第78話 閑話②

「……えへへぇ、真白お姉ちゃんの膝枕だぁ〜」

「うんっ! お姉ちゃん、、、、、の膝枕だよ〜」

「お姉ちゃん大好き……」

「お姉ちゃん……えへへ、えへへへ……」


 蓮が真白に膝枕をしている光景を見られた瞬間、家に気まずい雰囲気が流れたが、真白の膝枕案で、どうにかその話題を避ける事が出来た。

 楓は真白の大ファン。そんな提案を本人からされ、光の速さで甘えたいスイッチが入ったのだろう。


 そして……真白の顔が溶けているのは相変わらず。

『お姉ちゃん』呼びが余程嬉しいようだった。


「でもでも、お家に真白お姉ちゃんがいるなんて思わなかったなぁ……。嬉しいなあ、嬉しいなあ」

「わたしも楓ちゃんに会えて嬉しい。VRでしか会うことが出来なかったもんね」


「うんうんっ!」

 あれから何度もVRで顔を合わせている真白と楓は現実世界で初対面にも関わらず、姉妹のような仲の良さである。


「楓、あんまり真白に甘えるんじゃないぞ?」

 楓は時より度が過ぎたことをする。それが真白の迷惑になる可能性があるのだ。


「真白お姉ちゃん、お兄がカエデに嫉妬してます。殴られるかもしれません、怖いです」

「その時はわたしが庇いますねっ」

「……ったく、そうじゃない。迷惑がかかるだろって言ってんだ」


「真白お姉ちゃん! お兄が言い訳をしています! あの言い訳を翻訳すると、『そこは俺専用のテリトリーなんだからさっさと出ろよ。クソ妹の分際で、その高貴な太ももを堪能するんじゃねぇよ』……ですね」

「こ、高貴な太ももって……。え、えっと、蓮くんはそう思ってるんです……か?」


 純粋な真白は、妹の楓が言う言葉を真実だと思い込んでいるのだろう。コテって首を傾げて疑問を投げる。


「はぁ……。楓の言うことを全て真に受ける必要はないからな。……それで、何か飲み物を持ってくるが注文はあるか?」

 そんな呆れを見せつつ、帰ってきた楓に気を遣う蓮。


「オレンジジュース!」

「真白は?」


「あっ、わたしが注いできまーー」

「真白はお客さんなんだから、そんな気を使わなくて良い。こんな時こそ、真白お得意の甘えを見せるもんだぞ」


 真白に声を被せて、微笑を浮かべる蓮。


「そ、それじゃあ……楓ちゃんと同じもので……」

「分かった。少し待っててくれ」


 そうして、蓮は立ち上がり冷蔵庫に向かって行った。



 =========



「心配する必要は絶対にないです!」

「そう……でしょうか……」

 蓮がオレンジジュースを持ってリビングに戻ると、楓が何か意志を固めた表情で楓が視線を向けてくる。


「どうしたんだ?」

「お兄、浮気は死刑です」


 ボンっと、ソファーを叩きながら楓は言う。


「藪から棒になにを言ってんだよ。浮気なんてするか」

「らしいです。真白お姉ちゃん」

「う、うん……」


『らしいです』と、楓が真白に流したことで大体の内容を察する蓮。


「何度も言うが、真白は心配しすぎなんだって。そもそも俺に浮気するような度胸はないし、そんな相手も居ない」

「だよね! お兄だもんねっ!」

「殴るぞお前」


 妹の直な反応は兄にとって一番のダメージになり、嘘偽りなく言うところは楓らしいところでもある。


「お兄、カエデを殴ってもいいけど、真白お姉ちゃんを絶対に幸せにしてよね! 真白お姉ちゃんはお兄のこと真剣に考えてるんだから」

「ちょ、ちょっと楓ちゃん!?」


 そしてーー突として火の粉が真白に移る。


「カエデは真白お姉ちゃんの想いに胸を打たれました。お兄もこれを見てください!」

 楓は膝枕をされたまま、ポケットからスマホを取り出しメール画面を蓮に見せてくる。


「えっと……、『もっと蓮くん甘えたいです……。もっと好きになってもらいたいです。どうすれば良いでしょうか』……って、このメールは俺に読ませて良いもんじゃないだろ!」

「な、ななななんで蓮くんは音読しちゃうんですかっ!?」

「えっ……。す、すまん」


 楓は蓮に真白の想いを知って欲しいとの気持ちがあり、蓮は真白を無意識に恥ずかしがらせ、真白は蓮に包み隠してないメールがバレる。

 何が何だか分からない展開になった。


「次からはカエデが読みます。この次に送られてきたメールです」

「カエデちゃん、恥ずかしいからあ……!」

「真白お姉ちゃん! カエデがいる今だからこそ、もう少し殻を破らないといけません! お兄は真白お姉ちゃんが考えてる以上に心配、、しているんですから」

「えっ……」


「……」

 真白が目を丸くさせて蓮に視線を寄せる。その視線から蓮は逃げた。

 それは、楓の発した言葉が当たっていたからだ。


「カエデのお兄は“隠れスペック高い野郎”には違いありません」

けなしてんのか、褒めんのかどっちなんだよ」


「そんなお兄ですが、真白お姉ちゃんとは比べものになりません。特に真白お姉ちゃんにはたくさんのファンがいます。言い方はアレですが、真白お姉ちゃんは男を選び放題と言っても過言ではないです」

「……」


 何故か師匠の話を聞くがごとく眉を寄せて、楓の話を真剣に聞く真白。


「考えてみてください。もしお兄がモデルさんで、女性のファンがいっぱいいる姿を! 心配になりませんか!?」

「……な、なります……」


「真白お姉ちゃんは、お兄を安心させる義務があると思います。お兄は平気そうに見えても、影で心配する人間なんです」


 長年過ごしてきているからこそ、知られている蓮の性格。こればかりはどうしようもない。

 そして純に気になった。真白が楓に送っているメールの内容を。


「真白お姉ちゃんは大人気のアイドルさんです。これも言い方がアレですが、彼氏を取り替えられる立場に真白お姉ちゃんはいます。だからこそ、もう少しお兄を安心させて欲しいんです!」

「わ、分かりました……! それじゃあそのメールを読んでください……」

『うん!!』


 本人から了承を得た楓はそして……口に出す。


「その次のメールです。『蓮くんにお弁当を作って、食べて欲しいです……。美味しいって言ってもらいたいです。迷惑に思われないでしょうか』です!」

「楓。もう分かった。もう安心したから読まないでいい」


 蓮は眉間に手を当てながら、頰の赤みを隠していた。

 そう、蓮は真白にお弁当を作ってもらったのだ。その時の味と……食べさせてもらった体験。思い出すだけで恥ずかしさが襲いかかってくる。


 ーーそして伝えていた言葉もある。

『次は俺が弁当を作るから。……ずっと作っていけたらいいな』……と。








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