第13話 魔王……なのか?

 転移陣がある部屋を出ると、目の前に巨大な玉座があった。いや、玉座だけど、どうやら部屋は玉座の真後ろにあったらしく、背もたれが巨大だということしかわからなかった。


「これは魔王様が座る玉座よ。後ろからだからわかりにくいと思うけど……あ、触らないでよね。色々な付与がされてるんだから、壊されちゃたまったもんじゃないわ」


 付与というのは、家具やら武器やら衣服やらにつけられている魔法のことである。黒フードの女性に教えて貰った。


「ってなんであなたたちが『付与』を知らないのよ?村で教えてもらわなかったのかしら?」

「いや、万物には精霊が宿っているってのは聞いたことあるんだが、付与に関しては何も言われなかったぞ」

「僕らの村では、作物にもそれを育てる土にも、周りの森や海にも精霊が宿ってるって聞いたけど……」


 俺とライズは、村で教わったことを女性に言う。しかし、女性は呆れたようにため息を吐くと、疲れたような声で言った。


「あのねえ、たしかに精霊は万物に宿るって言われているけど、それと付与は別よ?

 付与は精霊に許可を得てから付けるものであって、最初から付いているものじゃないの」


 玉座の正面に向かって歩きながら、女性は続ける。


「それに、精霊は普通、目には見えない存在なの。知っているでしょ?契約した精霊しか見えないって」


 俺は見えるのだが、黙っておこう。

 今も女性の頭の上に、一匹のトンボが飛んでいるのだが、それも黙っておこう。


「ところで、そろそろ魔王様の前に出るのだけど、身だしなみは大丈夫かしら?」

「問題ない」

「大丈夫だよー」

「OKよ」

「……お気遣いありがとう」

「……ムグムグ」


 って何を食ってんだ、ライズ?

 いや、鞄に入れていたのか?そして、それは今食べるべきものなのか?


「いや、ちょっとお腹が減ったもんで」

「いい食べっぷりね、ウチの『暴食』といい勝負になりそう」


 物騒な名前は聞かなかったことにしておこう。きっと厄介ごとに巻き込まれるだろうから。


「え、『暴しょーーモガモガ」

「リーベ、ちょっと黙ってよっか?」


 ナイスだフェリア。リーベが今反応すると、きっと魔王の時のように自慢話が始まる。全部言い切る前に口を塞いでくれてよかったぜ。


「到着したわ。ここが魔王様の玉座の正面よ」


 女性の声に、玉座がある方へ顔を向ける。

 一言で言うと、でかい。


 はっきり言って、首を限界まで上に傾けても、まだ天辺が見えないほどだ。まるで見上げ入道を見上げているような感じだ。


「あまり見上げない方がいいわよ。対象の首の角度によって高さが変わって見える魔法が付与されてるから、下手すると見上げすぎてひっくり返るわよ」


 まさに見上げ入道だった。笑えねえ。


「よく来たな」


 鈴を転がすような声に目を向けると、玉座の足のところに、中学生くらいの少女がいるのが見えた。

 何やら真っ黒の外套を着ていて、髑髏どくろのついた木でできた杖を持っている。


「魔王様!」


 え……魔王?

 ちっこくない?

 面倒臭そうな予感しかしないから、とりあえず忘れられているだろう俺の特技で逃げてしまおうかな。


「そこ!明らかに面倒くさそうな顔をして気配を消そうとしない!」


 魔王と呼ばれた少女に、ズビシッと指を突きつけられ、俺は逃げるに逃げられなくなった。っていうか、なんでそんなに具体的にわかるんだよ。エスパーか。


「さっきから精霊を通して見ているが、なぜ貴様は余の精霊が見えるのだ!?」


 さっきから大声で話しているのは、魔王と呼ばれた少女が玉座の足に寄りかかったままで、格好つけた状態だからだ。なんというか、うん。子供だなーって思う。


「そこ!余は子供ではない!一応120歳は生きている!」


 少女はまた俺を、ズビシッと指差し、自分の年齢を暴露した。

 俺たちを案内していた女性が、「魔王様、今日も可愛らしい」と言っているが、正直どうでもいい。


 さて、皆さんはこんなことを聞いたことないだろうか。

 人を見た目で判断してはいけない。見た目と年齢が必ずしも一致するとは限らないからだ。

 しかしよく考えてみよう。見た目と年齢が一致しなくても、見た目相応の言動だった場合、どうだろうか。人間と同じくらいの年齢だって言っても過言ではないだろ?


「そこ!!見た目で相手を判断するんじゃない!!」

「だったら格好つけてないで、こっちに来たらいいじゃん」


 至極まっとうなことを、フェリアが言う。

 正論すぎて、ぐうの音も出ない魔王は、しぶしぶこちらに歩いてきた。


 そして、こちらに到着するや否や、俺に向かっていった。


「で、いつまで気配を消しているつもりだ?」


 ぶっちゃけ本気でもないが、とりあえず本気を出したかのように言っておこう。


「なんでわかったんだ?他の奴には気づかれなかったのに」

「魔王だから、当然である!!」


 大抵こういうやつは、調子に乗って胸を張るから。


 俺の気配を消す能力は、辺境の村で戦いを学んでいくうちに、気配を消す時に加減をできるようになった。数字で表せば、1〜10で表すことができる。

 今やっていたのは、3くらいだ。このくらいの加減で気付くやつは、そこそこの奴だと思っている。つまり、魔王はそこそこの奴だ。


「……なんか、余に向かって失礼なことを考えていないか?」


 こういう時は、こう言うのが一番だ。


「気のせいじゃないですかね?」


 そうすれば、こう返ってくる。


「……まあ、そういうことにしておこう」


 頭にハテナマークを浮かべながら、わかっているような雰囲気を出す。さすが魔王と褒めるべきか、それとも馬鹿だと貶すべきか……どちらの行動を取っても、部下であろう女性にぶっ飛ばされる未来しか見えない。


「とりあえず、青の大陸に行くのであったな。もっと話をしたいのだが仕方がない。ついてくるのだ」

「魔王様、よろしいのです?」

「村長から、こやつらは学校に通うと伝えられているのでな。余が邪魔しては悪いだろう」


 魔王はそう言うと、俺たちについてくるように言った。

 どうやら、青の大陸に続く場所へと連れて行ってくれるのだろう。


「さて、あの場所へ行くにはちと時間がかかる。それまで、白の大陸にある辺境の村について、何か話を聞こうかね」


 魔王はそう言うと、俺たちを連れて歩き出した。

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