第15話 待て、なんだって?

 さて、そんな被害者同士で友情が深まっても、相手は魔王で俺は村人。どう考えても身分が恐ろしいほど離れている。分かっているだろうが、いくら辺境の村で白の大陸に住んでいようが、魔王は俺より遥か高みにいる存在なのだ。気軽に友情を深めても困るだろう。


 それで、今現在迷っているのだが、これからどうやって魔法陣のある場所に行くか話し合っているところだ。男女で分かれて。


「なあライズ」

「ん〜?」

「いつまで食ってんだ?」

「なんかお腹空くんだよね〜。なんでだろう……」


 男女で分かれたのはいいが、男子は俺とライズで、女子はリーベとフェリア、ルナ、魔王の四人。どう考えても意見が出るのは女子が多い。

 そして、ライズは歩いているときは何も食べていなかったのに、話し合いとして足を止めた瞬間に鞄からおにぎりを取り出して食べ始めた。いくつ入ってんだよ。


「それはいいとして、どうやって魔法陣まで行くか考えようぜ」

「ルナちゃんの精霊を使えばいいじゃん。飛べるし」

「あー、あの紫の蝶か……確かにいい案だとは思うが……」

「というか、精霊を総動員させて探して貰えば?」

「うーん……どうだろうな?」


 忘れていないだろうか。

 精霊は自分たちの呼び出しに拒否できることを。


「と言っても、確かハイドは精霊契約ができなかったんだっけ?」

「それなんだがな」

「ん?」


 そういえば、ライズたちに、俺……というか俺とリーベの精霊契約が成功していたことを言っていなかった気がする。


「後日枕元に精霊がいました」

「なにそれ詳しく」


 うわっ!食いついてきた!?

 スライムのようにのしかかってくるなよ。どう考えてもスライムよりお前の方が重いんだから、俺なんか潰れちまうぞ?

 え、いつもとの体型の戻ったかって?俺も知らない。いつの間にか戻っていた。


「枕元にいた精霊は、辺境の村に封印されている精霊の子どもらしくてな……」

「死の精霊と生の精霊だっけ?本に載ってたやつ」

「そうそう」


 なるほど、本で読んだのか。俺は本があることすら知らなかったなー。


 俺は羨ましげに、ライズを見る。


「何を見ているの?

 ……ああ、そんなに見ても、あげないよ」

「別に腹が減ってるわけじゃねえよ」


 何を勘違いしているんだ、この食いしん坊。


「とにかく、俺たちの話し合いは終わりだ。答えは決まったしな」

「ん?何だっけ」

「お前は青の大陸に着くまで何も食うな。いくつ目だそのおにぎり」


 おかしいな、さっき食べてたおにぎりは幻覚だったのか?っていうほど、食うのが早い。というか、さっき食べてたおにぎりの大きさは相当のものだったが、今食い始めたおにぎりもなかなかの物だ。


「これで最後にするから……」

「……とりあえず、そういうことにしておこう」


 いや、そういうことにしちゃいけないんだよな、こいつの場合。あといくつ入っているか、わからないからな。

 そもそも、ライズの親がおにぎりをどのくらいの大きさでいくつ作って、その魔法鞄に入れたか俺にはわからないからな。本当に、それで最後にしてほしい。


 気持ちを切り替えて、俺たちは女子の集まっているところに行く。


「なあ、どうするか決まったか?」


 俺が来たことに驚いたのか、俺に対して背中を向けていたリーベが、まるで油の切れたロボットみたいなぎこちない動きで、俺に振り向いた。


「あ、あははは……」


 随分と乾いた笑い声だな。

 まさか、話合わずに女子トークで盛り上がっていたわけじゃないだろうな?


「で、どんな話が出たか、聞こうじゃないか」


 今、俺の表情はどうなっているんだろう。ちゃんと笑えているだろうか。


 そんな俺の気持ちに気付かず、リーベは恐る恐るといった様子で俺に問う。異世界に転生してから俺の衣服を盗んでも悪びれない彼女にしてみては、どこか新鮮な表情だ。


「あのね、怒らないで聞いて欲しいんだけど……」

「俺に怒られるような内容なのか?」

「え〜っと……魔王ちゃんパス!」

「ええっ!?」


 俺のプレッシャーに耐えきれなくなったのか、ずっと目を逸らしている魔王に、リーベはバトンタッチした。


 魔王の方に目を移す。

 どこか、バツの悪そうな顔をしている。


「あのだな、実は今思い出したのだけど……」

「一気に言っちまった方が楽だとは思うんだが……まあ言ってみ?」


 話し合いも碌にせず、無駄話してただけなら、俺は怒ってしまうだろう。

 しかし、次に出た魔王の言葉は耳を疑うようなものだった。


「魔法陣、お城の敷地内にあったのだよ」


 待て、なんだって?

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