4話:守るための力
「見つけたぞ、アリシア。さぁ、奪ったお宝をかえしてもらおうか!!」
「ん?」
アリシアの手が止まり俺の鼻先寸前で炎が止まった。
謎の症状で一瞬動けず死すら覚悟していた俺だったが、森の奥から出てきたモンスター達のおかげで助かった…いや、助かったとみていいのだろうか。
しかし、よく見てみるとあれは『
全身が体毛に覆われており、最低限腰回りに腰巻を付けているだけの恰好で手には剣や槍を持っている。
「何よあんたたち、私にブッコロされたいのかしら?今、少し良いから出血大サービスしてもいいわよ?」
アリシアは余裕の表情だが、俺は少し不安を覚える。
『
「ウオォォ~~~ン……」
始まりの森に大きな遠吠えが響いた。この森の動物たちは聞いたことのない遠吠えに脅え、鳥たちですら良く見えないはずの夜空に飛んで逃げて行った。
ズシッズシッ……何か重い音が彼らの後ろの森から聞こえてくる、木々がなぎ倒されその姿が月明かりに照らされる。
巨大な耳、大きく裂けた口、黄色く光る瞳、全身の毛が逆立ち周りの
『
他の人狼達よりも漂う『ヤバイ』と本能が感じるオーラを漂わせ歩いてくる。その眼は俺など眼中になく、アリシアただ一人を見据えながらやってきた。近づいてくるたびに大きな振動でその巨体が良くわかる。
「魔女アリシアよ…わが主である幻獣グリフォン様からの命令だ、貴様が奪った【赤の宝玉】を返せ。さもなくばその身体はバラバラになり、大地の養分となるだろう」
「さて?何のことかしら?色々とやってるから思い出せないわね」
ボスの鋭い刃のような視線をさも涼しげに返すアリシア、その余裕がどこからでるのか分からないがものすごく頼もしく見える。一方俺はというと、あまりの恐怖からその場で動けなくなっている…情けない。
「…われらの主は寛大だ…宝玉を素直に戻せば、軍門に招き入れ望むのなら妃にしても良いと言っておられる。貴様のような人間風情でもだ…」
「あら!どーもありがと♪――でも私は獣臭がプンプン臭う世界への嫁入りなんてお断りよ、さっさと帰ってみんなで夜のお散歩でもしてきたらどうかしら、わんちゃん達♪」
次の瞬間、ボスが右手に持っていた大きなサーベルがアリシアの居た場所に振り下ろされていた。
アリシアはそれを何事も無く避けると、お返しとばかり火炎魔法と打ち込んだが…威力不足なのか左腕が少し焦げただけで効いている感じは全くない。
「チッ…こんな時に…!」
「フンッ…グリフォン様が特別興味がおありのようで、私としても気になっていたのだが…この程度か!」
鋭い斬撃の連続切り、アリシアはギリギリのところで避けているが、反撃らしい反撃をしない。まるで攻撃ができない様な…
「フンッ!フンッ…フゥン!!」
「クッ!…きゃあ!?」
激しい攻撃に遂に体力が持たなくなったアリシアは避けきることが出来ずに、
「アリシア!!」
「うぅ…大丈夫よ…これくらい」
吹き飛ばされてきたアリシアを介抱しようと近づくが、それをアリシアが制止する。さっきまでの余裕はどこにいったのか、呼吸は荒く、避けているように見えた斬撃は至る所に小さな切り傷を作っている。
更に今の一撃で肋骨にダメージを負ったのか左の腹部を抑えながら立ち上がるアリシアをボスは下衆な笑みを浮かべながら見ていた。
「どうやら、もう魔法は使えないようだな…哀れ、魔法が使えぬ魔女など赤子同然。魔法に頼るからそのようなことになるのだ」
俺は小刻みに身体を震わせながら拳を握りしめた。
(俺のせいだ……!)
