第16話 今度こそ、青の大陸へ
つまり、また今来た道を戻らなければいけないってことか?
「本当に申し訳ないのだよ。余も長らく転移陣を使っていないものだから、つい忘れてしまったのだ」
なるほど。それなら仕方がない。
いや、そんなわけあるか。
俺は今来た道……森の中なのだが、外へ続く道を振り返る。
そして、何度も目をこする。
「なあ魔王」
「どうしたのだ?」
「この森、こんなに暗かったか?」
今は真昼間だ。なのに、森の入り口に続くであろう道は、まるで夜のように真っ暗になっていた。
そう、昼間の明かりが入り口から見えないのである。
魔王は俺の言葉を聞いて後ろを振り向くと、ああ、と言って説明してくれた。
「ただ単に、奥へ進ませる魔法がかかってるだけだよ。
生きているからね、この森は」
……今なんつった?
森が生きている?
おいおい、勘弁してくれよ。俺はこの手の話は苦手なんだ。主に、幽霊とか非現実的なものとかな。精霊?あれはあれ、これはこれだ。
……幽霊に、私は精霊ですって言われたら、簡単に騙されそうだな。俺。
そんなことより、森が生きているってのはどういうことだろうか。
「どういうことも何も、そのままの意味だよ。
この森の中で死んだ生き物は、そのままこの森の養分になって吸収されるんだ。
もちろん、死体は残らないから、時々この森の中で殺人事件が起こることもある」
怖っ。この森で殺人事件なんて起きたら、証拠のブツが出てこない限り犯人が捕まらないじゃん。完全犯罪ができるじゃん。
「ついでに、魔法を使うと、
あら大変。魔法を使えば完全犯罪の出来上がり。
どうでもいいよそんなこと。
俺が聞きたいのはそんなことじゃない。もっとシンプルなことだ。
「俺は、この森から出れるか出れないかを聞きたいんだよ」
「え、出れるぞ?」
「出れるんかい」
普通の答えが返ってきた。これで出れないとか言いだしたら、その可愛い顔を殴っているところだった。
嘘ですよフェリアさん。そんな怖い顔で睨まないでください。目隠しをしているから余計に怖いです。
「どうしたのフェリア。なんでハイドを睨んでるの?」
「……いえ、別になんでもないわ」
助かったぜリーベ。もしお前が何か言葉を掛けなかったら、俺は多分ここにはいないだろう。そんな目をしていたぞフェリアは。見えないけど。
「じゃあ、早く出よう。何だか嫌な予感がする」
ルナが唐突に、青い顔をして呟いた。
その言葉に、魔王は頷いて俺たちに言った。
「そうであるな。では、余についてくるのだ。
早く出ないと、森に敵だと認識されて排除されるからな。文字通りの意味でな」
何も聞かなかったことにしたい。
つまり、長居をしていると、文字通り排除されて養分にされるのか。
やばいなこの森。
*****
結局、俺たちは魔王の案内を元に急いで森を出た。
一番危なかったのは、出口に向かって森から出ようとした瞬間だった。俺たちが立っていたところから、茶色の棘が飛び出したのだ。後で魔王から聞いてみると、どうやら森に生えている木の根っこが飛び出したものだと説明された。
つまり、俺たちがあの場から動かなかったら、今頃あの棘に貫かれていたということである。
城に戻った際、何やら血走った目を見開いた息の荒いフードの女性が出迎えてくれたが、魔王は黙ってその女性を殴り飛ばし、俺たちを魔法陣のある場所へと案内してくれた。
フードの女性はフードが取れた瞬間、正体が分かった。彼女は『ゴルゴン』と呼ばれる種族のようで、髪の毛の代わりに黒い蛇が生えていた。ただ、殴られたせいで鼻血を出していたため、どことなく残念な空気を醸し出していた。
青の大陸に続く魔法陣がある場所は、城の敷地内にある迷宮の奥にあった。
なんで迷宮の奥にあるのかは、魔王が父親、つまり元魔王から聞いた話を話してくれた。
曰く、人間と争っていた時代に、人間が簡単にこの黒の大陸に来れないよう、迷宮の奥に魔法陣が設置された時に、大規模な迷宮を作ったそうだ。どのくらいの時間がかかったか聞いてみたら、魔法で一瞬で作った、と言っていた。
元魔王やべえ。
今の迷宮は、しっかりとした手順を踏まないとその魔法陣にはたどり着けないらしい。逆に、魔法陣からこちらに出てくるときも、決まった手順を踏まないと出られないらしい。
このような設定は、戦争が終わった後に付け足されたものらしく、元魔王が遊びで付けたと言っていた。
元魔王やべえ。
魔王曰く、この迷宮は十字路の曲がる方向で手順を決めているらしい。つまり、右に曲がったり左に曲がったり、もしくは真っ直ぐ行くというのが、あらかじめ決まっているということだ。
黒の大陸の住人は、成人を迎え、さらにしかるべき儀式を受けた者にのみ、この迷宮の攻略方法が書いてある紙を渡されるらしいが、青の大陸に行く魔族はほとんどいないため、あまり使われていないらしい。
……迷宮の所々に、簡素な鎧を着た骸骨が転がっていたのだが、戦争時代のものだよな?
「で、ここが青の大陸に続く魔法陣なのだが……」
あ?手順はどうしたかって?
今まで説明してたら時間が無くなった。あと覚えてねえよ。
「青の大陸にある魔法陣は、余ら魔人族が管理している。
だから、馬鹿な人間がいない限り何も問題は起こらないだろう」
それでいいのか青の大陸。普通に魔人族がいるじゃねえか。
「また戦争が起こってはいけないから、それを防ぐためというのが本音だ」
まあ、確かに。そこを乗っ取られちゃうと、下手すれば魔人族に被害が出るからな。
「さて、魔法陣を起動するから、それに乗って待っててくれ」
魔王はそう言うと、目を閉じて何かをつぶやき始めた。
声も聞き取れないし、何語かもわからないから、きっと俺たちの知らない言葉なのだろう。
とりあえず、俺たちは魔法陣の上に乗って待った。
数分後、長い詠唱だったのか、額に汗を浮かべた魔王は笑いながら言った。
「さて、あと数分で青の大陸に飛ぶのだが、何か余に言っておくことはある?」
俺としては一つしかないのだが、一応周りの面々を見る。
他の人たちも何も言うことはないらしい。
じゃあとりあえず、言っておこう。
「さっきの黒い女性がいただろ?あの蛇の中に、何やら白い布っぽいのが見えたんだが……」
「……っ!わかったありがとう!」
瞬時に顔を赤らめ、走って行ってしまった。
「空気を少し読んだらどうかしら?このバカハイド」
起動した魔法陣から出た光に飲み込まれた瞬間、フェリアに罵倒されたのだが……俺、何か悪い事したか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます