第21話 side、モカとカレン《VR》その1

『あっ、今日はレオくんとカレンが先にログインしてる……』


 モカはいつも通りの時間にログイン。制限ルームを作成、入室した後にパネルを浮かび上がらせ、フレンド欄を確認していた。


 今日は、レオとカレンが先にオンラインになった状態で、モカが一番遅いログインとなっていた。

 モカは指でパネルを操作して、カレンとレオのプロフィール画面に移動する。

 このVRでは、オンラインのフレンドが現在どこにいるか。それはプロフィール画面を表示させることによって分かるようになっているのだ。


『えっと、カレンの居る場所が広場で……、レオくんの居る場所は……ショッピングルーム? レオくんがこんなとこに行くなんて珍しいなぁ』


 モカは今までにレオがショッピングルームに行っていることは見たことがなかった。

 だからこそ、何を購入しているのか、どんな商品に目を通しているのか気になったのだ。


 その時、招待メッセージがフレンドから送られて来た。

【モカちゃーん、今日俺達と一緒にクエストに行かない?】

 そのメッセージに返信ボタンを押して返信メッセージを打つ。


【ご、ごめんなさい……。今日は別のフレンドさんとやる予定なので……】

 予定という言葉を使い、メッセージを送り数秒後。再びメールが届いた。


【少し付き合い悪すぎじゃね? ちょ、俺のフレンドがモカちゃんを好きらしくてさぁー。ちょっとで良いから顔出して欲しいのよ。俺の評価を上げるため、、、、、、、、、、にも来てくれよー】

【ほ、ほんとにすみません…………】

 再度返信をした瞬間、すぐに既読のマークが付いた。そしてーー、

【……人気者だからって良い気になってんじゃねーよ。もういいよ】

 そんな暴言メッセージが送られた。


『……ごめんなさい』

 モカはこのメッセージに返信をするわけでもなく、口に出して謝った後に暴言メッセージを削除した。


 返信をすればさらに相手を怒らせてしまう。それは既に経験済みで、昔と比べて付き合いが悪くなってしまったのも分かっている。だから、モカは謝る以外にないのだ。


 モカは現実世界でもこのような悪口を言われるようになった……。それは、サッカー部の翔先輩を振ったことが発端だった。


『真白って子、ほんと調子乗らないで欲しいわ〜』

『あの翔先輩を振るんだもんね、人気者は辛いよーとか思ってるんじゃない?』

『アイドルとか所詮そんなもんでしょ』

『ホント、ウザいよねー』

 妬みや嫉み。それは避けられないものだ。ある程度は覚悟していたが、自分自身の悪口を何回、、も耳にしたらそれはツラいものがある。


 学園でそんなことがあったからこそ、蓮の優しさが、レオのような優しさがあんなにも響いたのかもしれない。


『って、ここはVRなんだし、リアルの嫌なことを思い出しちゃダメだよね……』

 忘れるように左右に首を振ったモカは、再度レオのプロフィール画面を開く。


『わたしも一緒に買い物して良いのかな……。んん……、でもやっぱり悪いよね……。んー』

 形の良い顎に手を当て、モカは唸りながら逡巡させる。

『ま、まずはレオくんに個人メッセージを送ってみようかな……』

 そうしてメッセージを打ち込み、送信しようとした瞬間だった。


『モカっ!!』

 広場から転移してきたカレンが、焦燥した様子で現れた。


『あ、カレン。こんばんは』

『こんばんは、じゃない! なにのほほんとしてるのよ! 今の状況を理解してる!?』

 カレンは、焦りを隠そうともせずモカに詰め寄った。


『今の状況……? 今からレオくんにダイレクトメッセージを送ろうとしてたの』

『モカのことじゃなくて、レオっちのこと!』


『レオくんは今ショッピングルームに居るよねっ。わたしも行って良いのかな……。どう思う、カレン』


 なにも状況を理解していないモカに、カレンはため息を吐きながら事実を伝えた。


『はぁ……モカってば、レオっちがどこぞの誰かとデートをしてることを知らないのね……』

『……えっ』


 その一瞬でモカの表情に暗すぎる影が差した。当たり前だ。想い人であるレオが『デートをしてる』とカレンは言うのだから。

 この手に関して、カレンが冗談を言ったことは一度もない。つまり、あの言葉は嘘偽りない真実。


 そして理解する。ショッピングルームに足を運んでいるのは、デートをしているからなんだと。


『カ、カレンっ! ど、どうしよう……』

 今の今までおっとりとしたモカはそこにはいない。逆に、カレンは落ち着きを取り戻していた。


『さっき広場に顔を出したんだけど、奇妙なくらいにパーティーに誘って来る男が多くてね……。詳しく理由を聞いたらデートの待ち合わせをしていたレオっちに感化されたらしいのよ』

『レ、レオくん……』


 両手を胸の前に当て、桜色の小ぶりの口からか細い声が漏らすモカ。

 そんな様子を間近で見ていたカレンは、同情の念を見せることなく普段通りに振る舞った。


『それで、モカはどうするの?』

『……』

『ほら、自己主張する』


『……わたしは、あ、諦めないよ。……あ、諦めたら後悔しちゃうもん』

「諦めることは絶対にするな、反省するのは良いが悔いの残るような行動はするな」蓮が放ったその言葉を実行するときが、今まさにこの時だった。


 レオはあの質問コーナーの時に答えた。『彼女はいない』と。……しかし、それは現実世界リアルでのことだ。VRに彼女がいる可能性は少なからずある。モカもそのことには気付いているだろう。だからあんなにも取り乱していたのだ。


『……なら良かった。もし諦めるなんて答え出してたらうちがモカを張り倒してたよ。デートとは言えど、彼女じゃないかもだしね』

『う、うんっ! そうだよね!』


 猫目の瞳に光を宿らせるモカに、カレンは確かな疑問を抱いた。


『モカ、なんか強くなったね? 前のモカだったら、どうしよう、どうしようって、うちに泣きついてたのに。何かあったの?』

『ううん、なんでもないよ』


 モカの脳裏には、蓮があの言葉をずっと語りかけていた。モカを強くしているのは蓮のお陰で、カレンに話すのは少々恥ずかしかったのだ。


『じゃあ、行こっかモカ』

『え、どこに……?』


『レオっちのばーしょ。尾行って感じであとをこっそり付けるの。レオっちとその彼女(仮)さんには悪いとは思うけどね』

『そっ、そんなのダメだよっ……!』


『へぇ〜、じゃあモカは気にならないんだ? 今レオっちが彼女(仮)さんと何をしているか』

『っ……!』

『彼女(仮)さん、すごーく可愛いらしいよぉ?』

 モカが付いて来なければなんの意味も無い。上手く誘導するため、カレンは煽ることを決めた。それも、好きな相手のことを想っているなら確実な効果がある煽りをーー。


『二人とも盛り上がって、恋人繋ぎなんかしてるかも?』

『…………』


『キスしてるかも?』

『ぅ…………』


『大人のキスをしてるかも?』

『うぅ…………』

 モカの唸り声が徐々に大きくなっていく。


『もぉっと進んでて、真夜中の激しい大運動会を始めちゃうかもぉ〜?』

『…………い、行きます。行きたいです……』

 カレンの煽りに押され、モカは尾行に行くことを決めた。


『うん、そうこなくっちゃね。ほらこれあげるから着て。そうすれば容姿は隠せるから』


 カレンは予め準備していたのか、全身が覆える黒色のフード付きコートをモカに渡した。これはショップで買うことが出来る衣装で、名前の通りフード付きで、容姿を隠せることから偵察や尾行にはぴったりの代物である。


『あ、ありがとうカレン』

『気にしなさんな。それじゃ、レオっちの場所に飛ぼっか。あ、オフライン表示に設定しとこ? オンライン表示のままだと同じ場所に居るってことがバレるからね』

『うん』


 レオがモカやカレンのプロフィール画面から同じ場所にいると確認された瞬間、意識をこちらに向けられる可能性があり、その結果、尾行がバレるかもしれない。

 そんな可能性を潰すためにも、モカとカレンはオフライン、、、、、表示に設定を変え、互いに確認をし終えた。


『じゃ! レオっちの場所に行こっか!』

『う、うん』

 そうして、黒のフード付きコートに身を包んだ二人はレオが居るショッピングルームに転移するのであった。

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