No.10『はないちもんめとかごめかごめ』
昼休み。俺は大抵教室の自分の席でお袋が作ってくれている弁当を食べるのだが、ちょっとばかし……否、かなり抜けているお袋はかなりの頻度で寝坊し、弁当を作ってもらうことが出来なくなることがある。そんな日は昼食代が渡され、購買でパンを買うことになる。
そして今日、俺は俺より遅くに起床したお袋から受け取った千円札をポケットに裸のまま入れ、購買に訪れていた。この購買も
兎にも角にも俺はカツサンドと食後のデザートにプリンを買って購買を出た。
するとそこで廊下をケラケラ馬鹿笑いしながら歩く見知った顔二つが視界に入る。ソイツらは俺を認識すると、『おっ。オモチャ発見』みたいな顔をして、大きく手を挙げた。
「よぉ〜っす汚れ役ん!」
「……よぉ」
「ちょ、反応してよ! ウチが穢谷くんのこと間違った呼び方してることに対してちゃんと反応を返して!」
「あひゃひゃひゃひゃ! 穢谷くん、
俺の
「はぁ……んで、何の用? 俺は今ボーッとすることに全神経を集中してるところなんだけど」
「それ要は暇ってことだよね?」
「ボーッとしてるのか集中してるのかどっちなのそれ」
クスクスと笑って楽しげな二人。俺の思うところをツッコんでくれて少し嬉しい。
「まぁ別に大した用は無いんだけどねー」
「穢谷くん見つけたからにはイジりにいくしかないからねー」
「お前らもなかなかの暇人だな。俺に構い出したらそのうち陽キャから転落するぞ」
「大丈夫大丈夫! 逆にウチらが穢谷くんを陽キャに引き上げるから」
それは無理な話でしょうね。そもそも俺自身が陽キャになりたいと思っていないわけで。
「でも結構マジな話、穢谷くんには陽キャになれる素質めっちゃあると思うよ?」
「ほぉー、例えば?」
「まず顔かな。ブサイクじゃ無いけどめちゃくちゃカッコいいわけでもない中途半端な感じ」
「結局顔か……」
「当たり前やーん! 穢谷くん、ブサイクが陽キャってかなりの確率であり得ないことだからね?」
「ブサイクと友達になりたいかって言われたらなりたくないしねー。男もそうだけど女の子の友達は特に。世の中ホント顔だよ」
華一の言葉に付け足すようにドギツイことを言う籠目。流石は交友関係浅く広くモットーの言い出しっぺだ。
「じゃお前ら俺がドブスだったらこうして話してねぇってのか?」
「そこがポイントなんだよ穢谷くん!」
「おっ、おぉ……ポイント?」
籠目からの陽キャ特有の距離感に俺はたじろいでしまう。近い近い近い、女の子の匂いが嫌でも香ってくる。陽キャってなんでこんな人に接近出来るんだろうか。陽キャにパーソナルスペースという概念存在しない説浮上。
「話をして面白けりゃ少し顔悪くても大丈夫なんだよね」
「なんだそりゃ」
「ちょいブスでも話してて面白ければ不快じゃないでしょ? これ男から見た女もそうだし、その逆もまた然りなわけ」
「穢谷くんの場合、顔は中途半端に良くてそれで話してて面白い! 陽キャの素質アリアリだよ!」
「そりゃどーも。でも俺は現状に大満足なんでね。たまーにお前ら陽キャ二人組と話すくらいがちょうどいい」
「えーなにそれ〜///! ウチらがいれば満足ってかー!?」
「ハッ! まさか今のは穢谷くんなりの口説き文句だったのか……っ!」
「お前ら、毎日楽しそうだなー」
コイツら悩みとか絶対無い。絶対ってことはあり得ないから親父に絶対だけは言うなって言われてきたけど、今回ばかりは使わせてもらう(過去にも全然普通に使っている)。
「ダメだぞ穢谷くん。穢谷くんは
「だぁからなんでいつもいつも
「だって今でもアレしてんでしょ? ボランティアみたいな」
「あー。まぁそうだな」
校長からの面倒ごとをボランティアだと何度も嘘吐いてきたおかけでそれが浸透してきているようだ。
