第18話 買い物とside真白その2

 その後、無事に買い物を済ませたわたしは、せんぱいと一緒に買い物袋を持ちながら自宅に向かい歩いていました。


「せんぱいは本当にわたしを送って下さるんですか……?」

 スーパーを出た直後、せんぱいが有難い申し出をしてくれました。


 ……それだけじゃありません。わたしを危険に晒さないように、せんぱいがわざと車道側に寄ってくれています。こんな気遣いが出来るのはやっぱりレオくんに似てるからなのでしょうか……。


「ああ。真白に迷惑をかけてるってのは分かっているんだが、迷子にならないか心配だし、自宅を知られたくないんなら、最低でもその近くまで送らせて欲しい」

「あ、ありがとうです……。でも、大丈夫です。可憐と仲良くしてるせんぱいですから信用してます」


「……まぁ、そう言ってくれるのは素直に嬉しいんだが、今のは普通断るところなんだぞ」

「な、なんでですか……?」

 その瞬間に、むっと表情を険しく変化させたせんぱい。わたし、なにか悪いことを言ったのでしょうか……。

 でも、そんな不安は一瞬にして霧散しました。


「家を教えるってのはそれなりのリスクがある。俺が真白の自宅を悪ふざけで晒す可能性だってある。真白はアイドルなんだから、そこんとこをもう少し考えた方がいい」

「あっ……」

 ーーそれは、わたしに対しての注意でした。


「あ、その……、遠回しに真白を送るのが嫌だとか言ってるんじゃないぞ? ただ、男の俺とは最低限のラインを引いてほしいって言ってるだけで」

 誤解を生むような発言をしたと思ったのか、せんぱいは少し慌てたように弁解をしています。

 それがどうもレオくんと同じで……自然と二人を重ねてしまいます。


「で、では、自宅近くまでお願いします……」

「ありがとうな」

 そんな失礼なお願いにも、せんぱいは満足したようにお礼を言ってくれます……。お礼を言うのはわたしなのに、おかしなせんぱいです。


(……でも、他の人とはやっぱり違う……。やっぱりレオくんみたい……)

 わたしには分かっていました。せんぱいは本気で心配してくれているのだと。

 せんぱいは悪役を演じてまでも注意をしてくれてるのだと。


 他のひとは自分の良いところをわたしにアピールしてきたり、下心を持って接したりします。

 でも、せんぱいは自分の評価を下げてまでわたしの心配をしてくれる。……下心も全く感じない。


 ーーレオくんがわたしにするような接し方。それは、リアルでは味わったことのない体験。……一瞬、ほんの一瞬だけわたしはVRの世界に迷い込んだ気がしました。


「あっ、可憐と真白は幼馴染なんだよな?」

「はい、この学園に入学したのも可憐が在学しているというのも一つの理由なんです」


「なるほど。……それで、可憐の幼馴染である真白に一つお願いがあるんだが」

「はい?」


「最近ずっと可憐にからかわれてな……。可憐に仕返しがしたい。可憐をからかえる昔話はないか?」

 真剣な表情でわたしを見つめるせんぱいは大人っぽいのに子どもっぽい。負けず嫌いなんだなぁと今気づきました。


「じゃあ、可憐の武勇伝を一つ教えますね」

「ほぅ、なんだそれは」


「可憐は小さい頃にピンポンダッシュの名人って呼ばれてたんです。ピンポンを鳴らしてもササッと隠れてバレたことはないんですよ?」

「確かに武勇伝だが、迷惑極まりないなそれ……」

 これは可憐から言わないように! って、念押しされています。でも、日頃わたしをからかうお返しです。


 可憐から貰ったミルク味のアメ玉もまだあります。三日間アメ玉あげない警報を出されてもきっと大丈夫です。


「それだけじゃないんですよ? お泊まりをして一緒に寝た日には黒インクと赤インクで顔にに落書きをされます。それも油性です!」

「油性で二色か……。イタズラのレベルが他より上だな」

 他の人なら一色、もしくは洗い落としやすい水性にするはずです。せんぱいの言い分は正解です。


「あの落書きのせいで、わたしがどれだけ恥ずかしい思いをしているか可憐は知らないんですから」

 ……やめて欲しい気持ちはあります。でも、不満ばかりじゃありませんでした。それが可憐らしいところでもあって、お互いが笑顔になれる一つのものだからです。


「このくらいしかありませんけど……大丈夫ですか?」

「ああ、十分だ。ありがとう。教えてくれたお礼ってわけじゃないが、俺に聞きたいこととかないか?」


「……では、せんぱいは普段自宅で何をしているんですか? 一人暮らしってことはやっぱり自分の時間は取れない感じなんでしょうか?」

 高校生で一人暮らしはなかなかあるものではありません。純粋な疑問でした。


「んー、まずは全体的な家事を終わらせて学園から出た課題して、自由な時間が出来たらゲームだな」

「ゲーム、ですか?」

 せんぱいの口から思ってもみなかった単語が出ました。一体どんなゲームをプレイしているのか気になります……。


「そう、オンラインゲーム。一人暮らしを始めてゲームが出来る時間は減ったけどな。真白はどんな感じなんだ?」

「わたしは学園の方で課題を終わらせて……あとはせんぱいと同じです」

「真白もオンラインゲームやってんのか?」

 せんぱいは眉を上げて、少し意外そうな表情を見せました。


「や、やっぱり女の子がゲームって似合いませんか……ね?」

「いや、俺がしてるオンラインゲームも女性はいるしそんなことはないが、ファッション誌で表紙を飾る真白でも、ゲームをするんだなって思ってな」


「……っ!? せんぱい見たんですかっ!?」

「ああ、友達から見せて貰った」


「な、なななんで見ちゃうんですかっ!? 見ないでくださいよ!」

 じわじわと赤面していることが分かります。それを隠すようにわたしは買い物袋を揺らしながら必死な抵抗をします。


 だって仕方がないのです……。せんぱいがレオくんに似てるのが悪いんですから……。


「それに……ほら、これ」

 わたしの抵抗を他所よそに、せんぱいはなんの前触れもなく買い物袋からある、、雑誌を取り出しました。


それは間違いなくわたしが表紙で載ってる雑誌でした。


「えっ!? な、ななななんで買ってるんですかっ!? 見せてもらったんじゃないんですかっ!?」

「ダメだったか?」


「ダメですよっ! 恥ずかしいじゃないですか!」

「なにも恥ずかしがる必要なんてないだろ? 似合ってるし可愛いし、表紙を飾るのになんの不思議もないと思う」


「……かっ、からかうの、のはやめて、くだ、さい!」

 真顔で照れることなく本音を伝えるせんぱい。そのやり方はいつもレオくんがすること……。

 可憐もわたしも、これには敵いません。その術を持ってるのはチートです……。


 それに、せんぱいは言わないと思います。『売り上げに貢献したかった』なんて……。母子家庭の話を聞いたからだって……。


 でも、レオくんなら、レオくんに似てるせんぱいなら、きっとわたしの予想は合っているでしょう。


 せんぱいの一つ一つの優しさに胸が暖かくなります……。


「可憐にもそんなことを言われたりするんだが、嘘をつくような性格してないからな? 本当に似合ってるよ」

「ぅ……」

 お、落ち着くのです。……ここはまたせんぱいをレオくんに置き換えるしかありません……。


『変な後輩』に見られないためにも、これ以上わたしのペースを乱されるわけにはいかないのですから……。

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