10話:射的
「お!ミナトの兄貴待ってたぜ!」
一階の受付に戻ると荒くれ三人衆がいた。
どうやら俺をまっていたらしいとのことだが、何の用だろうか?
リーダー格のモヒカン大男が笑いながら言った。
「ついさっきまでアリシアの奴がデッカイ声喋っていてよ、その中でミナトの兄貴がこの辺りのことに疎いと聞いて、主要なところだけでも紹介しようと思ってな」
「え?いいのか、お前たちクエストとかあるんじゃないの?」
「問題ありません、むしろ兄貴さんが知らない後々大変なことになりかねないですし」
「そうっすよ、特に武器の加工場のおっさんとか必要なところは特に大事っすから」
取り巻きの緑色のフードを被った方が続いて言った後に、背の低いもう一人の取り巻きが更に続けて言った。
「俺としてはありがたいよ本当に……あのさ、良かったら少し金も貸してほしいんだけど」
「ははは!アリシアに財布の紐を縛られているんかい?」
「そういうことじゃないけど……」
「大丈夫っす、兄貴の分は俺に任せてくれっす!」
やはりこの荒くれ三人衆は見た目は怖いが中身は親切な人たちだ。
そのうち荒稼ぎできたらこいつらに一杯おごってやるとするか。
俺は荒くれ達とギルドを出た。
ヨミさんには少し出かけてくると伝え、アリシアの様子を仕事の合間に見てくれるそうだ、ありがたい。
ギルドの外には入る時にはいなかったが、今はかなりの人数がそこらじゅうにいる。冒険者、商人、街の住民などハジマリに関係ある人たちのようだ。
「じゃあ、まずは俺たちの行きつけの酒場を紹介しないとな」
「あのなぁ、なんでいきなり案内されるところがそこなんだよ」
「あの店は酒以外にも美味しい料理がたくさんあるんですよ、更に可愛い女の子たちもいるんですよ」
「そうか、美味しい料理があるなら仕方ないな、うん仕方ない。別に可愛い女の子がいるからじゃないぞ、うん。……今度収入が入った時に一緒に行こうじゃないか?」
俺は荒くれ達と笑いながら街の中を探索していく。
因みにモヒカンはライアン、緑フードはアレン、背の低い男はマイクという名前らしい。
さすがに荒くれ三人衆だと世間体にも響くからこっちで呼んでくれと頼まれた。
*
レンガの街並みをぶらりと歩く……武器加工屋、防具加工屋、道具屋、素材屋……だいたいはゲームと同じ配置に店を構えているようで安心した。
少なくとも次からは一人で迷わずくることができるだろう。
そろそろ夕方になるかどうかという時に、俺はとある店の前で立ち止まった。
大人子供と年齢に関係なしにたくさんの人が集まり歓声や悲鳴混じりの叫びが聞こえる。
看板にはライフル銃を模した絵が描かれているのだが、なぜか銃口から出ているのは魔方陣。
……非常に気になる。
「お、魔導ライフルの射的に興味があるんで?」
「魔導ライフル?」
「あれを見て下さい、これから撃とうとしている人がいるみたいですから」
緑フードのアレンが指をさす方向を見ると、背の低い女の子がライフル銃らしきもを構えて何かを狙っているようだ。
次の瞬間銃口に魔方陣が展開され一気に収束すると赤く小さな球が飛び出した。
大きさや色こそ違うがあれは、アリシアが使ってる
『惜しいッ!後少しでパーフェクトでしたが、最後は外してしまった。残念!!』
拡声器のような物を持った男性店員が実況のように叫ぶと、集まった人たちが拍手をして健闘したのであろう女の子に賞賛を送っている。
なるほど、つまり俺が知っているコルクを飛ばす射的が魔法を飛ばす射的になっているのか、物騒だな。
「俺らもたまにあそこで小遣い稼ぎ程度に遊ぶんだが、いまだにパーフェクトを出した奴を見たことがないな」
「パーフェクト賞は店で用意している金賞、銀賞、銅賞の景品+プラチナ賞の景品がタダでもらえるっす」
「銅賞まで取れればかなりの儲けになります。その日によってお店が用意している景品が違いますが、殆どの品物がレアな装備や素材だったりするのでそれを換金するといい感じに懐が厚くなります」
三人衆は何度もやったことのあるようで色々と説明してくれた。
持ち弾は10発、各ライン毎に的が置いてあるのでそいつを撃つ、と。
ど真ん中にある赤い点に当たると店の奥にある赤いランプが点灯していきその数でもらえる景品が決まるらしい。
7つ点灯で銅賞、8つで銀賞、9つで金賞、パーフェクトで三つの賞とプラチナ賞の報酬がもらえる。
7つ以下は参加賞の薬草がもらえる。
「やってみたいんだけど、一回いくらなんだ?」
「豪華な景品を狙うコースでは500バレッドですね。子供たちがやっているのはお菓子がもらえるコースなので5バレッド、お小遣いに優しいコースです」
この『バレッド』っていうのはこの世界の通貨だ。
1バレッドあたり100円相当になる。薬草が8バレッドなので800円近い値段になるので一般人には高級な回復アイテムになる。
……ってことは、俺がギルド登録の際にアリシアから1000バレッドもらって払っていたと考えると、10万円くらいをアリシアに借りたことになるんじゃないか?
でも、
「じゃあ、アレをさっそくやってみたいんだが……いいか?」
「もちろんっすよ!ミナト兄貴ならパーフェクト狙えるっすよ」
マイクが500バレッドを俺に手渡してくれると、その横で不敵な笑みを浮かべながらアレンがアドバイスをしてくれた。
「最高で銀賞をとったことのある私、アレンから言わせてもらいますと狙い目は中央の的ですね、他の的は歪なモンスターの形をしていたりするので狙いづらいのですが、中央の的は『ミート・ボール』という魔物を模っていましてね、そいつは……」
「アレン、お前はいちいち説明が長いんだよ!まぁ、簡単に言えば均等に丸いモンスターなんで狙いをつけやすいってことさ」
狙いやすいか……得点が絡むゲームはどうしても平均以上の点数を取れなくなるのであんまり好きではない。
だが、数を増やしていくゲームならなんとかなるだろう。
俺は店員に金を払い、中央の的を選択する。
さっそく魔導ライフルを手にとると、意外と軽く取り回しやすい感じで手に馴染む。
筋力とか増えてるせいもあるのだろうがこれなら構えてもフラフラしないですみそうだ。
そういえば、あの的の大きさって……。
「すみません、あの標的って縦横だいたい1メートルくらいですかね?」
「?、はいそれくらいだと思いますけど」
なるほど、無理に狙わなくてもいいってことか。
にやりと笑った俺は、自分の標的に照準を合わせると引き金を引いた……。
その日の夕方、魔導射的屋に新たな伝説が生まれたのは言うまでもない。
続く
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