ようこそ、RPG(ろくでもないプレイヤーとガールズたち)へ
エグニマ
序章:ここから全てが…
0話:ようこそ『MM0』へ
また一つ雷が落ち、部屋の中が稲光によって瞬間明るくなる――
私室…では無く監禁部屋である。
お情け程度にに敷かれたカーペットは至る所に穴が開き、コンクリート制の本来の床が見えている。
窓という窓には錆びついた金属の格子が埋め込まれ、その全ての窓は高さ3メートル以上の所に設置されているため外も見ることはできない。
生活感が唯一あるといえば、白いシーツのベットに素朴な木製の机と椅子。これらも所々黒いシミが浮かんでおり、今の部屋の主よりも前から使われ続けているのは明確である。
せっせと魔方陣を書く少女はどこか高貴な雰囲気がある衣装を身に着けているが、ところどころ破れていたり、汚れている。
彼女の腕には宝石が埋め込まれた腕輪が魔方陣を書く動きに合わせてキラキラと輝いているように見える…
彼女は、どこから見つけてきたのか手に持った白いチョークを使って、祈るように魔方陣を書いている。
『――出来た…』
出来上がった魔方陣を見て呟く。手に持ったチョークを傍らに置くと、小さく呟いた。それから両手を胸の前で重ね合わせるようにして強く祈ると――腕輪がそれに呼応するように光りはじめ同時に魔方陣が発光を始める。
「おい!今の光は何だ!?」
「分からん。だが何かをしているのは確実だ…おい、ここを開けろ!」
外から怒声と共に扉を叩く音が聞こえる。おそらく彼女の部屋を担当している看守達なのだろう、木製の扉が壊れんばかりに叩いている。
鍵こそは外側からかけることが出来る造りになっている扉だが、内側に開く構造が彼らが犯したミスだった。
少女がどのようにして動かしたのだろう、部屋に備え付けられていたベットや机を積み重ねたバリケードのおかげで中に入ることが出来ないようだ。
『――お願い、届いて…私の声が聞こえる方――そして――』
簡易的なバリケードでは外にいるモノ達が入ってくるのは時間の問題―――
少女が祈る力を強く込めると更に光が強く輝きを増していく…危機を感じたのだろう、部屋の扉が外から壊され始めた。
『異世界の英雄よ――――この世界を――――救ってください…!』
腕輪の光と魔方陣の光が部屋を覆い尽くすと同時に、バリケードと扉が粉々に砕け散り、看守と思われるモノ達が雪崩込んでいく―――。
―――――アリス様の祝福があらんことを―――――
*
「よーし、期末試験のテストを返すぞー」
担任教師が言ったその一言で教室が
「なんだなんだ~?ちゃんと勉強をしていれば問題ないだろう。じゃあ返すからな、赤点取ったら…夏休みは楽しい補習授業が待ってるからな」
周りのクラスメイト達はざわざわと騒ぎながら自分のテストが返ってくるのを待っている、いい点数が取れた優秀な奴は当然といった感じで戻ってくれば、赤点をとってしまい絶望感に溢れる表情で自分の席に沈んだ奴もいる。そして…
「次、
「あ、はい」
自分の名前が呼ばれた俺は渋々と立ち上がると教壇の前に向かう、このクラスは「あ行」の苗字が多く、俺の前に10人ほど先に呼ばれるほどだ…まぁ、関係ないが。
席の間を通り抜ける際に俺に聞こえない…と思っているほど小さな声でひそひそ話をしているクラスメイト達、正直もう慣れた。
「
「はぁ…どうも」
「褒めてるわけではないぞ、お前ならもっと上を目指せるぞ。」
担任より返された数学のテストとありがたいお言葉を頂いて席に戻ると、隣にいた幼馴染のクラスメイトがにやにやとしながら話しかけてきた。
「よっ!今回も平均点をとったみたいだな、平均男w」
「…そうだよ、赤点じゃないんだから問題ないだろ」
「まっ、そうだな。おっと、続きは
よし、帰りに軽くしばいてやろう。
…HR後…
「おっす、テストお疲れさん。今回は全体的に平均点高かったらしいぜ、お前さんの平均点もバラ肉から特上ロースくらいの価値があるんじゃないか?w」
「……何で肉に例えるんだ、意味が分からんぞ」
クラスメイトの一人、
ある意味で素の黒井が見れるのは俺だけってことになる…が、勘違いしないでほしいのは黒井は『男』だ。女子の制服を着ると身長の高い女子のようになるが、俺はノンケだ。もーほじゃない。
そんな欠点がないような幼馴染とは対照的なのが俺、
運動、勉強、その他――全てに置いて平均的な数値しか出せない特徴も何もない普通の…平凡な男子高校生だ。
黒井と比べられると何も言えないが…容姿は悪くないらしい(黒井談)身長だって平均より少し高い(数㎝)性格は…特徴がないので普通だが、まともな分類のはずだ。
