じ形をしていた。店員さんはまだ慣れない手つきでレジ打ちをいていた。


 「えーっと千エナですね」


 なづなはローブのポケットから恐らく千エナであろう紙切れ一枚を取り出し店員さんに渡した。


 「えーと、ちょうどですね」


 ――やっぱりあれで千エナなんだ――


 「レシートをどうぞ」


 「レシートまであるのかよ!」


 「え?」


 「あ、いえ何でもないです。ありがとうございます」


 レジの仕組みが元いた世界とまんま一緒だな。

 なづなは、扉の前まで行き店員さんに「ごちそうさまでした」と言った。


 「またのお越しをお待ちしています」


 さぁ、次このレストランに訪れるのはいつになるのだろうか。

 なづなが扉を開けようとしたら――


 ゴンっ!!


 なにかがぶつかる音がした。


 「ん?」


 なづなは、扉が開いたちょっとした隙間から顔を覗かせるとそこにはなんと女の子の姿があった。


 「え?え?なんで女の子が倒れてるの」


 なづなは、慌てて女の子のもとに駆け寄り、とりあえず女の子をお姫様抱っこしてレストランの中に連れて行った。


 「た、大変ですっ!」


 店員さんはなづなが食べた後の片付けをしていたがなづなの悲鳴を聞き飛び出してきた。


 「ど、どうしたんですかっ!?」


 「お、女の子が倒れてたんです!」


 「と、とりあえずそこのソファーに寝かしてください。僕、水持ってきますので」


 「わ、わかりました」


 どうしよう。命にかかわる病気とかだったらと思うとものすごくテンパってしまう。だってこんな経験一回もないのだから。いや、こんな経験一回も無い方がいいでしょ。

 そんな時、元いた世界日本でAEDについて教わった事を思い出した。

 まず周りが危険な場所でないか確認する。大丈夫、だってレストランの中だから。次は、両肩を叩いて意識があるか確認する。――トントン――


 「大丈夫ですか?」


 「うぅ......ゔぅ......」


 よかった女の子から反応があった。そんとき――


 ――ぐ、ぐぅ~~~~――


 近くから腹の音が聞こえた。


 「え?」


 「お、お腹がすきました......な、なにか食べ物を......」


 なづなは、さっきまでめちゃめちゃ心配していた自分がアホらしくなった。

 そんなところに水を取りに行った店員さんが息を切らしながら戻ってきた。よっぽど焦っていたんだろう。その点、とても優しいな。


 「はぁ、はぁ、水、持ってきました」


 空腹が原因とはいえ辛そうにしているのは事実なので水を女の子の口まで持っていき一口飲ませた。


 「はぁぁ~水おいしい、です」


 よかった、少しは良くなったみたいだ。


 「な、なにか、食べ物、を......恵んで、ください。もう四日も食べてないのです」


 『よ、四日もぉーー!!』


 二人の声が初めて重なった。それにしても、たしかに、顔色がものすごく悪かった。


 「四日も食べてないんですか。それは大変です!僕、なんか作ってきます!」


 店員さんはダッシュで厨房まで走って行った。この店の店員さんはものすごく優しいな。

 なづなは、何の意味も無にもう一回水を飲ませた。



 しばらくするとなにやら厨房あたりからいいにおいが漂ってきた。


 ――オムライスとは別の料理かな――


 まだ女の子は苦しそうだ。


 五分ほど待つと走ってこちらに向かって来る店員さんの姿が見えた。


 「お待たせしました。チャーハンです」


 店員さんの手を見るとさっきまではなかったはずの絆創膏ばんそうこうが張られていた。

 おそらく焦りすぎて怪我してしまったのだろう。いや、それ以外ありえない。だって――店員さんだから。

 女の子は、一人で歩けなさそうなのでなづながお姫様だっこしてテーブルまで運んだ。

 四日も何も食べてないせいかやっぱり軽かった。


 「よいしょ」


 女の子は鼻をクンクンさせて匂いを嗅いでから目をパッチリ開かせた。


 「こ、この匂いチャーハンだ!!!」


 女の子から一気に元気が出た。左手でレンゲを持ちチャーハンをすくい口まで運ぶ。


 「お、おいしい......美味しすぎます!!!」


 女の子の目からは涙がこぼれていた。そんだけ空腹の時に食べる飯は美味しいということだ。

 女の子のチャーハンを運ぶ手は止まらない。なづなと同じ現象だ。この店員さんのつくる料理はなにか不思議な力があるのだろうか。

 女の子は一皿ぺろっとたいあげた。

 なづなはチラっと店員さんの方を見てみたら店員さんは泣いていた。


 ――また泣いてるし!――


 けれど今のなづなにはうれし泣きだという事がわかった。


 「あのー?おかわりいいですか?」


 「よろこんでぇぇ!!」


 おい、店員さん、泣きすぎてテンションが熱血のラーメン店みたいになってるぞ!!


 モグモグ。モグモグ。パクパク。パクパク――



 このあと女の子はチャーパンを四人前食べました。

 チャーハンをたいらげた女の子はすっかり元気になっていた。


 「二人とも感謝感激です!!」


 そう言って女の子は立って一礼して見せた。

 礼儀の正しい子だ。


 「あっ」


 店員さんはやっぱり号泣していた。










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