第3話 ナルとメル、入学する


 次の週の最初の日。


 学校の制服っていうのがあるらしいんだけど、それの仕立てが間に合わなかったということで、私とメルは先週着て行ったワンピースで学校へ行くことになった。


 今日は、私とメル、二人だけで学校に行く。

 二人で手をつないでウチを出ると、覚えている道を学校へと歩いた。

 途中でマックさんに似た屋台のおじさんや、パーパに似たパン屋さんがいたので驚いた。

 だって、すごく似てるんだもん。


 学校近くで、マンマにすごく似た洋服屋の店員さんがいたときなんか、メルが飛びだしていきそうだったから、握った手をぎゅってして、離さないようにしたんだよ。


 学校に着いても、ホウキを持ってそうじしている人が、じーじそっくりだったから、また驚いたよ。

 教室に入ると、みんなが集まってきた。


「ナルちゃんっていうの? 

 お父さんがシローさんなんてすごいね」

「お母さんって雷神リーバスの孫なんでしょ?」


 みんな口々に、話しかける。

 誰が何を言っているかは、全部分かったけど黙っていたの。

 だって、答えられるのは一人にだけだもん。


 メルはもうウトウトしだしたの。

 並んで座ってる私がしっかりしなくちゃ。


 ◇


 授業はやっぱり、「分かりきったことを、じっと座って聞く」ものだったわ。

 だけど、少しは面白いのもあったの。

 それは魔獣についての授業よ。


「この魔獣の名前が分かる人」


 ファーグス先生が、教室の前、黒い壁に絵を描くの。

 白くて丸い魔獣だったわ。


「成長すると、高さはあのくらいになります」


 先生が、窓の外に立っている大人二人分くらい高さがある木を指さしたの。


「誰か見たことある人?」


 メルと私が手を上げたの。


「えっ! 

 ほ、本当に見たのですか?」


「お城で見たー」


 メルが答えてる。


「お城!?」


「では、この魔獣の名前は?」


「「しんじゅーさまー」」


 私とメルの声が重なる。


「ああ、何か他の動物と間違えていますね。

 これは、マウンテンラビットと言うんですよ」


「そうだよー、マウンテンラビットは本当はしんじゅーっていうの」


 メルがすぐに先生の言葉につっこむんだわ。


「えー、しんじゅーって、何かな?」


「マウンテンラビットのことだよ」


 これは私。


「うーん、先生にはよく分からないなあ。

 なぜ、マウンテンラビットがお城にいるんだろう」


「あのね、森から女王様についてきたんだって」


「あー、それ聞いたことある」


 前の方に座っている背が低い男の子が言ったの。


「うん、ウチの母ちゃんもそう言ってた」


 これは、その子の隣のぽっちゃりした女の子ね。


「しんじゅーさまはね、ウサ子って名前なんだよ」


「ウ、ウサ子……」


ファーグス先生が、目を白黒させている。


「女王様がつけた名前だって、パーパが言ってた」


「ま、まあそれはいいでしょう。

 では、気を取りなおして……。 

 この魔獣は何かな」


 うーん、先生はあまり絵が上手じゃないんだろうね。

 ワイバーンかドラゴンか、どちらなのか分からない絵になってる。


「この町にも来たことがあるんだよ」


「ワイバーン?」


 私の前に座る、ひょろっとした男の子が答えた。


「正解。 

 とても危険な魔獣だから、見かけたら学校に連絡してね」


 私は黙っていられなくて、知らないうちに声を出していた。


「先生、ワイバーンは危険ではありませんよ!」


「えっ!? 

 それは君のお父さんが言ってたの?」


「違います。 

 私の友達にもワイバーンがいるけど、危険ではありませんよ」


「えーっと、友達の名前がワイバーンなのかな?」


「名前じゃありません。 

 そのワイバーンです」


 私は先生が書いた絵を指さした。


「ワイバーンと友達……」


 先生は、なぜか黙ったままでじっとしてるの。


「トンちゃんたちの事、悪く言うのは、私が許さないんだから」


 私は少し興奮していたので、そう言ってしまったの。


「トンちゃん?」


 これは、私のすぐ前のひょろっとした男の子からの質問。


「友達のワイバーンは、名前がトンちゃんっていうんだよ」


 私が周りの生徒とトンちゃんの話をしていると、先生がバーンと机を叩いたの。

 それから、なぜか教室を飛びだしていったの。

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