普通ならば勝手に追いかけて、勝手に魔法を撃ち続けて魔力切れを起こしたアリシアが悪い。お前は悪くないと思うだろう。
でも俺は、必要以上にアリシアをからかいながら逃げ回り、挙句の果てにこのような事態にしてしまった…何より女の子に怪我をさせてしまった自分に対して怒りを覚える。
ボスは手下に合図を送ると、アリシアの周りを囲ませた。囲んだ手下たちは各々自分の持っている獲物を取り出すと、エサを前に『待て』をさせ垂れているの犬のように息を荒げて待機している。
「孤高の魔女アリシア。このようにあっさり倒せるとは思わなんだ、非常につまらなかったぞ…後悔して死ぬがいい」
ボスが合図とばかりにゆっくりと手を上げ始める…
―――俺に…守る力さえ…あれば…!
ふと、俺の右腕の腕輪が静かに光始めているのに気が付いた。もしこの腕輪がさっきの声を聞かせたのならば…
力を………貸してくれ……!
***
「やれ」
ボスが合図をすると同時に手下が一斉に襲い掛かる。アリシアはギリギリまで残しておいた最後の魔力を使い迫りくる手下たちに火炎魔法を当てていくが…遂にそれもできなくなった。
突撃してきた手下の一人が剣を振りあげる、最後までボスを睨みつけていたアリシアだったが…諦めたように目を閉じる。
「ははっ…ツイてないな~今日の私、いやツイてないのは小さい頃からか…」
手下の振りかぶった剣がアリシアに襲い掛かり、ゴスッと鈍い音がした。
不思議と痛みは無く、うまく急所にでも入ったのだろうとアリシアは思った。それにしても…下級の人狼の剣はなまくらなのか、それとも自分の頭蓋骨が硬すぎなのかしら?と最後に自分がどうなったのかと、目を開けた。そこに映ったのは…
「よ、よぉ…お姫さん、やっとお目覚めですかい?諦めるのが早いんじゃないか…?」
先ほどまで逃げ回っていた相手が
お宝とアリシア自身をかけて勝負をしようとしていた相手が
アリシアと人狼の間に割って入りその攻撃を紅い刀身をした長剣で防いでいた。
人狼いきなりの乱入者に驚き困惑している隙をつき、湊は手にした長剣を真横に振るった。
「キ…貴様ッ!邪魔スル、ナッ!?」
次の瞬間、湊の攻撃を剣で受け止めようとしていた人狼の戦士の一人は近くにいた数体と一緒に自分の持っていた武器共々切り裂かれていた。
更にそのままクルっとアリシアの後ろに回り込むと、後ろから切りかかろうとしていた手下を、更に仲間が切られたことに恐慌状態に陥っていた手下達が次々と切り伏せられていった…
「「なっ……!?」」
アリシアとボスの声がシンクロした、それぐらいのことが目の前で起きていたのだ。
何が起こったか分からず目を丸くしているアリシアに旅人が手を差し出す。
「あんた…何を考えて、きゃっっ!?」
湊は自分の手を掴まないアリシアの手を掴んで強引に自分の方に引き込んだ、ふらふらの足取りのアリシアは勢いで湊に抱き着くような形になり赤面した。異性とここまで密着したことない彼女は突然起きたことにパニックになっていた。
「ちょ…ちょまま!?あああんた、ななななにをっしてえぇ!!!?」
そんなアリシアのことをお構いなしに湊は持っていた紅い剣を人狼のボスに向けるとこう言った。
「お前ら、俺の
人狼のボスは湊の言った言葉に憤りを見せ口元が歪んでいた。気づけばあれだけいた手下たちは一体残らず湊に切り伏せられていたのだから。
一方アリシアというと…
「はっ?///はっ?///なななんて?『俺の
顔を真っ赤にして頭から湯気が出るほど恥ずかしがっていた…のちに自分の勘違いだと気付くのだが…
続く…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます