第3話 成人の儀式の次の日のこと

 目が覚めると、隣に骸骨がいた。


 という夢を見た。

 いやー、良かった良かった。夢で本当に良かったよ。


『夢じゃないですし、現実を見てくれませんかね?』


 声が聞こえた。幼い少女のような声が。


 ベッドから起き上がってタンスの方を見ると、俺の衣服を抱きかかえて座り込んでいる、白髪で黒服の少女の姿が……


「不法侵入者か、もしくは服泥棒か……」

『どっちも違うのですが……』


 俺の予想を裏切り、少女は否定してきた。

 そんな馬鹿な。俺の衣服を抱きかかえているなんて、不法侵入する服泥棒みたいなものなのに!!


『何か失礼なことを考えていませんかね。私はこれでも、死を司る精霊をしているんですがね』


 そんなことを考えて頭を抱えていると、黒服の少女は俺の服をタンスにしまいながら少女はそんなことを言った。

 彼女の頭の後ろには、俺が夢の中で見た骸骨の顔があった。ぎょっとしてよく見てみると、どうやら仮面のようだった。良かった。


『さて……って何を見ているんですか』


 俺の視線を感じたのか、少女がこちらに振り返る。訝しげな表情をしていた。どうやら、俺の視線に何か変なものを感じ取ったのかもしれない。


『この仮面が気になりますか?』


 少女は俺の視線の意味に気付いたのか、後ろにつけていた仮面を取って、俺に見せてきた。

 死を司る精霊とか言ってたから、髑髏どくろの仮面をつけているのだろうと考えたが、


『別に死を司るからこの仮面をつけているのではなく、ただ単に格好いいと感じたからつけているだけです。勘違いしないでください』


 見事に否定されました。

 というか、格好いいと感じたからつけたと言っていたが、可愛いと感じたものがあればそれをつけるのだろうか。


「何か可愛い精霊だな」

『当たり前じゃないですか。私、精霊ですから』

「ナルシストかお前は」

『正確にはナルシシストですが、私はそんなものではありません。私が可愛いのは当然だからですよ!』


 少女はドヤ顔で決めポーズのような体勢……詳しく説明すると、左手の人差し指を額に当て、右手を腰に当てて前かがみになった状態になった。


 可愛いと思った俺が馬鹿だった。ちょっとだけこの精霊は、頭が残念なことになっているのだろう。

 そういえば……


「何で俺の部屋にいるんだ?」


 気になったことだ。

 だって、俺の成人の儀式は失敗しているはずだ。俺には、精霊と契約していてもしていなくても、外にいる精霊なら何でも見えてしまうから、自身のことを精霊だと言った少女のことも、はっきりと見えている。


 だが、俺は一つ引っかかっていることがある。

 それは、少女が先ほどの俺が目を覚ました時のことを、夢ではないと言っていたことである。それはつまり、ベッドに少女が眠っていたということになるからだ。

 あれ?何かやばくない?警察に捕まっちゃうんじゃない?いや、この世界に警察なんていないけど。


 そんなことを考えていると、少女は俺の質問に答えるように決めポーズをやめ、膝まづくと言った。


『私はあなたの契約精霊なので、あるじの近くにいるのは当然じゃないですか』


 どうやら、精霊との契約には成功していたようだった。

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