第3章 パーテイ―。

高輪のホテルで開かれた、明光大学馬術部創部50周年パーテイ―に、先日のクラブからの帰路、同乗させた朝倉智子と口約束したことも有って、あまり気は乗らなかったが、智子が義理も有って出席すると言うので、エスコート役の意味で自分を納得させて出席した。

JR品川駅正面階段を下りて、左手のウインズの入り口を入った所で、智子と待ち合わせることにしていた。

パーテイ―は午後の6時半からの事だったので、駅前のホテルの事、そう時間も取られるわけでもないので、待ち合わせ時間を6時10分にしていた。

横浜の自宅からなら1時間もかからない、少し早めだったが待ち合わせ場所に着くと、既に彼女は、ウインズの自動ドアの向こうに立っているのが、行き交う人の群れの合間に見え隠れして見えた。

 駅正面の階段を下り、ウインズの入り口に向かうと、目ざとく私を見つけて、朝倉智子は、顔を輝かせて胸のところでひらひらと手を振って合図した。

 私は思わずほころびる頬の筋肉を意識しながら、大きく頷いて片手を上げて気づいたとの合図を送った。

 「待たせたかな」約束の時間には、まだ間が有ったが一応声を掛けた。

 「いいえ、私も今着いたところです」智子は笑顔で答え、暑いわね、と言葉には出さずに表情で問いかけた。

 「全く、くそ暑いね」わたしも、カーッと照り付ける第一国道の照り返しに目をやった。

 信号が変わるのを待って二人は、京急ストアの涼しさの中から出て、高輪側へ寄せ波、引き波のように横断歩道を渡る人の群れに交じって、エアコンの効いた京急ホテルを含むウインズの中を抜けて、ざくろ坂の途中からプリンスホテルの新館へ入った。

 入り口から左手の階段を上って、広く取られた新館の1階ロビーに出た。

 ロビー右手には、幾つかな小部屋とテナントの店舗と、一段低くなってラウンジが広がり、左手のエントランスとフロントカウンターが客を迎えている。

 ラウンジとフロントカウンターの向こうに旧館へつながる廊下が延びて、フロントカウンター側には、客室が幾つかあって、通路の右側には庭園が設けられていて窓越しに緑が目に入った。

 未だ時間が有るので、ラウンジで少し寛いで時間を潰そうかと、ふと目を走らせると、奥の方の席に、笠木オーナーと乗馬協会職員の城所氏を見つけた。

 パーテイ―会場は禁煙なので、二人とも喫煙タイムと言う事らしい。

 気づかないふりをして素通りも出来ないなと、私は智子を促すと、一段下がったラウンジへ入り、笠木ら二人の席へ足を運んだ。

 「今日は、暑いですね」私と智子は、二人の席の前に並んで立つとあいさつした。

 「おや、加藤さんに・・・・・・」協会職員の城所は振り返って立ち上がると、こくりと頭を下げて、私の顔から並んで立った智子に視線を移した。

 競技歴の乏しい智子は二人には知られていなかった。

 「ああ、こちら、朝倉智子さん、相模原のクラブの会員さん」と二人に紹介した。

 「そうですか、初めまして、乗馬協会の城所です」一寸小腰を屈めて笑顔を

向けた。

 笠木オーナーは座ったままで、煙草を持ったままの、片手を上げてることと笑顔であいさつした。

 「未だビギナー段階です」と智子は恥ずかしそうに笑った。

 「そうですか、まあ、うちの方にも乗りに来てくださいよ」笠木はお愛想のように笑顔で誘った。

 「有難うございます。目下、加藤先生に見て貰ってるんです」と智子は私の方に目を走らせて答えた。

 「そう、それはいい、加藤さんなら上達も早い」

 「いやいやあ、サンデードライバーですからなかなか~。それより、小林さんの具合はいかがですか、チャンセラーも罪作りですね」と私は応えた。

 「やあ、小林ですか、まだ意識は戻ってません。心配してるんだが、あれ以来、チャンセラーの面倒は息子にやらせているんですよ、ほかの者が恐がっちゃっててね・・・・・・・・・」と、如何にも歯がゆそうに言った。

 「そろそろ、時間ですかな。向こうへ行きますか」

 

 灰皿に吸っていた煙草をな事故むようにして消すと、やっこらしょっと立ち上がった。見たところ、喫煙していたのは笠木で、城所は専らその煙害に晒されて居tことになる。灰皿には数本の先がクシャっとつぶれたのや、折れた吸殻が乱雑に重なっていた。相当のヘビースモーカーのようだ。

 4人は、ラウンジを離れて、ロビーからその下の階への階段を下りて会場へ向かった。


 会場入り口に長机を置いた受付で、会費代わりの金一封の熨斗袋を差し出し、芳名録に記帳して、此処でも受け付けの者や、誰彼無くその辺りに固まっていた者とあいさつを交わしたり、言葉を重ねたりする笠木と城所を残して、私と智子は、未だ疎らな出席者のいる会場へ入った。

 

 「あの、笠木さん、ヘビースモーカーで、結局禁煙できなかったのかしら、あの時、ずっと禁煙パイポだかを銜えて走り回っていたのに・・・・・・・・」と智子は、ちらっと受付の辺りで止まっている笠木の方を振り返って言った。

 「あの時って、」「黒沢さんが事故死した時、まるで赤ん坊のおしゃぶりみたいにパイポを銜えていたのに」

 「そう、禁煙はなかなか難しそうだね。意思力が相当強くないと」

 「ストレスがたまるのかしらね、エース級の馬が、あんな状態で、この次の競技に、笠木ジュニア―が乗って出るそうよ」

 「ほう、それは知らなかった。汚名挽回、と言う積りかな」

 「上手く乗りこなせば、ジュニア―の名も上がるし」

「お手並み拝見、と言うところだね」私と智子は顔を見合わせて笑った。


 賑やかな会場は、ビュッフェスタイルで、十人掛けのテーブルが、群島のように配置され、既に各テーブルは殆ど塞がっていた。

型通りの主催者の挨拶やら、特別招待の要人やらの挨拶があって、乾杯が終わると、料理が置かれた壁際や中央の長テーブルに、忽ち人の群れが出来上がり、「わーん」と言う、音となって会場中の話し声が天井に反響するようだった。


 地方からの参加者も居て、久し振りに友人知人と言葉を交わす事も出来て、パーティー参加は有意義だった。

  

 高校、大学を通して、馬術部の仲間とも何年ぶりかで会い、疎遠になって居る仲間の消息を知り、また私の知る者の消息などを伝えた。


 そんな中で、今は、笠木オーナーのクラブ会員になって居る篠原から、チャンセラーサードの状態や、現在蹴られて意識不明のままの厩務員小林と、オーナーの笠木との間で、何やらもめていて、其れには事故で死んだ黒沢も絡んでいたらしいと言う事だった。

 とすると、一体、揉め事の原因と言うか、何で揉めていたのだろう。死んだ黒沢と、大怪我をした小林、それに、二人ともにチャンセラーサードが関係している。

 すくなくとも、私は二人のことが無ければ、チャンセラーサードは名馬の一頭だと思っている。これまでいい成績を残していて、何で、急にここに来て狂い馬、或いはとんでもない難馬になったのか、それとも、もともと狂奔する様な素質を持っていたのが、何かの拍子に本性を現したのか、そんな疑問がウkん出来て、今度の競技会に、笠木オーナーの息子が、チャンセラーサードの汚名挽回にと出場するのだろうか、本当にお手並み拝見だ。

 


 

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