――いつの頃かこの平均的な数値のせいで付けられたあだ名『平均男』のせいでいつも皆の笑いものにされているせいか、友達は多くても彼女は一度たりともできたことがない。悲しいなぁ…。
なんやかんやで今学期も終わり、明日から長い夏休みに入る。下校中の他の生徒も夏休みの話題で持ちきりのようだ。俺たちは今日のたわいもない話をしながら家路に向かっていると黒井の方からいつもの話題ふってきた。
「で、今夜もやるんだよな
「もちろんだ、今日から毎日徹夜でもいいぞ」
「ばーか、お前のペースにつき合わされたら俺も平均男になっちまうよ。やるのはいつも通りの時間だけだ」
他のことでは平均的な俺だが一つだけ平均以上のことをできるものがある、ゲームだ。そんな俺が今はまっているゲームそれは――
シングルプレイからマルチプレイまで多種多様な遊び方ができ、冒険に出て強くなりたい――アイテムを大量に生産して大金持ちになりたい――などプレイヤー自身が望んだことがある程度出来てしまうという内容から販売前より話題騒然だった。
俺は発売当初からずっとやっており、ゲーム内に存在するギルドと言った集会所の中ではかなりの有名人だ。シングルもオンラインも現在配信されている中で一番強いラスボス的なモンスターも一応倒したりしている、ストーリーも暗記済みだ。
テストの点数が平均なのも勉強を50%、
黒井もまたゲーム好きで俺が誘うと面白がってやり始めた、俺と違うのはしっかりと時間で区切ることだ。たとえ次でボスに会えるとしても時間がくれば今日の冒険はそこまで、しっかりしている黒井らしい。
「んじゃ、いつもの時間でよろしく。今日は俺のボスを退治するのを手伝ってくれよな~」
「おう、任せろ。一通り終わった俺に任せておけ」
「やりすぎだろお前w…あ、そうだ」
ふと、何かを思い出したように黒井がスマホを取り出すとどこかのサイトにアクセスするとひとつの記事を俺に見せてきた。
『ゲーム・オカルト――本当に起きたゲーム内の都市伝説』
……?。どうやらオカルト系のサイトのようだ、この手のサイトはよく見かける。俺もたまに似たようなサイトを見ていたりするが、殆どがネタやガセしかないだが……
「この前このサイトでさ、面白い記事見つけたんだよ。それもMMO関係で」
「なんだ?裏ワザやチートが簡単に出来るオカルトでもあったか?」
「違う違う、本格的なやつだよ」
黒井のスマホに映し出された記事「深夜のMMOに霊が声をかける!?」というものだった。
「…なんだ、これ」
「ふふふ…【深夜に部屋を真っ暗にしたままMMOをやっていた、とあるプレイヤーが突然画面がホワイトアウトし、故障か?とモニターを切ろうとすると…」
――助けて――
「と、女の声が聞こえるという】…らしいゾ」
「おう、なんでそれを俺に言い聞かせた、そして何で俺と同じプレイスタイルをしている奴の事例を言った、言え」
「いやー、どうせ廃人スタイルで部屋真っ暗でモニターだけがピカーって光ってゲームしてそうだから」
にやにやと笑う黒井、ほんとに一発殴ってやろうかと思った。
「どうせ、デマだろ。俺は一度としてそんなことはなかったぞ」
「…一度も、同じ状況で一度も無いんだな?」
「あぁ、配信日からやってるがそんな声を一回も聞いたことがない」
気のせいか一瞬黒井の顔からにやけが消えたと思ったがすぐにそれは戻った。
「んじゃ、問題ないな。とりあえず、今夜を楽しみにしてるぜ~廃人プレイの平均が見れると思うとなw」
「まだいうか、貴様」
ぎゃーぎゃーと騒ぎながら俺たちは学校から家に続くなだらかな坂を下りて行った、この日の夕日はいつも以上に赤く見えた。
**
時刻は間もなく深夜12時になろうとしている。さっきまで黒井の手伝いをしていたがいつも通り深夜前にログアウトした、ここからは俺の時間になる。
MMOは自由に遊べるRPGタイプで好きな職業を選び好きに遊ぶことが出来る、ある意味やめるタイミングが分からないゲームで中毒性がかなり高い。
俺はというと…戦闘少しとアイテム探索&製作がメインだ。新しい武器を作るにはお金がかかる、その為にはひたすらモンスターを狩るよりも自分でアイテムを作り、それを
「お、クエストの救援依頼か…『いいですよ』…と」
他のプレイヤーの手伝いをするのが日課のようになっている。
それから一時間あまりプレイし、一息入れるために自分の部屋にあるポットからコーヒー入れて飲んでいると、今日の夕方に黒井が言っていたことを思い出していた。
「深夜に聞こえる声…ねぇ。ははっ、いわゆる
こう真っ暗の部屋でよくある錯覚ってやつだ、暗い部屋から窓をみると、自分の姿がぼやーっと映って幽霊に見えた。きっとそんな感じだろう、ホワイトアウトしたがゲーム内はそのまま進行して女キャラクターの声がそう聞こえたのだろう。
