5話:暴剣プロミネンス

 本能的というか衝動的というか、自分でも分からない内に勝手に体が動いていた。これが俗に言う『火事場のクソ力』ってこういうことを指すのかなと思った。


よくある王道展開と言われるやつだが、俺にとっては好都合だ。

 不思議なことにさっきまで感じていた恐怖感はどこかにいってしまったかのように消えてしまい。


傷ついたアリシアを守りたいという気持ちと……それ以上にと思う感情が体の中に溢れていた。


「アリシア…俺は絶対お前を守ってやる。あの人狼犬っコロをぶちのめすまで少し待っていてくれ」


「なっ…は、はぁ!?意味わかんないわよ!いきなり俺の女だと言ったと思えば、私を守る?さっきまで逃げ回ってたあんたに何ができ…って、きゃああ!?どこさわってんのよ!?」


俺はアリシアがごちゃごちゃ言うのを無視して右手を痛む腹部に手を当てる。

腕輪から緑色の発せられた緑色の淡い光が俺の腕を通してアリシアを包んでいく。

体中の傷が小さくなり、傷跡を残すことなく全て消える。…こんなものかな、俺はアリシアから手を離すと再び人狼の戦士ワー・ウルフ達のボスである人狼の強戦士ワー・ヴォルフに向き合う。


「これは…回復魔法…?いや、違う。見たことのない力、あんた一体…」


傷だらけで顔色も悪くなりつつあったアリシアは泥汚れを除いて最初に会った時のように元気になっていた。

抑えていた腹部も大丈夫のようで、信じられないといった表情をしているのを肩越しから見ると思わず頬がにやけてしまう。


何もできなかった自分はもういない。

これからはこの守りの力…『守護者の力ガーディアン・フォース』を使って戦ってやる!





*



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|……守りたいですか?……

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「(何だ!?幻聴か!?)」


突然のことだった。俺の頭の中にだけ聞こえる声が聞こえてきたのは。

俺以外が時間が止まったかのように動かなくなり、誰かが話しかけてきた。


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|……守れる力が…欲しいですか……?

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「(…なんだか分かんねぇけど、あるならくれって状況だよ!くれんのか?その守れる力ってやつを?)」


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|……はい……守りの力を、守護者の力ガーディアン・フォースを……

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…この力は…誰かを守りたいという気持ちが無ければ使えません……。

…私利私欲の為に使おうというのであれば、守護神アリスの怒りを受けることに

なります…。

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……腕輪に強く念じてください、『守りたい』と『守りたい愛すべき対象』がい

ると……そうすれば、腕輪はあなたに力を授けてくれます……。

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俺は不思議な声に疑いもなく右手に装着されている腕輪に祈ってみた…。

宗教とかに属してないのでどうやって念じればいいのか分からないが、気持ちが伝えることが出来ればいいのだろうか?

守りたい相手、愛すべき対象…この場合はアリシアになる…愛すべき…?


いやいや、確かにアリシアは可愛い。とてつもなく可愛い。

愛せと言われたら二つ返事で答えるだろう。だがこういう場合、万人全員を平等にって感じなんだろ?

邪な感情は入れてはいけない…そう、いれてはいけない…


『別に助けて欲しいなんて言ってないわよ?……ありがと……チュッ』


悪くない。

そんな俺の祈りが通じたのか腕輪が赤く光始めた。

今まで緑色だった宝石が夕日の様に赤々と色づき、熱いほどの熱風が腕輪から発せられてきた。


(これが……守りの力……ってやつか!)


顔に吹き付ける熱風を左手で防ぎながら赤く光る腕輪を見つめていると、宝石部分から何かが出てくることに気が付いた。金属の…棒?

ゆっくりと出てくるそれが剣の握り部分と気が付くのにそれほど時間がかからなかった。


引っ張ればいいのかな?握り部分を掴むと引っ張る。

思ったよりも軽く、紅い刀身がスルスルと出てくる。


刀身が抜けきるとそこにあったのは…紅蓮の炎をそのまま形にしたかのような赤く、燃えるような熱さを刃に蓄えた一本の剣が俺の手に握られていた。


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……え?暴剣プロミネンス!?何であなたが…こほん、失礼しました……。

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謎の声…天の声が一瞬だが驚いたようになったのは気のせいか?


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…えーっと…あなたがどのような祈りをされたのか分かりません…が、

当初の予定とは少し異なる力が答えたようです…しかし、これも守りの力の一つ

順番が変わっただけなので問題はありません…多分。

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おーい、なんか最後の方を濁すのはやめてもらえませんかね?


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……守りの力は、あなたが呼びだした種類によって能力が変わります…そして、

その守りの力の影響をあなた自身が受けることになります。

性格、雰囲気…言動…。

意識こそあなたのものですがそれ以外は若干変わると思ってください……

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(…守りの力を憑依させるから、ちょっとおかしくなるよ!ってかんじですかね?)


確かにこの剣を握ってから無性に力が沸き上がる。

早く暴れて発散したいという衝動が溢れてくる。

あんなに恐ろしく見えた人狼の強戦士ワー・ヴォルフ、早くあいつをブッ倒したい…。


次々と沸き上がる俺の感情を見越したのか、天の声は最後に言った。


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暴剣プロミネンス…溢れる熱い闘志を具現化させた守りの力の一つ…ピーキーな

彼を扱い、自分のものにすることが出来たのなら…また会いましょう…湊…。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(俺のことを知っているのか!?待ってくれ!あんたに聞きたいことが…)


まだある…そういう前に天の声は聞こえなくなり時間が元通りに動き始めた。

手にした剣を強く握りしめる。


暴剣プロミネンス…。

俺自身がどんなことになるか分からないが。

お前の力を貸してくれ。


……できれば、後々俺に実害が起こらない程度に、な。



 


続く…



 




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