第47話 再会。現実とVRのリンク

『えっ!? レオくんっ!?』

 West西側の広場に姿を現したレオに、聞き慣れた声がいきなり飛んでくる。


『……モカ!? なんでこんなところに……』

『レ、レオくんこそ……』


 レオとモカはお互いに呆気に取られた表情で、まばたきを繰り返していた。

 モカはベンチに座って微動だにすることなく、レオはその場で立ち尽くしている。側から見ればそこで何が起こっているのか……疑問視してしまうことだろう。


『……いや、俺は友達とここで約束したんだよ』

『わ、わたしもです……よ?』


『そ、そうなのか?』

『は、はい……』

 ありえない偶然がこんなところで起き、どうにか状況を飲み込みこむレオ。


『と、取り敢えず俺もここで待ち合わせしてるから、隣に座っていいか?』

『……あっ、はい。どうぞっ』

 モカはベンチの端っこに移動し、レオは空いたスペースに腰を下ろした。


『……』

『……』

 と、何故かいつも通りに話すことが出来ない二人。


 レオからすれば、アイドルの真白とゲームすることになり、モカからすれば好きになったせんぱいとゲームをすることになる。

 

 更には言えば、レオが異性として気になっているモカと偶然出会い、モカからすれば、蓮以外に好きな相手でもあるレオに出会ったことになる。


 心に余裕が生まれるわけもなく、こうなるってしまうのも当然だった。


『えっと……暇だな』

『そ、そうですね……』

『……』

『……』


 気まずい雰囲気にならないように会話を続けようとするも、お互いに相手のことが気になってそれどころではない。


『あ、あのレオくんはどんな友達を待ってるんですか……?』

『どんな友達……? えっと、異性の友達……だな』

『わ、わたしも異性の友達です……』

『そ、そうか』

『はい……』


(モ、モカに異性の相手……!?)

(レ、レオくんに異性の相手……!?)


 レオはモカのことが気になっている状態で、モカはレオと『蓮』が気になっている状態。心にもやがかかり、レオとモカはもう一つのことしか考えられなくなっていた。


『『異性の相手はどんな人なんだろう……』』と。


『これは答えなくても良いんだが、それは現実世界リアルの友達なのか?』

『レ、レオくんは……?』

『俺は……現実世界リアルの方だな』

『わたしもです……』


(お、おいおい……リアルってそれ……)

(レオくんがリアルの人と……)


