第69話 夕焼けに染まる教室その2
「だ、だから……蓮くんがわたしのを揉むんです……。そ、そうしたら……わたしのは大きくなります……」
「バ、バカ。そんなことするはずがないだろ……」
真白が本気で言っていることを知る蓮は、視線を外して顔を廊下に向ける。もし、『胸が大きい女子がタイプ』なんて答えたら、真白の言い分通りに出来るだろう……。
しかし、これは蓮が真白を不安にさせたから起こっていること。
理性が削られる最中、蓮は必死に我を保つ。
「……ぅ、わたしは蓮くんが好む女の子になりたいんです。そうじゃないと、蓮くんはわたしから離れちゃいます……」
「……」
「わたしは、ずっと蓮くんが好きだったんです……。ようやくこの関係になれたんです……。蓮くんと一緒に居たい、別れたくないんです……」
自己評価の低い真白だからこそ『別れる』と、この三文字が浮かんだのだろう。
真白は、蓮が別の女子に切り替えるために、自分の評価を上げているという解釈をしていたのだ。
「それなら尚更、真白の言い分を呑むわけにはいかない。……俺は真白の身体目的で付き合ってるわけでもないし、今の真白に不満があるわけでもない。そもそも俺が胸の大きい方が好みだなんて言ってないだろ」
「で、でも……でも、男の子はおっぱいが大きい女の子が大好きって言うじゃないですかぁ……」
「それは男子全員の意見じゃない。前にも言ったが、俺は普段の真白が好きなんだ。無理に変わろうとしなくていい」
「……わたしも、今の蓮くんで良いんです。それなのに、蓮くんはどんどん評価を上げて……そんなのずるいですっ!」
真白は自身が持つ不安をどうにか解消したいのだろう。なんとしてでも……そんな気持ちが伝わってくる。
だからこそ、蓮には白状する選択しか残されていなかった。
「こ、こうする方法しか思い浮かばなかったんだよ。……真白に釣り合うにはさ……」
「えっ……」
頭を掻きながら恥ずかしそうに話す蓮に、真白は目を丸くする。
「もし俺たちが付き合ってるのがバレた時、『なんであんな男と付き合ってんの?』とか、真白に向かって言われるのは目に見えている。……俺にとって真白は初めての彼女。そんな大切な相手を俺のせいで傷付けるわけにはいかないんだよ」
「……蓮くん」
「だから、俺が印象を上げたい理由は真白に釣り合うため……。ったく、こんな恥ずかしいこと言わせないでくれ」
「な、ななななんでそんなこと黙ってるんですかっ!? 早く言ってくださいよっ!」
かぁぁ、と沸騰するかのように顔を赤くしながら真白は嬉しさを滲ませている。印象を上げているのが自分のためだと、教えてもらったのだ。これほど、嬉しいものはない。
「今回の件は俺が悪いと思うが、自分の身体はほんと大事にしてくれ。俺が彼氏だからといって、簡単に胸を触らせるような真似はするんじゃない。俺だって男だ。なにをするか分からないんだぞ?」
「そ、それって……れ、蓮くんがわたしを……お、襲うってこと、ですか……」
「俺が襲われる立場になりそうだがな。真白、むっつりらしいし」
「んへあっ!?」
「なんだその驚き方」
またまたとんでもない発言をする真白に、蓮はカウンターを放った。恥ずかしいことを言わせた為の仕返しでもあった。
「わ、わたしは、えっちくないですっ!!」
「……分かった」
「えっちくなんて、ないもん……」
「分かったって」
「本当だもん……」
「俺は気にしないから」
「気にしないからってなんですかっ!?」
返答を間違えた蓮は、強引に話題を変えることにする。これはどうしても聞きたいことの一つだったのだ。
「あと、可憐から聞いて確かめてみたいことなんだが……真白のスマホのロック中の画面を見せてくれないか? プライベート用のスマホの方を」
ロック中の画面とは、スマホの電源を入れた時に映る最初の画面のことだ。この画面には、壁紙を設定出来る仕様になっている。
「い、良いですけど、検索履歴とかは見せないですからね?」
「ああ、ロック中の画面だけでいい」
「少し待ってくださいね。……はい、どうそ」
「ありがとう」
カバンの中から、小さなキーホルダーが付いたスマホを取り出した真白は蓮に手渡しする。
——そこから、蓮はスマホの電源を付けてロック画面を見た。
「……真白、これってなんだ?」
「これ? …………あ」
蓮が真白にロック中の画面を見せた瞬間、真白は情けない声を漏らした。その画面には蓮の横顔が設定されており、間違いなく盗撮の類いだった。
「さて、この盗撮の理由を聞くのはもちろんだが、俺も真白の写真を撮らせてもらう。これで平等だ」
「こ、これは盗撮なんかじゃないですっ!」
「じゃあなんだ?」
「か、勝手にアルバムに入ってたんです……っ!」
「なわけあるか」
その後、ロック中の画面に設定された盗撮された蓮の写真は変えられた。その理由は単純。付き合っていると、バレる可能性のあるものだからだ。
その代わり……夕日をバックにしたツーショットがお互いのスマホのアルバムに入れられた。
「削除すんなよ?」
「蓮くんこそ……!」
そして二人は照れ混じりに笑いあった。
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「盗み聞きをするつもりはなかったのだけれど……まさかここまで進んでいたなんてね……」
廊下の壁際に背中を預けていた一人の女子生徒は、小さな声を漏らして
「その幸せ……もう終わりかもしれないわね」
その女子生徒は不穏な言葉を発して、生徒会長室に入って行った。
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