第19話 買い物とside真白その3

「あ、真白。一つだけ聞きたいことがあるんだが」

「……は、はい」

「真白に彼氏はいないのか?」

「いっ!?」

せんぱいはいきなりとんでもない質問を飛ばしてきます。


「い、いないですよっ!? な、なんでそんなことを聞くんですか!」

 「いや、もし真白に彼氏がいたらこうして二人っきりで帰るのは色々とマズイだろ? まぁ、今言ってもしょうがない話なんだが……って真白、本当に居ないのか?」

「い、いないですからっ!」


「意外だな……。真白の人気ぶりはクラスの反応を見ただけで分かるから、普通にいるかと思ってたんだが。告白ぐらいはされているんだろ?」

「す、少しだけ……です。でも、お断りしてます」


 わたしを好きになった人なんてあまりいません。


 大抵の男子は『アイドル』の彼女が欲しいという理由です。わたしを好きなわけではなく、アイドルが好きなのです。ですから、わたしを好きになった方が少し、、だけ。という意味でこの言葉を使いました。


 ーー断る理由、も好きな人がいるから……。レオくんがいるから、なのです。


「あ、仕事に影響する可能性があるもんな」

「そ、それは……違います」


「えっと……じゃあ、真白がプレイしているオンラインゲームの知り合いが好きとか?」

「っ!?」

(な、ななななんでせんぱいは当てられるんですかっ!?)


「え、その反応……まさかの合ってる感じか?」

「…………や、やっぱりおかしなことですよね、えへへ……」

 わたしは嘘を付くのが苦手です。


 世間的に見ればおかしなことぐらい分かってるんです。それに、見破られたなら誤魔化す必要はありません……。一層のこと打ち明けたほうがマシでした。


 ただ、打ち明けた相手はせんぱいはレオくんに似ています。

 だからこそ『おかしい』と、同意されたら……なんて不安が言い終わった後に襲ってきます。でも、その心配は杞憂でした。


「おかしなことか? それ」

「え……」

 せんぱいは理解理解出来ないというふうに首を曲げたのです。


「要はその相手の中身に惹かれたってことだろ? 性格が良いからとかそんな理由で好きになるのは現実世界でもよくあること。なにもおかしなことはないと俺は思うんだが」

 せんぱいは同意を求めるわけでもなく、わたしに視線を合わせて来ました。


「最近はオンラインゲームからの結婚とかも増えてきてるらしいし、普通のことだと思うけど」

「ほ、本当ですかっ!?」

「本当だ。趣味が合うんだから、結婚する可能性は他よりも高いだろうし」


「け、結婚…………」

(レ、レオくんと結婚……。それは嬉しいですけど、嬉しいですけどっ〜〜〜っっ!)

 思わず悶えてしまいそうになります。……悶えてしまいます。


「一つ、知り合いから教えてもらった言葉があるんだが、今の真白にはぴったりかもな」

「……はっ、そ、それはなんですか……っ?」

 あ、危ないです……。思わずもうそ……想像の世界に入ってしまうところでした……。


 可憐がいたら真っ先にからかわれていたことでしょう……。


「もし真白が片思いをしていて、想い人には好きな女性が別にいても、諦めることだけはするな。って言葉」

「……そ、それはなかなか辛いです」


 でも、レオくんは彼女はいません……。

 あっ、でもレオくんに好きな人がいる可能性が……。

(って、な、なんであの時、それを聞かなかったのっ!?)

 思わず一人ツッコミを入れてしまいました。


 失念です、ホントに失念です……。


「俺の知り合いもオンラインゲームからの出会いで付き合ってるフレンドがいるんだが、その知り合いはまさにその状況だった」

「そ、それでどうなったんです……?」


「相手に9回断られて、10回目でようやく付き合えたらしい」

「10回もですかっ!?」


「その知り合いが今でも自信満々に言うよ。『諦めることは絶対にするな。反省するのは良いけど、悔いの残るような行動はするな』ってな。……まぁ、その対象になった相手は少し可哀想な気もするが……」

「お、おぉ……」

 その言葉はわたしの胸に深く突き刺さり、熱を帯びました。そうです、レオくんを簡単に渡すわけにはいきません……。


「今ではその知り合いはリアルで会って、楽しい毎日を過ごしているらしい。もうすぐ結婚をするなんて話も聞いているよ」

「お、おめでとうございます……っ!」

「ははは、まぁ俺の話じゃないけどな」


 そうして、話も盛り上がり数分後。気付けばそこはーー

「あ……」

「どうした?」

「い、家に着いちゃいました……」

 目の前には安全管理がしっかりされた17階建てのマンションが映ります。わたしは今気づいてしまうほど話に夢中だったようです。


「おいおい、しっかりしてくれ」

「で、でも大丈夫です! わたし悔いのない行動はしてませんから」

「な、なるほど……。これは上手く返されたもんだ」

 少し悔しそうに後頭部を掻くせんぱいは、早々と別れを切り出しました。


 それは、わたしの自宅がバレないように気を遣ってくれているからだと思います。

 素直に言ってくれれば……なんて言うのはわがままですよね。


「それじゃ、俺はこれで。また明日な真白」

「は、はい、今日は本当にありがとうございました」

 胸の前で小さく手を振りせんぱいと別れます。わたしはせんぱいの背中が見えなくなるまでお見送りした後、エレベーターに乗りこみました。


「諦めることは絶対にするな、反省するのは良いが悔いの残るような行動はするな。かぁ……」

 せんぱいの言葉が今でもリピートされています。


 わたしを励ましてくれるせんぱい。

 わたしに優しくしてくれるせんぱい

 わたしを心配してくれるせんぱい。


「せんぱいがレオくんだったらよかったのにな………………」


 ーーそれは、無意識にわたしの口から漏れた言葉でありました。

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