第5話泣き虫な店員さん!



 「お待たせしました。こちらオムライスとパンケーキでございます」


 なづなの目の前にオムライスとパンケーキとお冷が並んだ。どれも美味しそうだ。


 「ありがとうございます」


 みんなもちゃんとお礼を言いましょう。


 ――いただきます――


 なづなは心の中でそう唱え、手と手を合わせ合唱のポーズをつくった。食材と作ってくれた人に感謝の気持ちを込めて。

 まず一番最初にお冷の入ったグラスを口元まで持っていき冷たい水を飲んだ。冷たい水がなづなの身体の中を駈けめぐり身体の中に染み渡る。

 さぁーてお冷で口直しができた。

 つぎになづなはオムライスに目を付けた。


 ――めっちゃおいしそう!――


 左手にスプーンを持ちオムライスをすくい口まで運んだ。


 パクっ。


 オムライスを口に入れた途端なづなの目がめいいっぱいに開いた。


 「......美味しい」


 美味すぎる!!!

 この甘すぎないフワッフワッのオム(ライスの上に乗っている卵の事)と酸味の効いたケチャップの組み合わせが実にいい。

 美味い。美味い。美味すぎる!!!

 気づけば次々とオムライスを口に運んでいた。オムライスを口まで運ぶ動作が止まらない。


 パクパク。モグモグ。


 ――本当に美味すぎる――


 気づけばオムライスが最後の一口になっていた。食べるのが勿体ないと内心そう思ってしまった。だからと言ってオムライスを残すというのはおかしい話だ。だから、最後まで残さず食べる。


 ――最後の一口、いただきます――


 一口サイズまでに残ったオムライスをスプーンですくい口まで持っていき食べた。

 パク。モグモグ。

 最後の一口までオムライスはおいしかった。


 「このオムライスとっても美味しいです!」


 美味しすぎるあまり店員さんにしゃべりかけてしまった。しまった。どうしよう。

 なづなは恐る恐る店員さんの方へと顔を向けた......しかし、振り向いた先に居る店員の顔には涙があった。


 「ど、どうして泣いてるんですか?」


 慌てて聞いた。


 「そ、そんなに美味しそうに食べてくれたのは貴女方が初めてなんです。『味が落ちた』『ゴミ』だの陰でこそこそ言われててとっても悔しかったんです。それで、それで......」


 こんな時どんな言葉をかけて良いかなづなにはわからない。でもその時のなづなには泣いている店員さんに向かって正直なことを言おうと唐突に思った。


 「自信持ってください!だってこのオムライスはとっても美味しいんですから!!」


 「ありがとうございます!!!」


 男の人の顔は何か吹っ切れたかのように清々しものに変わっていた。店員さんの力になれたとなづなはほっとする。

 なんか早くパンケーキを食べて、パンケーキも褒めたくなってきた。だってお世辞抜きで絶対美味しいと思うから。


 「それじゃぁ、パンケーキもいただきますね」


 「あ、ちょっと待ってください。よろしければ温め直しましょうか?僕のせいで冷めてしまっていると思うので」


 そういえばパンケーキがなづなに届いてからだいぶ時間がたっているような。だからと言って店員さんの手を煩わせるわずらはせるはせるのはちょっとなー。


 「いいんですか?」


 「はい!お客様には最高の状態で食べていただきたいので」


 思いのほか店員さんの顔がさっきより清々しくなった気がする。


 「じゃぁお言葉に甘えて。お願いします」


 「かしこまりました!」


 良かった元気になって。

 店員さんはパンケーキの載ったお皿を持ちスキップで厨房の方へと姿を消していった。


 「ランッララッララ~ン♪」


 店員さんはものすごい上機嫌だ。

 背中からでも伝わってくる。


 しばらく待つとパンケーキを持った店員さんの姿が見えた。


 「お待たせしました。こちらパンケーキでございます」


 「ありがとうございます」


 見てるだけで食欲がそそられる。早く食べたい。


 「それじゃぁいただきますね」


 「はい。どうぞ......ゴクリっ」


 店員さんの喉からつばを塊で飲み込む音が聞こえた。なんだこのパンケーキ一つ食べようとするだけで感じる緊張感は。


 ――あー、なんか緊張するな――


 なづなは左手にナイフ、右手にホォークをもち二枚重ねになっているパンケーキに切が刈った。

 一口サイズに切り、ホォークで刺して口元まで運ぶ。口元に近づくにつれてパンケーキの甘い香りがドンドン強まっていく。緊張も増していく。


 パクっ。モグモグ。


 なづなは確信したこのパンケーキとてつもなく美味しい!!

 口に入れた瞬間から甘い香りが口の中で広がり密封された。口の外に漏らすのが勿体ないからもう口を開けたくないって感じるくらい香りだけでも美味しかった。それでも、パンケーキをモグモグして味を感じてみたかった。


 ゴックン。


 頬っぺたがとろけ落ちそう。フワモチだー。

 なぜか、オムライスを食べたばっかのはずなのにパンケーキが無限に食べれる気がした。これが、甘いものは別腹ってやつか。


 パクパクパク


 ――美味しい。美味しすぎる――


 パクパクパク。これが四百円なんて安すぎる。

 なづなは、二枚重ねになったパンケーキをペロッとたいあげた。


 「このパンケーキとっても美味しです!!」


 「本当ですか!ありがとうございます!!」


 店員さんはまた泣いていた。泣き崩れていた。


 「ど、どうしてまた泣いてるんですかっ」


 「今まで散々陰口を言われてきたせいかなんか、褒められるのがとっても嬉しいんです。変ですかね」


 変なわけあるか。


 「変なことありませんよ!褒められて涙できるって事はそんだけがんばったって証拠なんですから!」


 と言ってなづなは手を差し伸べた。


 「あ、ありがとうございます!!!」

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