「死に戻った幼馴染みがシンプルに怖い」★★★☆

 今回読んだのは昨年のフシギ文庫新人賞受賞作、E藤U佑先生の「死に戻った幼馴染みがシンプルに怖い」です。昨年のかくラノでも文庫部門3位、売れ行きも良く周囲の評判もそれなりに高いので、一応履修しておくかぁという気持ちで読みました。ただのラブコメなのかなと思っていたらハードな設定がガツンと入り込んできて驚く濃厚な作品でした。

 以下あらすじ。


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 幼馴染みである下戸真希しもどまきの死、それは紛れもない事実のはずだった。しかし翌日、真希は何事も無かったように姿を現す。「よっ、おはよーヨシ君」「ま、真希!? お前死んだはずじゃ!?」「見方によっては、そういう風に見えるかもねー」誰も死んだことを覚えていないし、すぐに死んではすぐ蘇るし……俺はいったいどう接するのが正解なんだ!? メンタルゴリゴリ、痛快死に戻りラブコメディ!


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 死に戻りはコメディに含まれるんですか?(←なんかラノベのタイトルみたいですね)そこから疑問ですけど、まぁあらすじの話だからいいことにしよう。

 タイトルに新人賞らしさが無いなぁと思って受賞時のタイトルを調べてみますと、受賞時点では「下戸真希の生は疑似相関にある」なんですね。読み終わって見ると受賞時のタイトルの方が内容をより的確に表してはいますが、ラノベのタイトルとしては変えて正解だと思います。


 はてさて内容についてですが、交通事故による最初の死以降、ヒロインである下戸真希は週8レベルの頻度で死にまくります。道を歩けば突っ込んできた車に轢かれ、引き寄せられたように通り魔がナイフを突き刺し、店に入れば人質、空が荒れれば落雷……猛烈な勢いで事件に巻き込まれ。250ページ程度しかないのに、きちんと描写されてるやつだけでも十回は死んでますねこれ(DIEジェスト含めると数十回)。三行で復活してまたすぐに死んだりと基本ギャグテイストで書かれているのですが、なにぶん死ぬ際のグロ描写に力が入りまくってるので読んでるこちらの感情はジェットコースター。途中からは麻痺して逆にすらすらと読めるレベル。とはいえ精神面については真希自身が達観しているので陰鬱さはありません。この辺のバランス感覚には光るものを感じました。


 そんでこの作品の読み味を決めているのが、ヨシ君こと主人公の倉舘義治くらだて よしはるの心情描写です。ただひとり真希の死に戻りを知覚でき、幾度となく真希の死を目の当たりにする義治。幼馴染みの死体を見ては嘔吐し、回を重ねるにつれ段々とノイローゼ状態に陥ります。すり潰される義治の心、ピンピンと死にまくる真希。肉体的に傷付き続けるヒロインと精神を病み続ける主人公という対比はいいですね、いや良くないけど……。


 真希が死に戻る理由は〈知覚依存疑似相関存在〉という設定で説明されます。受賞時タイトルの「下戸真希の生は疑似相関にある」の回収ですね。中々難解な設定なので、作中での説明を引用させていただいて。


 "ハリー・ポッターにまね妖怪……ボガートって出てくるでしょ? その人の一番怖いものに化けて出てくるやつ。あんな感じで、人の記憶を参照してその姿振る舞いを変化させるのが知覚依存疑似相関存在だよ。ま、こっちは妖怪でも知的生命でも何でもない、ただの現象なんだけどさ。"


 『下戸真希』と部分的に近似した振る舞いを見せた自然現象(風や水や植物)を核とし、そこに周囲の人間の記憶や感情で肉付けすることにより人間として振る舞う、モノ。

 そう、真希は最初の死の時点で本当に死んでいたのです。しかし偶然にも〈知覚依存疑似相関存在〉の核と成り得る現象が発生し、そこに義治の記憶が反映されたことによって真希の姿となった……というのが死に戻りの真実です。何度も死を繰り返すのは、義治の持つ真希の最も強い記憶は交通事故でぐしゃぐしゃに折れ曲がった死体だったから。

 そんなこんなの一連の背景が判明するのが中盤で、がらりとブラックコメディから雰囲気を変えてきたことに驚きました。原因については最後にネタばらしみたいな感じで使うと思ってたばかりに不意打ちをくらった気分。


 この辺の説明役として登場するのがクラスメイトのオカルトマニア少女・鴻野蘭子こうの らんこなわけですが、彼女がストライクゾーンど真ん中のメガネっ子でテンション爆上げでした。豊富なオカルト知識と不健康で適度に気持ち悪い口調の感じがたまんねえっす。

 そんでまぁ鴻野ちゃんが可愛いのはいいんですが、正直設定の作り込みが過度な気が否めません。直接ストーリーに関係しないところまで設定を深掘りしている感じ。説得力を持たせたいのは分かりますが、作者側で練るだけにしてしまった方がスマートなシナリオ運びになったと思うだけにもったいなく感じます。いや鴻野ちゃんは可愛いのですが。


 とりあえず続きについても話していきましょう。このままではいけないと、鴻野ちゃんは義治に二つの選択肢を示します。

 下戸真希ではないその存在を、本人として扱い続ける道。それとも何らかの手で、その存在を終わらせる道。


 どちらにしろ、義治の中に存在する交通事故の記憶をより強い思い出によって書き換えることが必要になってきます。どうやって思い出を書き換えたものかと悩む義治に、いまだ態度を変えない真希は義治に提案するのです。


「それならさヨシ君――私とデートしない?」


 そして始まる、命がけのデート。ラブコメ的にも生命的にもハラハラドキドキで吊り橋効果抜群な展開。やり取りそのものは甘いのですが、いつ死んでもおかしくないという別のドキドキに怯えながらページを捲る希有な読書体験ができます。

 そうやってトラウマへの向き合い方が変化していって、迎えた終盤。ついに(死のデメリットが遠のいて)乗れるようになった観覧車で、義治は真希から告白されます。

 ここが、ね……。

 今の真希はが反映される存在。だから真希の告げた好意は、義治の願った/想像した感情以外にありえない――そのことに、義治は直ぐさま気が付きます。

 気が付いて、しまうんだ……。

 ねえ、ねえだって、義治が淡く抱いていた好意をやっとのことで自覚したその直後じゃん。何度も死ぬ幼馴染みを死なないようにできたけど、それによって生まれたのが自身のエゴで自分を好きになっている幼馴染みってどんな拷問? 地獄以外の何だっていうんだ……めっちゃ呻いたよもう。


 悩んで、悩んで、悩みまくって、そして義治が選んだ結論は――。


 ……まぁ、現在4巻まで出てるので真希を殺さず先延ばしにするのは分かってたんですけどね。新人賞受賞したてのタイミングで読んだらもう少しハラハラしたのかなぁと思うとちょっと悔しい。個人的には単巻完結できっぱりやって欲しかった気持ちの方がデカいです。とはいえTwitterで流れてくる続刊の反応が良さげなので、その辺を決めつけるのは2巻以降を読んでからにしないとでしょうね。噂には次巻葬儀回らしいです。え、それどうやって続けるん?


 1巻に関しては、全体を通して面白い作品でした。鴻野ちゃんとか、あと鴻野ちゃんとか。冗長だった設定描写と次巻以降の伸び代を加味して、評価は上記のような感じです。積み本の関係上2巻をいつ読むのかは不明。


 そんでば、今回はこれぐらいにしておきましょう。さようなら。

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