6話:初めての勝利
「……ふっ!」
剣を両手で持ち、少しばかり後ろに構える…それから一呼吸おいてから人狼の強戦士に向かって突撃する。
一瞬にして目の前まで到達すると、そのまま切り付ける。
「ぐおぉぉ!!?」
「浅いか…」
油断していた
慣れない戦闘のせいか、一撃で仕留められる
「やるじゃないか!」
「おっとっと……」
攻撃をしてくる瞬間にバックステップをしてうまく避ける。
一本で足りないのか、斃れた手下のサーベルを拾うと二刀流の構えで再び切り付けてくる。
「久しぶりだなぁ!俺様に傷をつけられる奴が現れるのは!!」
「俺もあんたみたいな、強者は初めてだぜ!…本当に初めてなんだよなぁ…」
(不思議だ、あんなに早い攻撃だっていうのに見切ることが出来ている。っていうか身体が勝手に動いてくれるような…)
プロミネンスは長剣の割に軽く、思うがままに自由に振ることが出来る…まるで自分が振りたい方にアシストしてくれているように。
別に剣道やフェンシングと言った剣の様なものを使った習い事をやっていたこなんて一度としてない。
そんな俺がここまで動けるのは、この異世界で勝手に身に着いた身体能力と、この腕輪の力を手にしたからにすぎない。
おそらくこのプロメテウスは剣術の経験を多く積んだ精霊なり英霊の力が宿っているのだろう。
今まで戦う…というか喧嘩すらしたことのない俺がいきなり剣を振り回せるのもそのおかげだろう。
(さて、どうやって仕留めますかね…)
これだけの斬撃をさばき切れているのは確かだ…
だが、
いや、このプロミネンスの力を使いこなせない俺が悪いのかもしれない。
戦いが長引けば増援が現れるかもしれない、そうなると魔力切れのアリシアを守りながら戦うことになる。
……できれば、彼女をこれ以上傷つけたくない。
(暴剣プロミネンスさんや、何か打開策はないかね…)
【――いいだろう、身体を貸せ――】
俺の心の声に答えるかのように腕輪の赤い宝石が輝く。
一瞬だけ、俺の身体のコントロールをプロミネンスが支配する。
「ぬうぅ!!!!」
その次の瞬間、刀身に赤いオーラが纏い、辺りの空気を吸い込み始める。
空気を吸えば、吸う程にオーラの赤みが増していき、周囲の温度が上昇していくのが分かる。
落ちてきた木葉が刃に触れることなく一瞬で燃え、塵となる。どのぐらいの熱量になったのかは不明だが、最後には鍛冶場でこれから打ち直されそうなほどに真っ赤になっていた。
『【
真っ赤になった刀身のオーラが空気を切り裂きながら
「な、何だこの技は!?」
飛んできた刃のオーラをサーベルをクロスさせるようにして受け止めた
「ぐっ………うおおぉぉぉぉ!!!!」
そのままの勢いで
木の上や茂みの中で休んでいた鳥や動物たちが驚いて飛び出してくる…
『覚えたか?
ガクッと身体に自分の意識が戻った。
プロミネンス(意識)は腕輪の中に戻ったみたいだ…それにしても凄い威力だ。
威力もすごいが、俺の身体に憑依してからの動き…全くの別次元だった。
自分が如何に彼からの力を借りているのが嫌でもわかってしまう…
今後は自分を鍛えなければいけないと、思いにふけっているとぬうっと森の奥から大きな影が現れた。
「はぁ…はぁ…ハハハ!!!中々の一撃ではないか、坊主!」
「うぇぇ!?…マジか、あれでも倒せないのかよ!!」
飛行機が森林に突っ込んだ事故現場みたいな場所から、
胸板には最初にできた細い裂傷と俺《プロミネンス》が放った必殺技を受けた大きな火傷付きの裂傷が✖印の跡になっている。
のっしのっし…ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる、傷を負っているのか分からないくらい普通にだ。
俺は再び剣を構え…突っ込もうと一歩踏み出した時。
「ちょっと待て、降参だ」
「はい?」
「降参だっての、しっかしまぁ強いなぁお前!がっはっは!!」
突然の降伏宣言をする
**
「よっこらしょっと…」
大きな巨体の
お前たちも座れと言わんばかりに手招いている。
俺は警戒もかねてプロミネンスを出した状態でアリシアより少し前に座る。
少し前まで「殺す」とかやばいことを言っていた相手だ、いきなり襲い掛かってきてもおかしくはない。警戒にするのに越したことはない。
「今回は坊主、お前の強さに敬意を表してアリシアの持っている宝玉は諦める。だが次こそは渡してもらうからな」
「な、何なのよあんたは…いきなり乱入して襲ってきたと思ったら、今度は強さを認めたから見逃すってことよね?これだから人狼の考えることは分からないのよ…」
「
…本当にさっきまでの人狼の強戦士なのだろうか、雰囲気が近所に住むおっちゃんみたいだ。威圧感はあるけど、ほがらかな…そんな感じがする。
「なぁ…あんたの部下達を全滅させておいてなんだが、俺を恨んでいないのか?」
