第14話 黒の大陸と白の大陸

 青の大陸に行くために使用するのが、転移の魔法陣。

 これは、青の大陸から来た人間を、無事に返すことを目的として作られた魔法陣らしい。


 なんとまあ、なんで戦争が起きたかわからないくらいの優しさだな。


 その魔法陣のある場所に向かう際、俺たちは魔王と会話しながら歩いていた。部下であろう女性は、城での仕事があるらしくついてこなかった。

 みんな知ってるか?俺たちが村から転移した場所は、黒の大陸にある『魔王城』だったらしいぜ。後ろを振り返ると、天まで届きそうなくらい高くそびえた城があったんだ。


 まあ、城自体に『見上げ入道魔法(命名)』がかかっていたから、また首を痛めそうになったんだけどな。誰だよ、こんなでかい建物に、そんな魔法かけたやつ。そいつはきっと、とんでもない変わり者なんだろうな。


「お前たちは、余の住んでいる大陸とお前たちが住んでいる大陸が、どれだけ離れているか知っているか?」


 辺境の村について話している時、魔王は唐突に質問してきた。

 俺たちは、その質問に答えられなかった。教えられていないからな。


「白以外の大陸の、それぞれの距離が大体1,000ケミル(km)だとすると、黒の大陸と白の大陸は大体10,000ケミルくらいだ」


 いや、その距離はおかしい。え、何?白の大陸って本当に辺境なの?辺境の村って名前は伊達じゃないのか?


「はい、質問」

「はいルナちゃん」


 魔王は、俺たちを話しているうちに、俺たちの名前を覚えてくれた。種族の王様に名前を覚えられるのは、とても貴重な体験かもしれない。


「村に続く魔法陣があったけど、どうやって交流したの?」


 そんだけ離れているんだ。きっと途方もない道のりだったのだろう。


「転移陣の実験をしてたら、偶然白の大陸につながっただけだと、父上に聞いている。

 当初の村長は、余らを見てたいそう驚いていたらしいが、見た目が人間と近かったせいか、快く受け入れてくれたと伝えられている」


 魔王の言う父上とは、きっと元魔王なのだろう。

 こんな子供に魔王を任せるなんて、元魔王は大丈夫か?主に性格とか。


 しかし偶然か……努力とか、何人もの仲間が海に落ちたとか、そういう涙なしでは聞けない話を聞きたかったのだが……待て、なんで魔王は俺を睨んでいるんだ?


「なんだよ」

「いや、余の勘違いであればいいんだが、何か失礼なことを考えておらんか?」


 女子というのは、こんなに勘がいいものなのか?

 俺の彼女に比べると、どうしても勘がいいように感じられる。


「……?どうしたの、ハイド?」


 今もほら、失礼なことを考えているのに、リーベの周りにはほんわかとした雰囲気が漂っている。


「魔王、それは勘違いだ」

「そ、そうか。すまんかった」


 こういうのは、こう返しておけば問題ない。フェリアで実験済みだからな。


「ハイド?」


 フェリアが訝しむように俺を見てくる。目隠しをしているのに、俺の方を見てくる。


「いや、なんでもない」


 危うくフェリアに勘付かれるところだった。危ない危ない。


 どうしてこう、俺の周りには、無駄に勘がいい女子が集まるのだろう。

 いや、ルナとリーベは勘が良くないから、そうでもないか。


「とにかく、今でも黒の大陸と白の大陸で交流が続いているのは、あの偶然の出来事があったからこその結果なのだよ」


 なるほど。だから、白の大陸から来た、どう見ても人間の俺たちを見ても、刃を向けなかったってわけか。


 なるほどなるほど。


「ところで魔王」

「何かな?」


 先ほどから歩き続けているのだが、一向に目的地に着かない。しかも、何か毒々しい森の中を歩いている気もする。

 これはもしやと思って聞いてみた。


「まさかとは思うが、迷ってないよな?」

「ま、マッサカー、ソンナコトハナイゾ?」


 なぜカタコトになる。


「迷っているなら、迷っていると言えばいいのに……精霊はどうしたんだよ」


 そういえば、魔王にはトンボの精霊がいたはずだ。その精霊に頼んで、魔法陣の場所へと案内して貰えばいいと思ったのだが、魔王は足を止めて、こちらに振り返った。

 めっちゃ涙目になっている。


「実はな、お前たちを余のところへ案内してくれた女がいるだろう?」


 あのフードをかぶっていて、顔が見えなかったあの女性か。


「あやつはな、余がいなくなると、こっそりを余の部屋に忍び込んで、余の下着とかをこっそりと持っていくのだ。

 だから監視としてつけているため、ここにはいないのだ」


 なぜだろう。とてつもないデジャビュを感じる。


 とりあえず俺は、自身より背の低い魔王の肩へポンッと手を置いて言っておいた。


「お互い、苦労するよな」


 いい笑顔で、サムズアップ。


「お前もか……大変であるな」


 よかった。ここにも仲間がいた。


 そして俺たちは、同じ被害者としての友情が芽生えたのであった。合掌。

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