第2話 ナルとメル、授業を見学する

 建物の中は、広い廊下がずっと続いてた。

 途中で沢山しまった扉があって、中で話し声が聞こえてたから、あれがきっと『きょーしつ』ね。

 でも不思議なことに、聞こえてくるのは一人の声だけだったわ。

 誰も相手がいないのにおしゃべりしてるのかしら。


 女の人が足をとめて扉を開いたわ。

 中からおヒゲをはやした男の人が出てきたの。


「ファーグス先生、こちらがお話していた方です」


「ああ、シロー殿ですか。 

 お子様はお二人ですね。

 見たところ、このクラスくらいのご年齢ですね。

 どうぞ、お入りになってください」


 私たちは、パーパとマンマと一緒に教室に入ったの。

 教室は、ウチの庭を半分にして、それをまた半分にしたくらいの広さで、たくさん子供たちが座っていたわ。


 皆がこちらを向いて座っているの。


「今日、ご見学になられるナルさんと、メルさんだ。

 みなさん、仲良くしてあげなさい」


「「「はーい」」」


不思議ね、みんなが同時に声を出したわ。

どういう仕掛けになってるのかしら。


「それでは、後ろからご見学ください」


 先生がそう言ったので、私たちは、教室の中を後ろまで歩いたの。

 みんながパーパの方を向いているの。

 何でだろう。


 子供たちの声に『クロガネ』や『ポンポコリン』っていう言葉が混ざっているから、みんな冒険者としてのパーパを知っているのね。


 クロガネっていうのは、冒険者の階級で一番上なの。

 パーパは若いのにクロガネなんだよ。

 あまりいないんだよ。じーじもクロガネだけど。


 ポンポコリンっていうのは、パーパがリーダーをしている『ぱーてぃ』の名前で、すごく有名なんだって。


 授業が始まって、ファーグス先生が前に立つと、だれもおしゃべりしなくなったの。

 ああ、だから廊下で聞いたとき、一人だけ話してるのが聞こえたんだね。


 授業は、数についてだったわ。


「白い石一つと、青いい石二つ、赤い石三つがある」


 先生が、教室の前の黒い壁に、魔道具で絵を描いてる。

 丸が六つあるから、さっき話したことを絵にしたのね。

 なんでそんなことをするのかしら。

 みんな先生が書いた丸を数えているみたい。

 なんでかしら。 


 ここの黒い壁くらいなら、いっぱいに丸を書いても一目で数が分かると思うけど。

 私とメルはパーパがよく連れていってくれる河原で、いつも一目で石ころ全部の数を当てっこしてるの。

 晴れた夜なら屋上で、空に見える星で当てっこすることもあるわ。

 そんなの簡単よね。


 私は、パーパのそでを引っぱった。


「パーパ、なんでこんなことしてるの?」


 パーパは少し困った顔をしたけれど、にっこり笑って説明しれくれたわ。


「そうだね。 

 ナルには簡単かもしれないけど、人の話をよく聞くのは大事なことだよ」


 なるほどー、そのためにやってたのか。

 私はちょっと納得した。

 分かりきったことを、じっと座って聞くのは大変だもんね。

 それからも、じっと座って聞く授業は続いた。

 メルがあくびしている。

 確かにこれは大変だ。


 授業が終わったとき、メルはほとんど寝ちゃうところだった。


「メル、メル、終わったわ」


 マンマがメルに話しかけている。

 メルは寝ぼけまなこでマンマにくっついている。

 私もそうしたかったけど、我慢した。


 皆が、ノートとペンを持ってパーパの所へ集まってくる。


「シローさん、サインください!」

「私もサインお願いしまーす」


 パーパは、嫌な顔もせずに、〇の上に△が二つ付いたサインをしている。


「やったー! 

 クロガネシローのサインだー!」


 サインをもらった子が、叫びながら、教室を出ていく。

 でも、私はそれがパーパのサインではなくて、パーパの会社、『ポンポコ商会』のマークだって分かっちゃった。

 パーパって、ときどきこういうイタズラをするんだよ。


 その日は、学校から帰るとき、『カラス亭』っていうところで、すごく美味しい料理を食べたんだ。


 パーパとマンマも料理がじょうずだけど、やっぱりプロの料理は一味違うわ。


 ◇


 次の日起きると、パーパが話しかけてきたの。


「ナル、メル、学校どうだった?」


 メルは正直ね。


「眠かったー」って言ってる。


 私は、「うーん、よく分からない」と答えておいた。


「ナル、メル、学校行ってみたいかい?」


 パーパとマンマも決めかねているみたい。

 昨日遅くまで二人の話し声がしてたから、分かるんだ。

 私は思いきって言ってみた。


「とりあえず、行ってみる」


 一回だけの見学じゃ、分からないかもしれないからね。


「そうか。 

 じゃ、来週から行ってみるかな」


 パーパはそう言って笑ってくれたけど、少し心配しているのも分かっていたの。

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