第77話 閑話①
燦々と照りつける太陽。近場の木々に止まり鳴き続けるセミ。
時期は夏。そして学園は夏休みに入っていた。
アイドルとして活動する真白は仕事が入る日が多く、蓮と会えるのは日を跨いで……ということが多かった。
そんな真白は、蓮の自宅でゆっくりと過ごしていた。
「クーラー付けてもこの暑さか……。すっかり夏だな……」
「アイスがいっぱい食べたくなりますね」
「だな。…………さて、離れろ」
「無視します」
少しダボっとしたズボンを両手で掴んで、拒否反応を見せる真白。真白の頭は蓮の太ももの上。膝枕をしている状態である。
「最近、甘え癖がひどくなってないか? 別に不満とかがあるわけじゃないが」
「だって、蓮くんがいつものわたしが好きって言ってくれたから……」
「それはそうだが……これは少し違くないか? 俺が真白の便利道具みたいになってる気がする」
「蓮くんはわたしだけの人です……」
わたしだけの『物』と言わず、わたしだけの『人』というのは、真白らしい言い方だった。
「だから、蓮くんはわたしから離れちゃヤです……。わたしが養いますから、蓮くんは側にいてください」
「心配しなくても大丈夫だって。ってか、寧ろ養う気持ちでいるし」
アイドルとして大人気の真白。その稼ぎは一般男性の平均給料を超えている。それも『何倍』という文字をつけて。
このままの人気が続けば、蓮は仕事無しで真白に養ってもらうことが出来るだろう。しかし、そんな甘えた選択肢を選ぶわけにはいかなかった。
「最近は、蓮くんとの未来を考えてお仕事を頑張らせて頂いてるんです……。そのお陰でお仕事がいつも以上に楽しいです」
「……そうか。ありがとな真白」
「うんっ! えへへ、蓮くん、蓮くーん」
褒められたからだろうか、すりすり、すりすりと、頬ずりをしてしながら真白は甘い声を出している。
そしてーー
「蓮くん、今日はしないんです……か?」
急に小声になっても膝枕の状態から腕を蓮の腰に回して来る真白。
「ん、何をだ?」
「そ、その……あれですよぅ」
雪のように白いほっぺを真っ赤に染めている反応を見て、ある程度のことを察する蓮だが確信があるわけではない。
「ちゃんと言ってくれないと分からないんだが」
「うぅ……ぼ、
「房事……? 聞いたことがない言葉なんだが」
「
「交接……? 交わるに接する……って、おい」
「おいってなんですかぁ!」
漢字の意味を考え、理解した蓮は感情の篭ってない声を発する。
性交と同じ意味であろう、房事という聞き慣れない漢字を知ってる辺り流石は真白と言うべきだろう。
「どう考えても回数がおかしいだろ。週に何回してると思ってんだ」
「週に1回から2回だけじゃないですかっ! 性欲は1日に満タンになるって本で読んだんですっ」
「どんな本だよそれ。何度も言うが普通に多いし」
「少なすぎるんですっ! 会う日は毎日してもいいじゃないですか! お、お仕事とかで全然出来ない日もあるんですから……」
ほやほやのカップルとしては、一週間に1回か2回という回数は少ないかもしれない。それは蓮にも真白にも分かったものではないだろう。
だがしかし、蓮はそのことだけを言ってるわけではなかった。
「あのな、俺はヤる回数だけを言ってるわけじゃない。……俺が寝てる時に
「そんなこと……しないもん。襲ったり、しないもん……」
と、目を逸らしてマズそうに言う真白。嘘を付けない性格の典型的なタイプである。
「正直に言えばまだ膝枕してて良い」
「……」
「立ち上がるぞ?」
「お、襲いました……」
可愛い顔で悪びれた様子も無く、ボソッと呟く。そんな真白を無言で見つめる蓮。
「だってそこに、蓮くんの寝顔があるから……」
無言の圧力を喰らった真白は襲う理由を述べた。まさしくそれはどこかの登山家が言ったようなセリフである。
「……」
そして、未だに無言で真白を見つめる蓮。
「蓮くんは寝て30分後に熟睡するんです。そこから1時間と30分は絶対に起きないんです」
「……わ、分かったからもういい」
確かな情報を漏らしていく真白に、蓮はお手上げ状態だった。睡眠を取っている間は無防備で対処の方法がない。
「そんな夜更かししてるから朝が弱いんだよ。そんなんだと真白のお母さんに言いつけるからな?」
もちろん、お泊りは真白のお母さん公認で、『大人の真夜中を楽しんで来るんだ
よ〜』と言ってくることを毎度笑顔で報告してくる真白は、なんとも幸せそうである。
「報告だけはやめてください……。って、蓮くん!」
「ん?」
「その時に、わたしにちょっかい出してきたりしてませんか!? この前、胸の第2ボタンが外れてたんですっ!」
「それはどうだろうな〜」
目を細めて意味深に声を伸ばす蓮。当然、寝ぼけている真白にちょっかいは出す。しかしそれは胸を揉んだりと……大人なことをするわけではない。
頬っぺを摘むなど、子ども遊びみたいなものだ。
「や、やめてくださいよ……! それは、は、犯罪じゃないですかっ!」
「どの口が言うか。襲ってくるのは真白だろ」
「こ、行為中は蓮くんが襲ってじゃないですかぁ!」
「それは襲うとか言わないだろ」
「で、でも……そんな蓮くんも大好きです……から」
「……照れさせるような言葉を言わせるんじゃない」
そんな会話をしている矢先、
「カエデ、ただ今帰還しましたっ!!」
「ん!?」
「へっ!?」
玄関の扉が突として開き……元気な声が聞こえてくる。
それは、海外から帰国した妹である楓の声だった。
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