第46話 真白side 通話からVRへ

「VRソフトもわたしが購入しますから……。せんぱい、お願いします……」


 わたしがせんぱいに迷惑を掛けていることも、甘えていることも分かってます……。自分勝手だと思われても、わたしは諦められませんでした……。

 だって、わたしはせんぱいに何もしてあげられてません……。お礼も直接言えてないんですから……。


『確かにVRで会えば俺が懸念してることは解消するが……真白にVRソフトを買わせるってのは少し違うだろ。……俺も真白に会いたいんだし、、、、、、、、、、、その代金を一人に負わせるってのは……』


『俺も真白に会いたいんだし』

 そんな言葉をせんぱいから聞いただけで、わたしの心臓は飛び跳ねてしまいます……。やっぱり、この気持ちは本物なんです……。


「せんぱいはそんなこと気にしないでください……。わたし、お仕事をさせてもらってるので、お金はありますから……」

「いや、そういう問題じゃなくてだな」


「わ、わたしもせんぱいに会いたいんです……。このくらい分かって下さい……」


(……って、わたしは何を言っちゃってるのっ!?)

 せんぱいにこの条件を呑んで欲しかったからこそ、思わずそんな本音がわたしの口から出てしまいました。……一度発した言葉は取り戻せません。


「あっ、あのっ……今のは、その……っ」

『ま、真白……。条件を呑んで欲しいからって、その言い方は卑怯だろ』

「だ、だって……。本当にイヤなんです……」


 わたしは、この事をどうしてもせんぱいに伝えたかった。その想いが通じたのか……せんぱいは渋々と言った形でVRゲームのソフト名を教えてくれました。


『……Monstersモンスターズ communityコミュニティーってVRゲームなんだが」

Monstersモンスターズ communityコミュニティー……ですね。今から在庫を確認してみま…………って、そのソフトわたし持ってますよっ!?」


 スマホから在庫確認をしようとしたわたしですが、ゲームソフトの収納場にそのゲームが入っていることを確認してせんぱいに伝えます。

 

 せんぱいがこのゲームをしていたなんて、正直意外でした……。流石は今人気が出てきているゲームなだけあります。


(こ、これはせんぱいにVRで会うしかないです……)

 わたしの正体がVRで有名な『モカ』だと知ってくれれば、せんぱいはわたしに振り向いてくれるかもしれません……。


 (せんぱいは勉強と一人暮らしに時間をたくさん使っている……だからゲームにはあんまり詳しくないはずです)

 もしかしたら……わたしがせんぱいにゲームを教えたりなんか出来るかもしれない……。

 そんな淡い期待が出てきてしまいます。


『本当か……? それは気を遣わせないように言ってるだけなんじゃないのか?』

「な、なんでそう思うんですか……?」

「真白は優しい、、、から、そんなことを言っても不思議じゃないだろ」


(優しいのはせんぱいの方じゃないですか……。わたしの為に、あんな危険を犯してまで翔せんぱいに立ち向かって……)


「せんぱい……。お、女の子に優しいとか、あんまり言わない方が良いです……」

『褒め言葉なのに?』

「か、勘違いをする女の子がいるかもしれないじゃないですか……」


『そうなの……か?』

「はい……」

 わたしは少しウソを付いてしまいました。……確かに、勘違いする女の子が出てくるのは間違ってないのかもしれません。


 でも……、一番の理由はわたし以外に『優しい』なんて言葉を言って欲しくなかったのです……。


 一時的にレオくんをNPCに渡しただけで、心のモヤモヤがあったり……他の女の子に『優しい』なんて言って欲しくなかったり……そんなところから、わたしは他の女性よりも嫉妬深いということに気付きました。


 そのことを、せんぱいには知られたくなかったのです……。

(嫉妬深い。そのことを知られると、せんぱいに嫌われてしまうかもしれないから……)


