第45話 『レオ』『モカ』正体バレの予兆
『お兄、学園で悪いこと……何もしてないよね?』
その夜、妹の楓からこんなメールが突然と送られてくる。
『……何もないが。どうしてそう思うんだ?』
『妹の勘』
「妹の勘ねぇ……。それが合ってるから怖いんだよな……」
思わず声に出してしまう蓮。そんなセンサーが反応するのはどういう原理なのだろうか……。
『それより、今日はどうした? メールの時間がいつもより早いが』
楓が『勘』で収めているうちに早めに話題を変更する。
『こ、今週末なんだけど、一緒にVRしてほしいの……』
『お、楓からそんな提案してくれるのか。もちろん良いぞ、今週末な』
楓がVRに自分から誘ってくることは今までになかった。そんな楓が誘ってくれた嬉しさに、蓮は小さな笑みを零しながら返信した。
『お兄、テストは大丈夫なんだろうねー?』
向こうの方もテスト期間は同じなのだろう、そんな質問をしてくる。
『それは楓に言いたいんだが。そっちのテストは全部英語だろ』
『あ……』
『今気づいたような反応ありがとうな』
そう、言語が違ければテストの文字も当然違う。
言葉は話せるようになった! と言っていた楓だが、不安になるのは仕方ないだろう。なんせ成績と番数が出る“テスト”なのだから。
『ど、どうしようお兄っ!? 分からないところがあるかも……』
『身長144.4
これで少しでも不安が解消されれば……という思いで、いつも通りに挑発してみる。
『あ!? そこで身長言う意味あるし!?』
『それに、チビだし』
『チビ言うなしっ!』
ここまで挑発しても身長が伸びたとの報告がない。つまり、あの時のメールから楓は、0.1cmも身長が伸びてないのだろう。
楓は身長が小数点単位伸びただけで蓮に報告してくるのだから。
『……それで、夏休みはこっちに戻って来れるんだろ?』
『う、うん。こっちの夏休み長いからお兄の方に帰るつもりだよ。迷惑じゃない……?』
『妹が家に戻るのに迷惑も何もないだろ。早く会いたいもんだ』
『うわぁ。お兄シスコン……キモい!』
なんて返信されることは勿論分かっていた蓮は、こんな切り返しをする。
『とか言って、本当は嬉しいんだろ? 画面越しの楓がニヤニヤしてるのが分かる』
『ニ、ニヤニヤなんてしてないしっ! ……で、でも、そんなに言うなら早く帰って来てあげる。お兄はほーんとしょうがないんだから!』
『しょうがない兄だから、早く帰って来てくれよな』
『う、うんっ!』
(……喜んでるなぁ、楓)
メールの文面からそんなことを察する蓮は、早めに切り上げることにした。この時点で時間は8時。真白に電話をする時間になったのだ。
『それじゃあ一応、週末前に連絡入れるから。VRで会おうな』
『うんっ。それじゃあまた!』
そうして、メールを終わらせた蓮は『ふぅ……』と息を吐き、指で画面を操作して通話画面を表示する。
「このボタンを押せば……真白と電話か……」
今日は真白と電話をする、そう約束した日でもある。
可憐から真白に連絡したというメールはすでに貰っている。もうキャンセルなど出来るわけもない。
蓮は楓以外の異性と電話したことがない。……緊張してしまうのも仕方がないのだ。
そしてジッと画面を眺めること3分。
「よし……」
覚悟を決めて通話ボタンをタップした。
『prrrrrr……prrrrrr……』
可憐が真白に連絡を入れていることを信じて、コール音を静かに聞く。ーーそして電話が繋がった。
『ほらほらっ、真白ちゃん電話電話!』
『お、お母さんっ! まだ心の準備が……って、ボタン押しちゃった!?』
真白はお母さんといるのか、電話が繋がった瞬間に騒がしさが伝わってくる。
『……ど、どうも』
『あっ、蓮くん? 真白の母ですが、いつも真白ちゃんがお世話になってます。こんな娘ですが……』
最初からスピーカーになっていたのか、遠い場所から真白のお母さんが反応した。
『は、恥ずかしいからやめてよお母さんっ! も、もうっ、わたし自分の部屋で電話するからっ!』
『あらあら、お顔が真っ赤っか。お猿さんみたい』
『せんぱいに聞こえるからやめてよーっ!』
『パタパタ』と走る音を響かせながら『ガチャ』……と、どこかの扉を閉めた音が聞こえてくる。
恐らく、真白の部屋に入ったのだろう。
『ご、ごめんなさい、せんぱい……。いきなりうるさくして……』
「いや、気にしないでいい。……それより、なかなか元気なお母さんだな」
予想だにしないお母さんの挨拶があり、そのおかげで蓮の緊張は
『わたしをからかう時はいつもあの感じなんです……。お陰でいつも困っているんですよ……』
『ハハハ。それより、顔が赤くなってるってお母さんが言ってたが、体調は大丈夫か? 無理だけはするなよ」
『だ、だだ大丈夫です……』
真白はツッコミを入れたかった。『体調が悪くて顔が赤くなってるわけじゃない』と。
しかし、こんな勘違いをするのも蓮らしいことだった。
「でも、身体は参ってるだろうからゆっくりするんだぞ? ……一応、問題は解決したから」
『……せんぱいが、助けてくれたんですよね』
「えっ……?」
気持ちのこもった真白の声に、一体それをどこで知ったのか……と、蓮の思考は止まった。そう、真白の口調は疑いようもない確信を持ったかのような口調だったのだ。
『わたし、その隣で聞いてたんです。琥珀先輩と……』
「はぁ!?」
あの男子トイレで会話を盗聴するということは、琥珀先輩から教えてもらった情報。その情報を教えた張本人なら、蓮より先回りをすることは可能だろう。
(まさか、琥珀先輩が真白にも伝えていたとはな……)
こればかりは琥珀先輩に一杯喰わされた気分だ。
『あ、あの……。わたしを助けてくれて、ありがとうございます。わたし、本当に嬉しかったです……』
「はぁ……。あの時の俺は忘れてくれ。汚い言葉を吐いてただろうし」
冷静な口調を心掛けていた蓮だが、それは上っ面だけ。怒り心頭していた結果、汚い言葉を吐いてしまった自覚があったのだ。
『忘れられるわけないですよ……。そ、それに……もしそこで怪我をしてたらどうするつもりだったんですか……。わたし、心配したんですから……』
「それは大丈夫。俺は護身術を習ってたし、サッカー一筋の相手の相手には負けない自信があった。…………あんな会話をされて我慢出来る俺でもないしな」
真白にとって、『脅し』や『暴力』で解決して欲しくないというのは分かっていた。ただ、真白のことをあんな風に言われて冷静でいられるわけがない。
あんな行動に出てしまうのも仕方がないことだった。
「そう。一応の問題が解決して、真白にどうしても言わなきゃいけないことがある」
『な、なんですか……?』
「……明日から俺と関わるな」
『っ!?』
突とした蓮の命令口調に真白は言葉を失っていた。これは決して真白が嫌になったわけではない。こうして釘を刺さなければならない理由があるのだ。
「あの先輩が確実に約束を守ってくれる保証はどこにもない。……もし、あの先輩が手を打つとしたら間違いなく俺になる。……そうなった時、真白が俺と今以上に関わってたら何かの被害が及ぶ可能性がある。真白ならこの意味、分かるよな?」
『やですよ……。そんなの……』
(……それは俺もだよ)
そんな言葉を喉元でグッと堪える蓮。電話から聞こえる真白の声は、悲しさを届かせるかのように震えていた。
「もし、真白が俺と会話しようとしても無視をする。どんなにしつこくされても、泣かれても、何があってもだ」
『……いやだよ。本当にいやだ……』
真白からすれば、蓮が意中の相手になりかけている。さらに言えば琥珀先輩が蓮を狙おうとしていることにまで知っている。それに、お礼も直接言えてないのだ。
真白にとって、その選択は絶対に呑みたくないもの。
「ちゃんと頃合いは
『……』
「分かったな?」
『……』
無言を貫き、意地でも返事をしない真白。
もし、蓮が真白の立場だったら……真白と同じことをしてるだろう。ーーだからこそ、蓮は謝りながら言葉を変える。
「……本当に悪い。俺は一番やっちゃいけない選択をしてると思う。だがこれしか思い付く方法がないんだ。あの先輩の目につかない方法が……」
蓮は真白に協力する立場だ。真白の安全を確保することが最優先であり、己の希望は捨てなければならない。
『……ひ、一つだけあります……』
「あ、あるのか?」
真白の声に蓮は食い入るようにして聞き返した。
蓮はどうすれば翔先輩の目につかない方法はないか……と、熟考してもなおその手は思い浮かばなかったのである。……蓮とて真白と距離を置くのは辛いのだ。
『一度話しました……。せんぱいはVRをしてるって』
「ああ、真白もしてるんだよな……って、まさかーー」
『わたしが……せんぱいと同じVRソフトを購入して、仮想世界で会えば良いんです……。それなら誰にもバレません……。わ、わたし、それなら我慢できますから……』
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