第5話 ターミネー子、戦闘準備をする

「入社……面、接!?」

「……はっ?」


 面接開始と聞いた途端、TA-2000に異変が生じた。

 

「い、いきなりどうした!? なんだその完全武装は!?」  


 突然ライダーヘルメットじみた装甲が頭部を覆い、両肩からはガトリングガンらしき銃器がシャツを突き破って出てきたのだ。

 当然両腕だって大口径のサイ〇ガンに変形した。

 そしてその全てが俺と快瑠に向けられている。


「オイ譲治ィ! なんとかしろッ!!」


 両手を上げて硬直状態になった快瑠が必死の形相で助けを求めてくる。

 俺だってどうしてこうなったか分かんねえよ!

 

「おおお落ち着け落ち着け落ち着け! とりあえず落ち着こう! な!?」

「私は極めて冷静です」


 完全武装形態に変化した殺人アンドロイドは、平然とした口調で自分は冷静だと申された。

 つまりはもっともな理由があって武装が必要だと判断したのだ。

 気が変わったか、それとも未来から俺達を殺せとの命令が通達されたのか。


「と、とりあえずその物騒なモンをしまってくれないか?」

「拒否します」


 あぁ、終わったわ。

 俺の人生はここまでのようだ。


「……譲治。来世でまた会おうな」

「……あぁ」


 快瑠も両腕をだらんと降ろして未来を諦め、俺に苦い笑顔を見せつけてくる。

 まだまだやり残したことはあるけれど、心残りが無いと言えば嘘になるけれど、悪くはない人生だった。

 次に生まれるなら何の変哲もない一般的な中流家庭の子で、争いの無い平和な世界に生まれたいなぁ……。いや、未来は人類対機械の大戦争があるから平和なんてものはないのか。


「はぁー……」


 来世にも楽などないと思い至り、一つ溜息を吐き出した。


「……なるべく、苦しまないように頼む」

「何を言っているのですか?」

「何って……。今から俺達は殺されるんだろ?」

「どうしてそのような結論に至ったか理解しかねます。それよりも早く入社面接を開始してください。私の準備は完了しています」

「……え? 入社面接? じゃあその完全武装にはどういったワケが」


 どうして入社面接に武装が必要なのか、これが分からない。

 ムカつく面接官をぶっ飛ばしてやりたいという話はよく聞くが、そういうことじゃないよね?


「私のデータベースにおいて『入社面接』の脅威度は高レベルに設定されています。特に日本の入社面接には『圧迫面接』や『集団面接』などといった極めて危険度の高いものがあると。よって万全の戦闘準備をして臨むものだと判断しました」


 俺達はしばらくの間沈黙に包まれた。

 呆れて言葉も出ないってヤツだ。

 あそこまで死を覚悟していた自分自身にも呆れて何も言えない。


「ちなみにその脅威度ってのは、別の物に例えるとどれくらいで?」


 そんな中でいち早く気持ちを切り替え、静寂を最初に破ったのは快瑠だ。


「旧時代の制度である入社面接は一人の人間の人生を左右するのは勿論、時には多数の死傷者を出したと記録されています。よって戦車や戦闘機などの戦術兵器と同等に扱われます」

「あぁ……うん。そうですね、ええ」

「おい! そうじゃないだろ!」


 間違ってはいないけど間違っているを地でいく回答がなされた。

 果たしてこれはこの時代の人間が悪いのか、それとも未来の人工知能がおかしいのか。

 俺はその両方だと思う。

 

「えっとなぁ……。たしかに入社面接は脅威的なものだけど、それは人間に対してのみだ。君のような機械には何の害もないから、一刻も早く非武装状態に戻ってくれ」

「なるほど。了解しました」


 某サイボーグ警官的な頭部装甲が後頭部に消え、見目麗しい女性の顔が表れた。

 両腕の〇ックバスターは女性の細腕に戻り、両肩から生えた太くて長くて黒光りするガトリングガンも折りたたまれて体内に収納された。

 それでもシャツは破れたままなので、後で新しいのを渡しておこう。


「そんじゃ気を取り直して、面接を始めようか」

「はい」


 俺も快瑠も喉が渇いたのでペットボトルのお茶を取ってくると、ついにそれは始まった。


「それではまず、最初の質問ですが」


 おそらく人類史上初の機械への入社面接。

 その記念すべき最初の質問は何かと、お茶を含みながら耳を澄ませる。



「スリーサイズはいくつ? それと胸は可変式?」 

「ブーーーーーッ!!!」


 

 吹き出さずにはいられなかった。


「快瑠お前っ! 頭湧いてんのか!?」

「えー?」


 俺はこの糞イケメンの襟を掴んで思い切り揺さぶった。

 それでもなおにやけ面を浮かべるのを見て、お茶をぶっかけてやろうかとも思った。 


「どうしてそんな質問をした!? 言え!」

「いやぁ、映画でそういうシーンがあるじゃん?」


 言われて俺はとあるアンドロイド物映画第3作目の冒頭を思い浮かべた。

 敵役の女ターミ〇ーターが警官から銃を奪うため、胸を大きくして油断させるというものだ。

 それを初めて見たのは中学生の頃だったため、とても興奮したのを覚えている。


(……あるな)

(……だろ?)

(でも、それとこれとは別問題だろ? セクハラだぞセクハラ)

(100年後の未来ならまだしもこの時代において、機械に人権が適用されると思うか?)


 俺はもう、それ以上何も言わなかった。

 悪魔の耳打ちを受け入れてしまったのだ。


「それでTA-2000さん、どうです? お答えできます?」

「それは、その……。羽鳥譲治が許可するなら……」


 TA-2000はその問いに対し口ごもらせ、人間の女性らしく恥ずかしがっているように見える。

 あぁ、そうか。社会に溶け込むために「寂しがり屋の新卒ダメっ子OL」なるふざけた人工知能が埋め込まれているから、無駄に人間らしいんだった。

 しかしそう考えると、少し罪悪感が……。


(ここで聞かなきゃ、告白しそびれた高二のあの時と同じように後悔するぜ?)


 僅かに芽生えた罪悪感は即刻刈り取られ、


「TA-2000」

「……は、はい」

「これは入社面接だ。何もやましい理由はないのである。よって回答を許可する」

「了解……しました。ス、スリーサイズは上から――」

 

 俺は堕ちた。


「うぅ……。これが、入社面接なのですね……」


 巨乳グラドル並に膨らませた胸を元の大きさに萎ませ、少し潤んだ瞳で俺達を見つめてくる。


「えぇそうなんですよ、これが日本の闇なんです。お辛いですよねぇ……」

「違うから。TA-2000さん、コイツが教えることはあまり真に受けない方がいい」


 昔からそうだ。

 快瑠はそれらしいでまかせをさも事実のように吐いて他人をおちょくるのが趣味なのだ。

 しかもほぼ必ず第一印象で好印象を与えるために、多くの人々が騙されてきた。

 俺だってコイツに騙されて、レンジの中で生卵を大爆発させた。


「まぁそれはそれとして、次の質問に参ります。あなたの長所、それと何か特技があれば教えてください」


 やっと、快瑠の口からマトモな質問が出た。

 これで面接らしい面接ができることだろう。


「はい、私は従来型より高駆動・低燃費に製造されています。暗殺・抹殺、そして大規模な破壊活動が私の特技です。この時代の米国防総省本庁舎ペンタゴンならば12時間以内の制圧が可能です」


 前言撤回、この面接にマトモなんてものはなさそうだ。

 

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