1話:…悲しいけど、これ現実なのよね
「お母さん!見て、流れ星だよ!!」
「あら…本当ね」
その日の夕方、一つの大きな流れ星が各地で見られた。その流れ星は、とてもゆっくりと流れたこともあり、大勢が人々がそれを見たという。
「そういえば、流れ星にお願いをすると叶えてくれるのよ」
「え!そうなの!?えーっとね、えーっとね…」
この親子も上空をゆっくりと落ちていく流れ星を見ていた、赤々と太陽が水平線に沈んでいく中綺麗な尾を引きながら流れる星を。
「……はい!お願いしたよ、お母さん!」
「あら、なんてお願いしたの?」
「それはね……『早くこの世界が平和になってお父さんが帰ってきますように』って!」
「……うん、そうね。叶えてくれるわ、お星様がね…きっと…」
どこか遠くを見つめる母親は無邪気にはしゃぐ子供を連れて早足に家へ続く道を行く。夜になるとこの安全な地方でもモンスターが出現するからだ…
そう、ここは私たちの知っている現実世界とはまた別の世界になる…そして
『
*
「はっ!!?」
俺は勢いよく飛び起きた。いつものことだが、ゲームをやりながら寝落ちはいつものこととはいえ、何だがすごい夢を見た気がする…妄想癖とはこうして生まれてくるのだろうか…
やれ白い衣装の幽霊に世界を守ってくれと言われ、やれ別の世界に飛ばされる…まるでアニメやライトなノベルの主人公のようだ、馬鹿らしい。
少しゲームのやりすぎには注意しようと思い直し改めて周りを見ると……なぜかそこは見知らぬ森(?)の中だった。
「……夢からの夢か…じき目が覚めるだろう…」
俺はそのままゆっくり寝っころがろうとすると、そこらじゅうに生えている草がモサモサしてくすぐったい。その妙にリアルな感触が俺に不安を与えてくる。
「………異世界なのか、本当に」
改めて自分の右手を見た。手首にはあの白い幽霊が勝手に装着させていった腕輪がついている、腕輪というより金属製のリストバンドみたいな感じと言った方がいいかもしれない。
腕輪の真ん中には緑の宝石、宝玉が埋め込まれているようで、月明かりでもはっきりと緑色と分かるほどキラキラしている。
とりあえず外してみる―――おや、外れない。
『①コマンド→叩く、腕輪に0のダメージ!』
『②力を込めてありったけ、振り回す!腕輪に0のダメージ!』
『③祈る。しかし、何も起こらなかった…』
デンデンデンデンデデン、デデドン!
『この装備は呪われている為に外れません!』
「ふざけんな!外れねぇじゃねぇか!!」
しばらくの間、自分の腕輪と格闘していたが――あきらめた。体力がもったいないと思ったからだ。
ふと自分の恰好がいつもの学生服を着ていることに気が付く、それも冬用のブレザー着用タイプだ。上は紺色をベースに黄色いラインが入っている特殊模様のブレザーで、まるで雷を表現している風に見える。そんでもって下は白黒のモノクロトーンのストライプ柄である。制服…制服って何だっけ?
「まぁ、短パンにTシャツに比べればマシだけど…この冬着、RPGの衣装っぽくみえるからあんまり着たくないんだけどな…ってなんでこれ来てるんだ俺は…」
俺の通っていた学校の制服は、夏着こそはワイシャツとグレーのズボンでいかにもって感じの学生服だが…冬着にモデルチェンジするとまるでゲームの世界から来たような派手なブレザーとズボンを履く、ネットではコスプレ学校としても有名だ…コスプレじゃねぇし。
「これってマジで異世界の服だったとか!?ってことはここは本当に異世界ってやつなのか!?」
俺がいる場所は周りがうっそうと茂る木々が立ち並び、自分の周りだけがまるで開けたかのようになっていた、それに頭上もぽっかりと開き満月と夜空が見える。
空から降ってきた主人公的な感じ…なのかそうだなまるで
「ちょっと待て、ここはMMOのキャラクリが終わった後の『始まりの森』と同じじゃないか?あれも夕方から夜になるところから始まって、主人公がけもの道を進むと…敵がいて…」
俺がそこまで思い出したように呟いていると、少し離れた先に道らしきものがあるのが見える。これがゲーム通りに進んだとしたらあの先には敵がいるはずだ。
回り道を探すか?…だが周りにはとても人が進んでいけそうな道はなく、そもそも満足な装備も無い状態で森の中をうろつくのは自殺行為だとこの前やってたテレビの探検家が言ってたな…
「……行くか」
俺は決意して進むことにした、そのけもの道を。もし本当にこの先に敵がいるとしたら戦闘になる…当然ゲーム内の主人公は最初から最低限の武器と防具を持っているが、俺は丸腰と言ってもいい状態だ。
少しはマシだろうと思い、近くにあった棒切れを掴むと人が通れそうなけもの道を進む…この先の展開が自分の知っている結果じゃないことを祈りながら。
**
「流れ星が落ちたかと思って見に来たら…なんか面白そうな獲物をみーっけ♪」
湊がけもの道に入っていく頃、その姿を木の上から小型の望遠鏡で見ている人物がいた。その人物は自分が見たことがない衣装を身に着けた
「流れ星を売れば大金持ちになれそうだったけど、まぁあの珍しい衣装に~それに、あの腕輪っぽいの…あれを売ればそれなりの額になるでしょ」
そう言って謎の人物は傍に置いていた箒を自分の目の前で横にすると…なんと箒が宙に浮いていた。彼女はそれに腰を掛けると、慣れた手つきでゆっくりと空を飛び始めた。
「さーってと、お宝頂きに行くわよ…人の姿を真似た哀れな旅人さん♪」
太陽が沈んだ空には月が上り始めていた、その空をすーっと箒に乗った人物が滑るように飛んでいく。夜空に浮かぶシルエットはまさしく…魔女そのものだった。
続く…
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