 当たり障りのない質問、言葉を選びながらお互いに異性の相手の情報を得ようとするが、正直この辺りが限界である。


 ここは現実世界ではなく仮想世界。現実世界リアルの情報を聞いてはならないという暗黙の了解がある。


『……』

『……』

 そうして、話す話題も無くなり互いに無言の時間が続き、広場に居るプレイヤーがその違和感に気付いてくる。


『え……? あれって白服のレオと、モカちゃんだよな……?』

『ど、どうして無言なんだろうな……。いっつも仲良くしてたよな?』

『喧嘩でもしたんだろ。仲が良い相手でも喧嘩するし』

『いやいや、それなら同じベンチに座ったりしないだろ……』

『あれは近付けねぇな……。モカちゃんとお近付きになるチャンスなのに……』


『一体どうしたのかしらね……あの二人』

『他の女の子に手を出したんじゃないのかしら?』

『あら……それならアタシに手を出して欲しかったわね……』

『わたしなら、他の女の子に手を出さないけどなぁ……』

『それが当たり前でしょう……』


 そんな別プレイヤーの会話を聞きながら、待ち時間が20分が過ぎようとしていた。


 =========


《モカside》


『遅いな……。少し心配だ……』


 レオくんがそんなつぶやきを漏らす中、わたしはレオくんと会話した内容から一つの可能性が浮かび上がっていました……。


『この場所で待ち合わせ』『異性の友達』『現実世界の友達』


 20分待ってもせんぱいは来ていない。


 ーーそれは違う。


 もう、せんぱいはこの場所に居るかもしれない。……今、わたしの目の前、その隣に……。

 もし、そうならば全ての疑問は解決してしまう……。


 せんぱいがレオくんに似ている理由……。

 せんぱいは何故レオくんと同じような気遣いが出来るかという理由……。

 せんぱいがレオくん並に鈍感な理由……。

 せんぱいのことを現実世界で頼ってしまう理由……。

 せんぱいを好きになったキッカケ……。


 わたしは意を決して、レオくんに向かい合いました。


『レ、レオくん……?』

『な、なんだ?』


『レ……レオくんは、“せんぱい”……なんですか……?』

『……え?』

 わたしは、“せんぱい”と、いつも使っている呼び名でレオくんを呼びました。


『レオくんは……せんぱいなんですか……?』

『……んまぁ、モカより歳は一つ上だし、先輩と言えば先輩だな』


 レオくんは首を傾げながら、いつものような鈍感さを見せています……。わたしを、助ける時なんかには勘が鋭くなるのに……。


 この瞬間、わたしは確信してしまいました……。


 ……今までずっと好きだった相手。

 ……ずっと会いたかった相手。

 ……想いを寄せ続けた相手。


(っ……うぅ。やばいです……涙がこぼれそうです……)


 わたしが現実世界で初めて好きになった相手は、この仮想世界で初めて好きになった相手と同じ人……。

 わたしが密かに願っていた想いが叶った瞬間でもありました……。


『わ、わたしですよ……。せんぱい……』

 わたしは嬉しさで涙を堪えながら、レオくんに微笑みました……。


『……は?』

『で、ですから……わたしです……。せんぱい……』

『……ま、真白っ!?』

『んっ』 


 わたしは……レオくんに向かって大きく頷きます。レオくんもこれにはビックリしていました……。


『な、なんでこんな奇跡が起こってるのかな……。わ、わたし……。も、もっと……早く、レオくんのことを知りたかったよぅ……』

『な、なんで真白が……えっ? モカは真白って……そんなことがあるのか!?』


『わ、わたし……レオくんと現実世界リアルで会ってたんですね……』

『そ、そうだな……』


(っ……うぅ。だめです……涙が、もう……)

 わたしはレオくんに泣き顔を見られないように顔を下に向けます……。

 その時、堪えていた涙がポロポロと溢れ出てきました……。


 こんな顔、レオくんに……せんぱいには見せられません……。


『お、おい……なんで泣いてるんだよ』

『だ、だって……だって…………』


『俺だってまだ整理が出来てないんだよ』

『うっ……ご、ごめんっ……なさいっ……』

『と、とりあえず落ち着いてくれよ……』


 嗚咽を漏らすわたしに、レオくんはわたしに近付いて背中をぽんぽんと優しく叩いてくれています……。

 わたしはその安心感から……レオくんに身を委ねて、レオくんの胸元に顔を埋める。そのままレオくんの背中に腕を回して、猫がするような頬擦りを……。


(せんぱい……レオくん……。わたし、もう我慢出来ないよ……)


『……ッ、モカ!? やめ……』

『やです……やです……』

 わたしはレオくんの言葉を遮りました……。


 わたしが我慢出来ないのは……レオくんが今までずっと黙ってたことが悪いんです……。だ、だから、……だ、抱き着いてしまうのも……頬擦りしてしまうのも、レオくんが全部悪いんです…………。


『と、とりあえず場所を変えるぞ。このままじゃマズい……』

『せ、制限ルーム……』

 わたしはレオくんの胸元でそう呟きました……。わ、わたしのこんな弱ってる姿……レオくん以外に見られたくなかったのです……。


 そ、それに……こんな恥ずかしい姿を見せても……レオくんと……せんぱいと、もっとお話しを……。二人っきりでお話しをしたかった……。


『わ、分かった。一緒に転移するぞ。周囲フレンド同時転移はオンにしてるな?』

「ん」


 わたしのお願いを聞いてくれたレオくんは、転移を起動させて制限ルームに転移をしてくれました……。


(せんぱい……レオくん……。わたしは、もう離さないんですから……)



 =========



 その頃、広場では……、


『し、白服のレオ……。俺のモカちゃんを泣かせやがったなァァアアア!?』

『ゆ、許さねぇ……。モカちゃんを泣かせたことだけは許さねぇぇえええ!』

『つ、通報……。白服のレオを通報だ……。アカウント削除させるぞ……』


『馬鹿ねぇ。……レオ君のせいじゃないわよ』

『モカちゃん幸せそうだったじゃん!』

『まるで告白に成功したような感じだったわね』


 男性プレイヤーと女性プレイヤーの激しい攻防が生まれていた。

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