『俺に勘違いする相手はいないと思うけどなぁ。……あ、話を戻すが、つまりVRソフトを買う必要はないってことでいいか?』

「はい……」

『なら一応の問題は解決したってことだな。……良かった良かった』


「せんぱいは……本当に良かったんですか? そ、その、わたしのワガママを……」

『それは俺のセリフだよ。俺のことを気遣ってくれてありがとな』

「え……?」

 せんぱいは要領の掴めないことを……そして、お礼を言ってきました。


『俺が真白に会いたいって言ったからこうなってるんだよな……。やっぱり本音を漏らすもんじゃないな……。ごめん、真白』

 せんぱいはわたしのワガママを、自分の為にしてくれている。と勘違いしていました……。


「そ、そんなことないですよっ! わたしはそんなこと全然考えてなくって……自分が、その……」


(そ、それは違うんですせんぱい……。これは、わたしの為にしてたことで……)


 わたしは罪悪感を感じてしまい、どうにか弁解をしようとします……。でも、せんぱいがそうさせてくれませんでした……。


『そこまで気を回さなくて良い。逆にそこは認めて欲しいんだが。……俺の立場がなくなるようなもんだし』

「うぅ……。せんぱいがそんなこと言うから、わたし、素直になれないじゃないですか……」


 せんぱいは卑怯です……。

 わたしの自分勝手な行動をそんな風に勘違いするんですから……。これじゃあわたしの立場がなくなるじゃないですか……。


『真白は十分に素直だろ? 羨ましくすら思える』

「……そ、そんなこと言っても、レオくん二号と三号は渡しませんよっ!」


 せんぱいは“本気”でそう言ってることが伝わってきます……。

 だからこそ、わたしは恥ずかしさを誤魔化すように、後ろめたさを隠すようにそんなことを言ってしまいました。


『そんなに大切にしてるのか?』

「……あっ。い、今は違うかも…………です」


 ……そう言った瞬間、わたしの胸は急に痛くなりました……。それはまるで心に沢山のトゲが刺さったように……。


 その時ーーわたしは理解しました……。


 わ、わたしはレオくんのことが諦められてないんだ……と。

 でも、そうなってしまうのも仕方がありませんでした……。今までずっと好きだったレオくんを忘れられるはずがないのです……。


(レオくんがせんぱいなら……せんぱいなら良かったのに……。こんな気持ちもなくなるのに……)


「や、やっぱりこれは大切なものです……」

 そう思った時、わたしは訂正の言葉を口にしてしまいました……。


『ならちゃんと大切にするんだぞ? ……それで、いつVRをするか?』

 せんぱいはわたしの元気が無くなったことに気が付いたのでしょう。

 だから、わたしが元気になるようにVRの話題を振ってくれたんだと思います……。


 ほんと、わたしはせんぱいには敵いません……。せんぱいと同じようにしてくれるレオくんにも……。


「い、今から……せんぱいに会いたいです……」

 わたしは悪い子です……。せんぱいの気遣いに完璧に甘えてしまってるんですから……。本当は甘えちゃダメだって分かってるのに……。


『唐突だな……。一応出来るが真白の都合は大丈夫なのか?』

「大丈夫です……」


『分かった。それじゃあ広場で合流出来るか? 場所はWest西側のベンチがあるところで。名前を教えるよりかは合流した方が早いだろうし』

「せんぱいも今から大丈夫なんですか……? 家事とかが残ってるんじゃ……」


『そんなこと気にするな。それじゃあ、今からログインする』

「あ、ありがとう……」

『お礼を言われる意味が分からん』

 そうした言葉を残して、せんぱいは通話を切りました……。


 わたしはスマホの通話時間をジッと見つめてしまいます……。

 通話時間、18分41秒。

 プライベートで初めて男の人と……好きな人と通話した時間……。


『パシャ』

 わたしはスクリーンショットをして、アルバルに保存しました。


「あっ、早くログインしないとっ!」

 スマホをベッドの上に置いて、VR専用のヘッドセットを付けたわたしはMonstersモンスターズ communityコミュニティーにログインしました。


(わたしがモカだって、驚いてくれるといいな……)

 そんな小さな期待を抱きながら……。

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