第8話 なにやってんのさ

 母さんから、この世界についての常識というか歴史というか昔話というかなんというか……まあ色々なことを説明されて一ヶ月後。久しぶりに成人の儀式を一緒にやった友達同士で集まっていた。

 そう、蝶と蛇とスライムである。間違えた、ルナとフェリアとライズだった。失礼失礼。


 精霊は今ここにはいない。契約者と常時いるのではなく、呼ばれた時に行く、というシステムらしい。しかも、呼び出し拒否もできるらしい。自由だな、精霊。

 いや、友達に会ったり、遊んだりする時間を消費してまで呼び出しに応じるのは自分でも嫌だな。そう考えると、呼び出し拒否できるのは良いもんだと思ってくる。


 さて、集まった理由は特にないんだけど、今後の予定というか、村を出て行くのか出て行かないのか、将来何になるのかとか。


「わたしは村の外に出るわ。世界を旅してみたいの」

「もちろん、あたしと一緒にね!」


 どうやら、ルナとフェリアは一緒に村を出て、旅人になるようだ。


「ダリアって人を探すの!この村の出身らしいからね!!」


 この村出身で、精霊との契約に成功した数少ない人たちの中の一人である。彼女は父さんや母さんと同じ年代の人で、村の外に出て行ってしまったらしい。

 ルナとフェリアの二人は、そんな彼女に会ってみたいらしい。なるほど。俺も実は会ってみたい。


「で、ライズはどうするんだ?」


 今度は食欲旺盛なライズに聞く、というかライズ。お前まだ飯食ってんのか。


「これはただのおやつだよ。ほら、これなんかキュウリだし。あ、そうそう。僕も村の外に出るつもりだよ。青の大陸に学校があるんだって」


 ライズはそう言いながら、キュウリらしきものをポリポリと齧っている。ヘルシーだな。通りで痩せているわけだ。いや、儀式の時はぽっちゃりしてたのに一ヶ月で痩せるとか、その理屈はおかしいだろ。どうなってんだよお前の体は。


「そんなことを聞いているあなた達はどうするのかしら?」


 フェリスがそんな俺を見ながら、将来のことについて質問してきた。


 まあ、俺の答えは決まっているからな。


「もちろん、俺はこの村にのこ」

「らないで、私と一緒に村を出て、ライズ君と同じ学校に行くんだ!」


 何勝手なことを言っているんだこいつ。

 俺は最近、こいつのことを奴隷とは思わなくなっていた。

 だが、やはりこいつは奴隷だ。


「リーベ、俺たちはこの村に残るんだ。残るって言え」


 こうやって命令すれば、リーベは拒否せずに俺の言うことを聞いてーー


「だが断る!」


 ーー聞いてくれないのは大体わかっていた。リーベってこういうやつだもん。ミヤビだった時から直っていない。むしろ悪化している。


「この光景を見ていると、リーベが本当に奴隷なのか疑問に思ってくる」


 ルナの発言は正しい。正しいのだが、残念ながらこいつは奴隷だ。あの始祖神だか何だかの死神にそう言って転生させてもらったのだから。


「大丈夫。もうお父さんとお母さんには言ってあるから。たk……ハイドが学校に行きたがってるって」

「なにやってんのさ、この奴隷もどき」

「奴隷から奴隷もどきにランクアップ?ダウン?したわね」


 もはや、こいつは奴隷じゃない。奴隷もどきだ。


「失礼だと思わない?私はハイド様の普通の奴隷だよ?」

「「「そんな主人を呼び捨てにして命令を拒否しても罰が無い奴隷は、普通の奴隷じゃ無い」」」


 ルナとフェリア、そしてライズは、リーベの発言に揃ってそう返した。なるほど、みんな同じことを考えてたのか。


 ところで、俺とリーベが学校に行くって話はどこまで進んでいるんだ?

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