そこら中に転がる人狼の戦士達の亡骸を見ながら俺は言った。
どんな形であれ、殺してしまったのは事実であることに間違いはない。
恨まれても当然だと思う…そんな不安そうな顔した俺に
「坊主、さっきも言ったが強さこそが大事な種族だ。死ぬのは弱いやつ、簡単に死ぬような奴らでは次のボスにはなれないんだぜ?今でこそ俺はこいつらのボスだが、いつも手下共にはこう言っていた『俺の命を奪えるなら次はそいつがボスになれる。俺に勝てる力が付いたならいつでも来い』…とな。だから俺は恨んだりなんかこれっぽちもねえよ」
人とは社会システムが異なるのは分かる。
だがそれだけでこうも違うのか…
「坊主、虫は殺したことがあっても、大きな動物は殺したことないだろ?お前さんがどんな場所から来たかはしらねえが、これから先そんなことをしていると…死ぬぜ」
「………」
「さっきの一撃、やろうと思えば俺っちの首を吹き飛ばすことだってできただろうに、あえて硬い胸筋を狙っただろう?慣れろとは言わねえ、だが俺のように話が分かるやつらは殆どいねえぞ?だから…」
……さっきまでのシリアスなボスキャラはどこに行った……
「……そういや、坊主の名前聞いてなかったな」
「今更かよ!っていうかなんでだよ!教えた所で何になるんだよ!!」
「何でってそりゃ…次会った時に互いの名前を呼びながら戦いたいじゃねぇか。あ、俺っちはヴォルだ。よろしくな」
「何サラッと自己紹介してんだよあんたは!!」
思い出したように唐突に自己紹介を始める
この世界の奴らは変なのしかしないのか…?
「そういえば、確かにあんたの名前聞いてなかったわね…教えなさいよ」
人狼の強戦士の話をつまらなそうに聞いていたアリシアも聞いてきた。
「……
「「『アリス』だと!?」ですって!?」
俺の名前を聞いた二人は驚いた表情をした。
えっ?俺の名前はやっぱり変だったか?素直にミナトと名乗ればよかっただろうか…
「ハハハ!成程ねぇ…そういうこともあるのか…」
「な、なんだよ…文句あるか?」
それから『よっこいしょ』と言いながら立ち上がると俺に言った。
「いや、何でもない。次回会う時が楽しみだなと思っただけだ…それからアリシア、お前さんの件だがとりあえずグリフォン様には適当に言っておく」
「はぁ?……って、何よ貸しのつもり?」
「貸しなら坊主にあるだろお前は。俺がやられたと報告すれば次の資格がお前たちを襲いに来るだろう、だがそしたら俺がお前らを倒せないからな…そういう事だ」
ヴォルは最初に来た森の奥に向かって歩いていく。
途中落ちている部下のサーベルを拾うと空いていた自分の鞘にしまい込んだ。
「坊主、さっき言ったこと忘れるなよ」
そう言うと暗い夜の森へと入っていた。
嵐のように過ぎ去っていった彼を見送ると、俺の身体に急に疲れが出始めすごく眠くなってきた。
「ねえ、あんた。さっきの名前なんだけど…」
アリシアが何かを言っているが、俺自身の意識は既に無いに等しくフラフラと歩き出すが…自分で最後に見た光景は力なくアリシアに向かって倒れ込んだ…気がした。
戦闘が終わった森の中は動物や虫の声が聞こえ始めた、危険が無くなったと本能が察したからだろう。…戦闘が始まった時から見ていた影達がいた。
一つ目の影は、巨大な身体に全身隙間なく覆われた
二つ目の影は、黒いタキシードに身を包み蝶の形をしたマスクを目元に付け、かぶっているシルクハットには白い薔薇が刺さっている。
鎧の影はつまらなそうに近くに生えていた木の枝を折り、小さなナイフで彫刻をしている。一方で蝶の仮面をした影は興味津々で見ていた。
「で、どうだったい?違う世界からの訪問者殿の戦闘を見て」
蝶の仮面をした影は鎧の影に問いかける。
「ハッ!あの程度じゃ俺は楽しめそうもないけどな」
鎧の影は掘っていた彫刻を蝶の仮面をした影に投げる、それを受け取ると先ほどまで木の枝だったものがウサギの形を模したものになっていた。
「…相変わらず、手先は器用なようで」
「フン…じゃあな、俺は自分の所領に帰るぜ。魔王様には大したことないと伝えといておくぞ」
鎧の影は相手の返答を聞かずにゆっくりと消えて行った。残った蝶の仮面の影は兎の彫刻をコロコロと掌で転がすとそっと手で包んだ、すると彫刻はどこかへと消えてしまったようだ。
「君たちはもっともっと強くなってほしいな…いつか、私たちと対等に戦えるくらいにね…おやすみ、異世界の勇者と訳アリの魔女さん♪フフフ…」
どこからともなく突風が蝶の仮面の影がいる付近を通り過ぎる…不自然な突風は、そのまま森の中を突き進んでいく。風が止んだ時には影は消え去り再び虫と動物達の合唱が始まっていた…
続く…
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