第24話 side、モカとカレン救出後その1

 モカはレオが転移した後も、ただひたすら一点を見つめていた。そこはレオがさっきまでいた場所ーー。


『モ、モカちん?』

『…………』

『モカ、おーい』

 なんの呼びかけにも反応を見せないモカの肩をポンポンと叩いた。


『あっ……。ご、ごめんカレン……』

『ようやく気がついたか。……まあ、あんなところを見せられたら、モカみたいになるのは分からないでもないけど』


『カレン……。わたし、また、、レオくんに助けられちゃった……』

 『また』というのは、モカが初めてレオと出会い、初めて助けられたあの時だ。


 絡まれていた恐怖、レオにバレないかとの緊張感。この二つが一気に解けたモカとカレンは、ようやく平常心に戻る。


『うち、助けられたのは初めてなんだけど、な、なんていうか……アレだね。……か、かなりの威力があるもんだね……』


 現実世界でも仮想世界でも、歳が一つ下の幼馴染を守る立場にあったカレン。

 そんなカレンの立場が逆転し、守られる側になったあの時……気持ちが昂ぶっていたのは否定しようが無い事実。


『……も、もしかして、カレンもレオくんのこと……好きになっちゃった……?』

『あはは、あーんな競争倍率が高いレオっちを狙うわけないって。……ときめいたのは否定しないけど』


『うぅ……。や、やっぱりそうだよね……。あの時のレオくんは、普段接するときと全然違うから……』

『何て言うか、女を守る漢って感じだったね。……ふ、普通に嬉しかった……』


 カレンは疑問にあったことをモカには言わなかった。

 助けてくれたのがレオ以外の相手だったら、今のようにときめいていたのだろうか……と。


『カレンがわたしのライバルになったらどうしよう……』

『ははぁん? そんな事を言う子には、レオっちくっ付けよう作戦に協力してあげないよ?』


『そ、それはヤだよ……』

『じゃあうちのことはライバル視しないこと。うち負けず嫌いだから、そんなことを言われたら本当にレオっち狙っちゃうかもよ?』


『そ、そそそそそれだけはいやっ!』

 モカは狼狽しながら『嫌』と答えた。『ダメ』という答えではない。


『ダメじゃなくて、イヤって言うあたりモカらしいねぇ』

『わ、わたしは決めたもん。ラ、ライバルが増えても、最後まで諦めないって……』


『良い心構えじゃない。うちはモカのライバルにはならないけど』

『あ、あのね? ……もしだよ、もし、カレンがレオくんのことを好きになっちゃったら、わたしなんかにに譲っちゃダメだからね? ちゃんとアタックするんだよ?』


 モカは、幼馴染のカレンに譲るという選択を選ばせたくなかったのだ。その結果、カレンはきっと後悔、、することになるのだから。

 もしそれで、レオがカレンを取ったとしてもこの選択に悔いはない。そんな思いでモカは言葉を紡いでいた。


『大丈夫。その予定、、、、はないから』

『……んむ!』

 カレンの言い分に、モカの柔らかい頰の中に空気が入った。それは、モカのお怒りモードだ。


『え? なんでモカちん、ムカちんモードなの? 普通安心するもんでしょ?』

『そんなこと言って、レオくんを好きになっても知らないんだから! レオくんが一番なんだから! 困ったことを助けてくれるのはレオくん以外にいないんだからっ!』


 カレンは言葉を間違えた。今のところ、、、、、その予定はない。そう言っとけばモカの怒りを買うこともなかっただろう。

 レオのとこを好きになる予定はない。そう言われたら確かに安心するだろうが、好きな相手を否定しているようにも捉えられる。


『怒ったかと思えばいきなりノロケるなんて……。いつの間にそんな技術を身に付けたのよ……』

惚気のろけてないもん! 怒ってるの!』


『……はいはい。これは幼馴染として言わせてもらうんだけど、モカが怒ってるの、うちには、、分かるから頰を膨らませないで良いよ?』

『癖になっちゃったから仕方がないのっ!』


 モカは昔からそうだった。モカが怒っても気づかない。そのため、保育園頃なんかはたくさんの児童にお菓子を取られていた。

 怒ることをアピールして、お菓子を取られないようにする対処方として、頰を膨らませるという手段を取ったのだ。


 だがしかし、その手段は逆に可愛さを増幅させるもので結果は一度も実らなかった。


『でも、流石はレオっちだよねぇ……。あんなにしつこかったナンパ男を、簡単に退却させたんだから』

『あれってレオくんが有名だったからじゃないの……?』


 モカは気付いていなかった。

 ーー全てレオの計画通りに動いていたことに。


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