「ゆえに、俺はその手の話は……あ?」
信じない…俺はそう言おうとした瞬間、俺の使っているモニターが急にホワイトアウトした。それも音もなく真っ白になり、若干光のようなものが画面から射し込んでいる。
「いやいやいや!モニターの故障だろ、電源を切って――切れない。なら電源を抜いて――も消えない――マジかよ!そうだ、黒井に電話して――」
スマホを使い黒井に電話するが…ツー…ツー…と音が聞こえるのみだった。
「圏外…ありえねぇ、いつもアンテナ三本立つだろおぉん!?」
唐突な怪奇現象に戸惑いを隠しきれない俺の前に、さらに信じられないものが見えてきた。それは、ホワイトアウトしたモニターから映し出されたように音もなく俺の目の前に立っていた。
「―――――ッッ!!」
『――たすけて――』
そうつぶやくのは全身が真っ白な服を着た少女だった。年齢こそわからないが、おそらく自分と同じかそのくらいだと思う、実際にいたらすごく可愛いぞ。
長く伸びた後ろ髪は腰まで伸び、反対に前髪は顔が見えるようにきれいに整えられている、お人形さんかな。服というかはまるで衣装のようだ、まるで中世のヨーロッパを意識したドレスのような…むしろコスプレっしょ!??
ってか何でいちいち説明口調なんだよ!絶対これ早口で喋ってるよな俺!!
『――お願いします――私の――声が――』
俺が真っ白な幽霊を混乱した頭の中で実況解説をしていると再び何かを言っている、今度ははっきりと聞こえる、それになんだか姿もはっきり見えてきたような――。
『助けて下さい、お願いします。私の声が聞こえる方、どうかこの世界を救ってください』
始めてみた幽霊に全身の汗腺から汗という名の汁がとめどなく湧き出る、一言も喋れなくなる状況で深呼吸をすると…俺は勇気を絞り話しかけていた、目の前にいる訳も分からない幽霊(?)に……
「な、なぁ…世界を救うってなんだよ?」
『!?、私の声が分かるのですね!?やっと、見つかった…』
「……はい?」
すっとんきょうな声を出した俺のことなどおかまいなく、真っ白な少女は嬉しそうに安堵を吐いた。それから俺のそばに…それも音もなく近づくと自分の腕に着けていた腕輪を外して俺に手渡した。
突然のことで驚きを隠せない俺とは裏腹に少女は短く伝えてきた。
『私がこの腕輪を私の声が聞こえている方にお渡しする頃には、私はどこか遠く暗い場所に幽閉されていると思います。どの世界の方かは存じませんが、お願いします。この腕輪を身に着け私たちの世界を救ってください』
「あのー…すみません。全くお話の内容が理解できないんですが…」
「申し訳ありませんが、残された時間はほとんどありません。今すぐに転送を――」
「いやいや!待って待て、話の内容がさっぱりだ。くわしく説明をしてくれ、これはゲームの演出の一つなのか!?それに俺はだな…」
―英雄的なことができる能力を何一つ持ってない…と言おうとした時だ。
少女から渡された腕輪はまるで吸い付くのように俺の右手首にくっ付いた…って、おい!ふざけんな、離せコラ!
『…これからお連れします世界はどこも危険…ですが、その中で比較的安全な場所にお送ります。いつの日か、お会いできることを…祈っております…』
最後にそう伝えた彼女の身体は粒子の粒になり消えていく、それと同時にホワイトアウトした画面から射し込む光がだんだんと俺の方に向かって伸びてくる。俺は急いで逃げようにもドアも窓も開かず腕輪も取れずもがきにもがいていた。
「うおぃ!勝手に話を進めるんじゃねぇ!俺をまきこむんじゃねぇ…」
俺の最後の言葉が届くとか届かないとかそんなことはお構いなしに光は俺の全身を包み込んでいった……
***
「へぇ…まさか、君が選ばれし者だったなんてね、予想外だよ」
深夜、ほとんどの人が寝静まり真っ暗になった町並み。その中電柱に立つ人影があった通常ではありえないことだ。
気のせいだろうか…まるでその周辺だけが時間が止まったかのように静かで動くものなに一つもない。
先ほどまで出ていた満月の光がどこからともなくあらわれた雲に隠され、その人物がどんな姿をしているのか全く分からない。闇夜に響く声は誰に向かって言っているのか…
「君のことだ、きっと…すぐに会えるよ。向こうの世界ではどんな面白いことになるか楽しみだよ…平均君」
満月に掛かっていた雲がすーっと消え、再び月の光が辺りを明るく照らすと…電柱にいた人影は消えていた。そして、時間が動き出したかのように車や人が行き来し始めた。
続く…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます