浮き輪で泳ぐ残念な犬。

俺はカンチ。

フレンチブルドックである。

フレンチブルドックは一応猟犬としての素質があるらしい。

しかしながら俺はどうも運動神経が鈍いようだ。

最近気づいたが持久力がない。

畑を走るとつまづいてこける。

階段を登れない…。

このことについては、俺が悪いんじゃない!足が短いせいだ!!(多分)


用宗に来て3度目の夏が来た。

最近窓を眺めていると、ゴールデンレトリバーのリリーがびしょ濡れで歩いているのをよく目にする。

あいつはなんでびしょ濡れなんだ?

風呂にでも入ったのか?

俺は風呂の後はいつもドライヤーで乾かしてもらているが。

長毛はドライヤーで乾かないのだろうか?


用宗は用宗海岸がある。

一部の区域は海水浴場にもなっている。

ユウタと散歩していたある日、リリーが海を泳いでいるのが見えた。

すげー!すげー!

俺は興奮してワンワン吠えた。

(最近ワンワン吠えられるようになった。)

「なんだよ?カンチも泳ぎたいの?」

ユウタがきく。

俺はいつも波打ち際を歩くだけだったから、泳げるリリーがかっこいい!!

リリーは浜へ上がって飼い主のところでブルブルしている。

わほ!

俺もアレをユウタにやりたい!!ブルブル!


そしてついにその時が来た。

「ヒロコー。カンチと海行かね?」

「いいよーいくー。」

そして2人は高校生なのでもちろんスクール水着な訳だ。

ジモティはおしゃれして用宗海岸に行かない。

ビキニで歩いているおねーさんたちはみんなだいたいよそ者だ。

しかしながらジモティはスクール水着にTシャツを着る。(多分そういう類の変態防止だ。)

で、俺はもちろん全裸な訳だ。


張り切ってユウタを引っ張って海へはしった。

「お兄ちゃん、カンチって泳げんの?」

「猟犬だし、犬ってみんなおよげんじゃねーの?」

そうだ!犬をなめるな!

俺もリリーも犬だ!!

「泳げない犬とか聞いたことねーよ。」

ユウタが言った。


俺は海へ向かって走っていく!

だがしかし!


波のうねりにびびり、尻もちをついた。

ザパーン。

「!!!」

俺はびしょ濡れになって、おまけにチビって。

ヒロコへ駆け寄った。


こえーこえー!!

なんだアイツ!!

襲ってきやがったなんだアイツ!!

びびった挙句に、大事な耳に水が入って気持ち悪いったらない。


びしょ濡れのちびりの情けない犬を見て

ユウタもヒロコも唖然。


そう。俺は、

波をこえられなかった。

泳ぐどころの話ではない。

ブルブルする気も起きないほどメンタルがやられた…。



そこでユウタが俺を抱えて波のないところまで行ってくれた。

ヒロコもついてきた。

俺の脇を持って海に離そうとする。


見てろ!俺の華麗なる犬かき!!

必死に前足と後ろ足でかく。

かく。

かく!

必死に掻く!!!


「!?」俺。

「!!!」ユウタ、ヒロコ。


俺は顔の半分まで沈んだ。

しかも同じ場所から移動することなく。


おかしい。俺はリリーと同じ犬なのに。

犬なのに!

同じ犬のはずなのに!!


もう一度やっても結果は同じ。

顔の半分まで沈んだところでユウタに引き上げられた。


俺は、泳げないことを自覚した。

そう俺は稀に見る運動神経が鈍い、

泳げない犬だったわけだ。



ユウタとヒロコが海で遊んでいるのを見ながら、俺は水たまり程度の波打ち際で悔しさのあまり2人に吠える。

チクショー。

チクショー。

こんなはずではなかった!!


「カンチかわいそうだな。」

「うん、でも泳げないし。」


後日。

ユウタが何やら大きなビニールに空気を入れていた。

俺は得体の知れないビニールに噛み付く。

「わ、やめろカンチ。ばか。」

「ガウガウ。」

「穴空くだろう!泳げないお前のために買ったんだから。」

俺のため?

俺のため?

コレは俺のおもちゃらしい。

「ヒロコーいくぞー。」

「うん行くー。」

2人はまたスクール水着だ。

俺はもちろん全裸。

空気を入れた青いソレは

飛行機型をした浮き輪。

真ん中の穴はビニールが貼ってあり2つの穴が空いている。

(幼児用の足をはめる穴がある浮き輪)


波のない海へまた抱えられて、その浮き輪の穴のふたつに後ろ足をはめられた。

おおおおおお!!

これは!

これなら沈まない!しかも後ろ足だけ掻けば進む!

俺は浮き輪で泳げる犬になった。


海に浮かぶとはなかなか気持ちがいいもんだ。


側から見たら

海に犬が浮き輪で浮いている。

ライフセイバーもびっくりな光景だ。


俺はカンチ。

俺は犬なのに泳げない犬である。

悔しいが認めよう。


だがしかし!!


浮き輪を乗りこなせる貴重な犬である!!





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