「今も文化祭実行委員の雑用やってるよ」
「ほっほぉ〜。それで、朱々との仲はどんな感じ〜? 進展してる?」
「進展も何もそもそも関係を発展させようと何か行動してるわけじゃないしなぁ……」
ただ、ついこの間春夏秋冬の方からお互い丸くなったよねと言ってきた。ぶっちゃけ突然問われた時はビビったが、まぁ実際その通りなわけだったから俺は否定せず正直に春夏秋冬への気持ちの変化を春夏秋冬の前で話した。あんなに小っ恥ずかしかったのは初めてだ。
そうだ、すっかり忘れてた。初〆に脚本の催促をしなくてはいけないんだった。ホント自分に関係ないことはすぐ記憶から消しちまうな。そろそろ日常生活に支障きたしちゃいそうなくらいの忘却レベルなんだけど。
「あ、そういやお前ら五組だったよな」
「うんそだよー。なんで?」
「お前らのクラスの文化祭実行委員の名前、何?」
前回前々回の文化祭実行委員会の時に聖柄や諏訪と仲良さげに話していた五組の文化祭実行委員。俺はソイツに会ったことも会話したこともあるはずなのだが、どうしても名前が思い出せずずっとモヤモヤしていた。
俺の問いに華一は顎をつまんで目を閉じ、うーんと唸る。
「えっとね……誰だったかな」
「
「おぉ~流石は
「げっへっへ~、匁様程じゃぁありやせんよ~」
「なんかいつもと流れが違う……」
久々に見たと思ったら、伝統芸(二人曰く)の言葉が変化している。前は華一が籠目に対していつもありがとねと感謝の言葉を述べ、そこに籠目がお互い様だよと言うのがお決まりだったはずなのだが。
「いつまでもウチらが同じフレーズで満足してると思ったら間違いだよ穢谷くん」
「そーそー! マンネリ回避にもなるしね!」
「さいですか……。にしてもそうか、
思い出した、
「てかなんでそんなこと訊いてきたん?」
「別に大した理由はねぇよ。ただ名前思い出せなかっただけ」
「「ブフッww!」」
俺が表情を変えずにそう言うと、その感じが面白かったのか二人は吹き出した。
「相変わらず人のことに興味無いんだね〜」
「
「アレはしゃーねぇだろー。聖柄のこととかどうでも良かったし」
「でも名前は気になったんだ?」
「ま、俺の中で聖柄はどうでもいいヤツからいけ好かないヤツに変わりつつあったからな。嫌いなヤツの名前は覚えておくタイプなんだよ」
「こっわ! それいじめられっ子がいじめっ子に後々大人になってから報復するタイプのヤバイヤツじゃん!」
二人はケラケラ笑いながら俺の発言にいくつかツッコミを入れる。『綾のこと嫌いとかサラッと言うなし!』とか『同じ部活のウチらの気持ち考えろw!』だとか。
俺はそれを一通り聞き入れ、二人が落ち着いたところで切り出す。
「んじゃ。俺そろそろ戻って飯食うわ」
「あ、待って待って。最後にひとつ、これを言っておこーう!」
「……なに?」
「穢谷くん、ウチらに会った時何か用かって訊いてきたでしょ?」
「あー、うん。それが?」
「いいかい? 理由もなく、ただ何となくお話したくなるのが友人ってもんなんだぜぇ」
「よっ! 匁さんかっくぃー!」
謎にドヤ顔を決め、俺に向かって人差し指を立ててくる華一とそれを囃し立てる籠目。コイツらここが他の生徒もたくさん通る廊下だってわかってんのか?
だけどそうか。理由もなく、ただ何となく話をしたくなるのが友人か。俺はいつの間にか、コイツらの広く浅い交友関係の内に入れられていたらしい。
片方が友人だと思っていて、片方は友人だと思っていない場合、それは友達関係にあると言えるのだろうか。友達の出来た経験がない俺に、その答えを導き出すことは出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます