第23話 トラブルから救出

『良いじゃん、良いじゃん。俺らと遊ぼうぜー?』

『現実世界じゃないんだしさぁ、そんなケチんなってよお?』

『ほ、本当に、ごめんなさい……。あ、あの……』

『いい加減にして。しつこい男は嫌われるよ』


 レオが見たのはフードを被った二人のプレイヤーにしつこく絡む二人の男性。

 あの様子を見るに、容姿の隠れた二人は女性プレイヤーであることに間違いはないだろう。


『そのうざったい視線がたまんねぇなぁ……』

『なんかこう……ゾクゾクくるよな』

『……っ』

『ほんとにやめて。もうどっか行ってよ』


 絡まれた女性のうち、一人の女性は完全にひるんでいる。それは、見ているこちらにまでおびえが伝わってくるほどだ。


 レオと同じく、この現場を見ているプレイヤーも居るが誰一人として救いの手を出す者はいない。

 もし助けられたとしても、助けたプレイヤーはこの手の輩に悪質な嫌がらせをされる可能性があるからだ。

 ゲームは誰だって楽しみたいもの。嫌がらせをされるなど御免葬りたいところである。


『連れねぇなぁ。ちょっとばかし付き合ってくれるだけで良いんだよ』

『たっぷり可愛がってやるからさぁ?』

『だから嫌だって言ってるでしょ!』


『チッ、さっさと来りゃあ良いんだよ!』

『ほらよッ!』

『い、いやぁ!』


 我慢の限界が来たのか、痺れを切らしたのか、片方の男が怯んでいた女性の手首を強引に掴んだその瞬間、レオの身体は反射的に動いていた。


『おい。……俺のフレンドに手を出すなんて、良い度胸してんな』


 酷く冷めた、場が静まるほどの声音。


 レオは強制に掴む男の手を無理やり引き離し、庇うように女性プレイヤーの一歩前に立つ。


 モラルやルールを守るプレイヤーが居るのも事実だが、またそれに反するプレイヤーも居る。このようなトラブルは、現実にもこの世界にも当然のようにある。


 フレンド、、、、そう言ったのは、この場に突っ込んで行くための口実である。だが……レオが気付くことはなかった。庇っている二人が知り合いであることに。フレンドであることに。


『あ? なんだオメェ…………ッ!?』

『お、お前……! し、白服のレオッ!?』

 その存在に気付き、二、三歩飛び抜く男達。


 上位ランカーは一通りの名が知れ渡る。それは、このような立場に立ったとき確実に有利になるもの。レオがこの件に首を突っ込んだ理由の一つ。

 上位ランカーこそが、嫌がらせを受けない例外者であるからだ。


 この世界にも情報を発信するツールがある。

 名の知れたプレイヤー、そう、影響力のあるプレイヤーが『この名前をしたプレイヤーが、強引に女性を誘っていた』なんて情報を伝達すれば、そのプレイヤーはたちまち炎上する。

 それは、このゲームをプレイすることがままらないほどだ。


 この手段は、この手の輩にとって一番恐れるもの。


『別にマイ、、メイ、、の同意があったんなら、口出しするつもりはないんだが……実際はそうじゃないしな』


 フレンド、、、、。それを男達に印象付けさせるのは、『二人』と言うわけでなく、『名前』で呼ぶことが重要なのだ。

 初対面の相手の名前が分からないのは当然だ。だからこそ、レオが付けた適当な名を言う。

 こうするだけで、この先の展開は少なからず変わってくるのである。


『同意って……そ、そんなこと分からねぇじゃねぇか!』

『あ、ああ』


 あの場を見られていたにも関わらず、苦し紛れの言い訳をする男達。そんな言い訳をされることは想定済みだった。


『今さっき、俺宛に【助けて】っていうダイレクトメッセージが送られたんだが、コレを一体どう説明すーー』

『チッ!』

『クソが!』

 全てを悟った男達はレオが言い終える前に、転移を使ってこの場を去っていた。


 ーー呆気ない。そんな一言で終わらせられるのも、フレンドという印象を強めたからである。


 ダイレクトメッセージは相互フレンドになって初めて使える機能だ。このメールはプライベートに関するメールが中心なことから、自分以外には表示されることなく送信が出来る。


 フレンドと印象付けさせることによって、このハッタリが通りやすくなるのは必然。相手側からすれば、分が悪いのはもとより感じ取っていた部分なのであろう。


『はぁ……』

 トラブルも片付き、庇った女性プレイヤーに向かい合ったレオはさっきまでとは比べものにならない心配を滲ませた声遣いで話しかける。


『えっと……大丈夫か? ケガは……?』

『えっ、は、はい……』

『た、助かりました』


 助けられると思っていなかったのか、二人の声音から確かな驚きと呆気が伝わってくる。


 ーーだが、それは違う。

 この二人からしたら、さっきまであとを付けてた相手に助けられたからこそ、確かな驚きと呆気があったのだ。


『この辺はああいった輩が多いらしい。フードを被って性別を隠しているのは名案だと思うが、絡まれた時はあの男達みたいに転移を使って逃げた方が良いぞ。最近は簡単に諦めないやつが増えてきているらしいからな』

『う、うん……』

『お、教えていただき……ありがとうございます』


 あんな輩に時間を割くのは誰しも望むものではない。この手のトラブルを増やさないためにも簡単なアドバイスを教える。


『最後に、二人に一つだけ聞きたいことがあるんだが……」

『……?』

『なんでしょうか?』

 そう前置きしたレオは、険しげな表情に変化させ再度口を開く。


『この周辺に、誰かのあとを付けてたようなプレイヤーは見てないか? 多分、複数人だとは思うんだが』

『……ぴくっ』

『……す、すみません。私たちはずっと絡まれていたもので、そういった人は……』


 ずっと怯えていた女性は、さっきの出来事を思い出してか、肩がピクリと動き、もう片方の女性は協力出来ないと知ってか、申し訳無さそうに頭を下げた。


 この女性プレイヤーが言うように、あの男性達にしつこく絡まれていた。普通に考えれば、そんな余裕さえないことは分かることであった。


『確かにそうだよな。……すまん、今の質問は忘れてくれ』


 このトラブルに乗じて、レオとカエデのあとを付けていたプレイヤーは確実に逃げただろうと察した。出来ることなら捕まえたかったレオだが、こればかりはどうしようもない。


『……それじゃ、また会う機会があったら宜しく頼む。俺なんかに時間を割いてくれてありがとな』


 この場所に来たのは間違いなくショッピングを楽しむ為であろう。レオが質問を重ねることで、この女性達の時間をこれ以上奪うわけにもいかない。レオは早めに退散することにした。


『は、はい……』

『はい、本当にありがとうございました』

『気にしないでくれ』


 一通りの挨拶を済ませ、女性達に背面を見せながらレオは転移ボタンを表示させた。











『……レ、レオくん、ほんとにありがとう。……だいすき、だよ……っ』

 誰にも聞こえないようなその小声は、レオが転移する音によってかき消されたのであった。




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