70歳の大谷翔平と、ビビリな犬。(猫好き閲覧禁止)

俺はカンチ。

フレンチブルドック。

ばあばのチヨさんを神と崇める犬である。

俺はチヨさんの前ではプロ彼女ばりのプロ犬だ。

俺はチヨさんには絶対にわがままを言わないし、いい子でいる。

だからチヨさんの一番の友達であるヨシエさんにも絶対に吠えない。



チヨさんはいつも畑仕事がひと段落すると縁側に座ってみかんを剥く。

半分を自分に、そして半分を俺に。

これが俺がチヨさんを崇拝する理由。

しかし実はもう1つ、チヨさんの前でいい子でいなきゃ理由がある。


俺が犬だと自覚して、ぎこちなくも「ワン」と吠えられるようになった頃のある日。

(「ご近所カラスと猫と勘違いな犬」より)

チヨさんはいつものように縁側に座って休憩していた。

俺は、チヨさんの横で座布団に伏せていたいつもの昼下がり。

縁側から見えるのはお家の幅くらい広い畑。

手前には、天国のじいじ用に育てているお花。

奥は野菜と、生ゴミ堆肥。


チヨさんが縁側にいると、人気のないことを嗅ぎつけた野良猫がやってくる。

アイツらは、生ゴミを漁りにくるのと、チヨさんの畑にシッコしにくる。けしからん奴らだ。

俺は脅かしついでに吠えてやる。

「ワン!」


しかしアイツらは俺を見下している。

「また室内の軟弱なブサイクがこれ見よがしに吠えてやがる。」

くらいの冷たい視線を送っては、生ゴミ漁りを続行する。

全く動じない。



俺が外飼いで、横にいるのがユウタだったら。チヨさんのために今から走って行っておっ払うのに!

「ワン!」

「何をなくだね?」

チヨさんが俺を見る。

そして俺の視線の先の猫に気づく。


その瞬間…。

猫を見るチヨさんの横顔が鬼のように変貌した。その顔は般若そのものだ…!


「こら!!何やってるだねッッ!!入るじゃないよ!何度言われたらわかるだね!!!」

猫に本気で怒るチヨさん。

ユウタに怒る同じテンポで本気で怒る。

猫はびっくりして逃げて行った。


そりゃそうだ。

俺でも恐ろしいと思うのだから。

いつかユウタがアンビリーバボーを見てる時言った。

「俺小学校のときこの世で一番怖いのは幽霊よりもばあちゃんだと思ってた。」

俺はこの優しいチヨさんから連想できなかったが…

納得である。


しかし。

田舎の猫はなかなか図太い。

アイツらは「人間がおいらを轢いたら人間たちの方が嫌な思いをする」ということをわきまえている。だから平気で道路の真ん中に寝そべって退きやしない。


だからだんだんチヨさんの本気の叱りにも動じなくなった。

ある日2匹の猫が畑に入り込んで来た。

この前怒られた猫とボスっぽい猫だ。

「ワン。(逃げろ!般若がお怒りになるぞ!)」

猫は動じない。

チヨさんがまた怒る。

「こら!!何やってるだねッッ!!入るじゃないよ!何度言われたらわかるだね!!!」


1匹は動じたが、ボス猫は一瞬こちらを見て

「ばばぁがほえてるぜ。」くらいの視線だ。動じない。

その瞬間チヨさんが足元の庭石を拾った。


シュッ!


!?


「にゃ“!!!」

驚くほどの剛速球で投げられた石が猫に当たった!(多分まぐれ。)

……マジか!!


命中したのがまぐれだったとしても、なかなか衝撃的な光景だった。


チヨさんの命中率と剛速球はプロ野球選手ばりだ。みかんで俺のハートを撃ち抜くチヨさんはピッチャーとしても現役。

もうこれは二刀流。

70歳の大谷翔平だ…!!


しかしながら

俺は……

猫の気持ちになっていたたまれなくなった。

と同時に猫じゃなくて本当に良かったと思った。

あんな剛速球を食らったら俺は…

情けなさすぎて明日から生きてはいけない!



これは想像に過ぎないが。きっとこんな感じだった。

ある日の昼下がり2匹の猫がうろつく用宗。


猫兄貴:今日あそこの生ゴミ漁ろうぜ!!

猫舎弟:いや、兄貴ダメですって!あそこのうちは!ブサイクな室内犬と、こえーばばぁがいるんすよ!!


猫兄貴:お前、野良の誇りはねーのか?ブサイク犬って言ってもあいつは室内犬で飼いならされてるから追っかけてこねーよ。

ばばぁだって70だろ?俺らの方がすばしっこいにきまってる。


猫舎弟:いえ、ちがうんす!とにかくやばいんす!やめておきましょうぜ兄貴。


猫兄貴:お前は猫のくせにチキンだな。鳥なみw俺が誇り高き野良猫根性を見せてやるついてこい!


〜〜〜〜〜


カンチ:ワン!(逃げろ!般若がお怒りになるぞ!)


猫舎弟:ヒェーまた吠えてるでやんす!

猫兄貴:ブッサイクが吠えてるぜ。

チヨさん:「こら!!何やってるだねッッ!!入るじゃないよ!何度言われたらわかるだね!!!」


猫舎弟:ヒェーでた!!!兄貴マジでやばいんす!はやくづらかりましょう!!


猫兄貴:70のババアだろう?追っかけてこれねーよ。それにしてもヒステリーだなwww


猫舎弟:と、とにかく俺は先に逃げますからね!!

さささ。


シュッッ!!


猫兄貴:にゃ“ッッ!!


という会話があったに違いない…。



俺は本当に猫じゃなくてよかった。

とともに


チヨさんには絶対に歯向かわないと心に決めた。

俺は、俺は!

犬なりに犬らしく!絶対にいい子でいる!!


70歳の大谷翔平。完










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